花王株式会社(社長・長谷部佳宏)生物科学研究所は、皮脂中に含まれるRNA(皮脂RNA*1 )の発現情報を類似度で分類し、皮膚機能にとって重要な遺伝子のRNA発現量が異なる少なくとも2つの肌タイプが存在することを発見しました。さらに、この肌タイプは年齢や主観的な肌質(乾燥肌・脂性肌など)とは関連のない独立した分類であることも見いだしました。
花王は今後、この肌分類を、肌を客観的に理解したり、最適な製品やスキンケアを選択したりするための新たな指標として広く活用することをめざします。
今回の研究成果は、第1回日本化粧品技術者会学術大会(2023年12月5~7日・埼玉県)にて発表し、最優秀口頭発表賞を受賞しました。
花王は、2019年に皮脂中にRNAが存在することを発見し、あぶら取りフィルムで肌を傷つけることなく、顔の皮脂を採取し、そこからRNAを抽出して網羅的に解析する「皮脂RNAモニタリング」技術を開発しました。DNAは一生変化しないその人固有の情報であるのに対し、RNAは、体調や食生活、運動、ストレス、紫外線といった環境要因によって日々変化するので、その時々の肌状態を知るのに有用であるといえます。
花王は2022年春から、株式会社アイスタイルと共同で、皮脂RNAの発現情報が似ている人をグルーピングし、好まれる化粧品の傾向を探るという検討を開始しました*2 。この取り組みでは、RNAをもとにした肌タイプというひとつの客観的な指標を用いることで、自分の肌に合う化粧品を効率的に選択し、最適なスキンケアへと結びつけることをめざしています。
今回は、こういった取り組みの基盤となる皮脂RNAの遺伝子発現特徴をもとにした肌分類の開発、およびその特徴の一端を明らかにする検討を行いました。
花王は、2019年1~2月に20~59歳の女性105名から採取した皮脂RNAから約2,300種のRNA発現情報をもとに、階層クラスタリング解析*3 を実施しました。その結果、RNA発現の類似度に基づいた2クラスタが存在することが確認できました(図1)。
それぞれのグループに特徴的な遺伝子の機能を明らかにするために、グループ間で皮脂RNAの発現量に明確な違いが認められた662種の遺伝子に注目し、エンリッチメント解析*4 を行いました。その結果、グループ1で高発現するのは「免疫応答」などの皮膚免疫機能を担う遺伝子、グループ2で高発現するのは「角化」などの皮膚バリア機能を担う遺伝子であることを確認しました。また、これら2グループは年齢の偏りが認められず(図2)、本人が申告した肌質(脂性肌・乾燥肌・混合肌・普通肌)とも関連のない、独立した指標であることが示唆されました(図3)。さらに同じ人であっても、採取タイミングによって分類されるグループが変化するケースがあることも確認しています。
今回、皮脂RNA発現情報の類似度によりクラスタ分類を行った結果、「免疫」「角化」などの皮膚の機能に重要な遺伝子の発現を特徴とする少なくとも2つの肌タイプが存在することが明らかになりました。皮脂RNAモニタリング技術を活用したこの分類は、生体分子情報に基づいて肌を客観的に理解する“肌の分類指標”として利用できる可能性があると考えます。
花王は引き続きこの分類軸に関する知見を深めていくとともに、RNA発現情報に基づく肌タイプ分類を広く活用することで、ビューティ領域の新たな体験価値を創出することをめざしていきます。