花王株式会社(社長・長谷部佳宏)ハウスホールド研究所・生物科学研究所は、唾液に含まれるアミラーゼを指標とすることで、簡便に唾液飛沫の付着場所を特定する方法を確立しました。この技術を応用することよって、効率的な衛生管理が可能になることが期待できます。
今回の研究成果は、国際学術誌Journal of Infectious Diseases & Therapy*1 に掲載されました。
新型コロナやインフルエンザなどの感染症では、感染者のウイルスを含む唾液飛沫が物に付着し、それを非感染者が触ることで体内にウイルスを取り込んで感染する、接触感染が経路のひとつと考えられています。そのため、感染防止には、周辺環境を衛生的に保ち、経路を遮断することが重要です。特に昨今、効率的な衛生管理のために、ウイルスが付着した場所を特定する簡便な方法が求められています。
ウイルスの多くが感染者の唾液とともに体外に飛散することから、唾液飛沫が付着した場所を特定することで、清拭すべき場所を明らかにする方法を検討しました。唾液に含まれるさまざまな成分の中で、高濃度で存在し、安定的に採取可能であるアミラーゼに着目しました(図1)。また、日常の衛生管理で使用するには、付着有無と量について簡便に把握できる必要がありますが、今回花王は、イムノクロマト法*2 を用いてアミラーゼ量を視覚的に判別できることを確認しました(図2)。
図1.唾液のイメージ
図2.イムノクロマト法でのアミラーゼ検査
次に、実際に唾液飛沫付着場所からアミラーゼが検出されるのか、唾液飛散が起こる行動(咳、くしゃみ、食事)で調査しました。調査では、対象者の周囲にプレートを設置し、各行動後*3 にプレート表面を綿棒で拭き取り、イムノクロマト法でアミラーゼ検査を行いました。その結果、唾液飛沫が付着していると考えられる対象者周辺のプレートからはアミラーゼが検出され、距離が遠いプレートでは検出されませんでした(図3)。この結果より、唾液飛沫の付着場所を指標にアミラーゼを使用できる妥当性が示されました。
図3.唾液飛散が起こる行動をとった際の場所ごとのアミラーゼ検査の結果
唾液中のアミラーゼとウイルスの残存時間を比較するため、アミラーゼとウイルスをモデル板上に付着させ、それぞれがどの程度残存しているのかを2週間継続して測定しました*4 。その結果、アミラーゼもウイルス遺伝子も経時的に減少することが確認できました(図4、5)。今回の調査でアミラーゼとウイルス遺伝子の残存期間が類似傾向を示したことにより、アミラーゼを検出することが、ウイルスの量を把握する上で有用であると考えられます。そのため、アミラーゼが多く残っているところは清拭が必要な場所だと判定できます。
図4.表面上でのアミラーゼの残存期間
図5. 表面上でのウイルス遺伝子の残存期間
唾液に含まれるアミラーゼを測定することで、環境中の唾液飛沫が付着した場所を特定できることを見いだしました。感染者の唾液飛沫にはウイルスが含まれるため、付着場所は消毒剤などを使用して清拭し、衛生的に保つことが重要です。本研究で見いだした知見を用い、効率的な衛生管理に貢献できるような取り組みを進めてまいります。