発表資料: 2023年12月07日

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1000本以上の皮膚毛細血管を一度に可視化し定量化する新技術
肌・全身の健康状態や変化の把握に利用できる可能性

花王株式会社(社長・長谷部佳宏)解析科学研究所・ヘルス&ウェルネス研究所は、広視野で多数の皮膚毛細血管を撮影し、深層学習を用いて毛細血管の数や面積を算出する技術を開発しました。さらに、この技術を用いて、実際の肌における毛細血管の個人差や部位差、刺激への応答性の違いを確認することができました。この成果は今後、肌や肌にあらわれる健康状態の把握、毛細血管の反応を考慮した製品の開発・提案に役立つと期待できます。

1000本以上の毛細血管を一度に可視化し定量化する技術の説明イメージ図

今回の研究成果は、千葉大学フロンティア医工学センター羽石秀昭教授との共同研究を応用したもので、2023年10月24日、国際光工学会(SPIE)が発行する学術誌Journal of Biomedical Optics*1 に掲載されました。

背景

血管は栄養や酸素などを運び不要物を回収する通り道で、体の隅々にまで網目状にはりめぐらされた最も細い血管が毛細血管です。皮膚毛細血管の状態は生活習慣や疾患により変わることが知られており、体の外側から観察が可能なため、花王はその評価が肌や全身の健康状態の把握に利用できるのではと考え、研究を進めています。
毛細血管は毛髪の10分の1程度と非常に細いため顕微鏡で観察することが一般的ですが、高倍率で拡大すると視野内の毛細血管数は限られてしまいます。一方で、毛細血管の形や内部の血流状態はばらつきが大きいため、評価の観点ではある程度の数を一度に捉える必要があります。
そこで今回花王は、広い視野と、微細な構造を捉えられる解像度を両立し、一度に多数の皮膚毛細血管を撮影できる装置の開発に取り組みました。さらに、得られた画像から皮膚毛細血管を検出し定量化する解析方法も検討しました。

広視野で膨大な数の皮膚毛細血管を観察できるデバイスを開発

広い視野と微細構造を捉えられる解像度を両立するには、画素数の大きい画像を撮影できることが重要です。そこで、4K画質(3840 × 2160 画素)よりも高画素数 (4000 × 3000 画素) のカメラに最適なレンズや照明を組み合わせました。また、毛細血管自体は透明なので、位置や構造を観察するには血管内に流れる血液を目印にする必要があります。しかし毛細血管の血流は断続的で常に血液が充満しているわけではないため、ある時点の画像1枚では全貌を捉えることはできません。そこで、動画で同じ場所を撮影し、その画像を重ね合わせることで血流の軌跡から毛細血管領域がつながった画像を得ることをめざしました。デバイス本体は、肌に押し当てて撮影することが容易なハンドヘルド型としました(図1)。

図1。広い視野で膨大な数の毛細血管を観察できる、新規開発したデバイスの外観写真

図1. 開発したデバイス

このように構築したデバイスで肌を撮影し、画像処理の方法を種々検討した結果、視野全体で多数の毛細血管を一度に可視化できました(図2)。

図2 開発したデバイスで撮影した皮膚毛細血管画像の例。右は拡大図。

図2. 開発したデバイスで撮影した皮膚毛細血管画像の例

画像から深層学習を用いて皮膚毛細血管の数と面積を定量化

毛細血管の状態と肌や組織の状態の関係を調べるためには、画像から血管の数や面積などを適切に算出し定量化する必要があります。そこで、深層学習を用いて、画像から毛髪やシミなどを不要な要素として区別し、膨大な数の毛細血管を自動的に検出する人工知能を作成しました。
撮影した2つの画像例について、手動で毛細血管領域を白く塗った画像と深層学習による自動抽出画像を比較した結果、毛細血管を検出できていることが確認できました(図3)。これにより、1000本以上の毛細血管の数や面積を自動的に算出・定量化することが可能となりました。

図3 開発したデバイスで撮影した毛細血管の拡大画像から、手動で毛細血管を白く塗った画像と深層学習で自動抽出した画像を比較。

図3. 毛細血管画像の部分拡大と、血管領域抽出結果

毛細血管の個人差・部位差、肌の刺激への応答の違いを評価できる可能性

開発したデバイスで4名の前腕内側部を撮影し毛細血管数を算出した結果、同じ人でも数cm離れた場所では値が異なること、部位ごとの平均値は人によって異なることがわかりました。
また、テープで4名の前腕内側部7カ所で角層を数回剥離し、軽微な炎症に似た状態を作った前後を比較すると、毛細血管の数や面積が変化すること、その変化は人により異なることが確認できました(図4)。これは、同じ環境変化に対する血流の応答が人によって異なる可能性を示しており、同じ刺激で肌状態が悪化・改善する人の違いや、スキンケアの効果の違いなどの理解につながると考えます。

図4 刺激前後での毛細血管本数の変化

図4. 刺激前後での毛細血管の数の変化

まとめ

今回、従来よりも膨大な数の皮膚毛細血管を撮影し、深層学習により数や面積を自動的に算出する画像解析技術を開発しました。今後、この方法を用いて人や部位ごとの皮膚毛細血管を評価し、肌や健康状態、製品使用後の変化との関係を調べることで、最適なスキンケアやヘルスケアなどの提案ができるようになることが期待されます。

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