発表資料: 2020年12月25日

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ディープラーニング技術を用いた新素材開発手法の開発

~AIで素材開発の期間を大幅短縮~

花王株式会社(社長・澤田道隆)マテリアルサイエンス研究所と奈良先端科学技術大学院大学(学長・横矢直和)先端科学技術研究科情報科学領域の金谷重彦教授は共同で、材料工学分野にディープラーニング技術を適用する手法を開発いたしました。本成果は、今まで長期間を要していた素材開発の高速化に寄与するものです。さらに、AIがどのように予測をしているか明らかにすることで、新しい素材開発の手掛かりとなることも期待されます。本研究は、「第43回ケモインフォマティックス討論会(2020年12月9日、オンライン開催)」にて発表しました。

背景

商品開発を行なうには優れた素材の開発が必要です。たとえば、洗剤の場合は、界面活性剤が重要な素材のひとつとなります。しかし、今まで素材開発はトライアンドエラーを繰り返す方法で行なわれていたため、莫大な時間と費用が掛かっていました。その問題を解決するため、ディープラーニングを用いてAIに大量のデータを学習させ、予測を行なうことで開発プロセスを短くする方法が検討されてきました。しかしながら、ディープラーニングには数万個のデータが必要であり、素材開発の現場で化学反応プロセスのデータを大量に取得するには多くの費用が掛かるため、実用化に至っていませんでした。
本研究では触媒と樹脂を例に、少ないデータ量からディープラーニングで活性やガラス転移点の予測ができる技術の開発を行ないました。また、なぜその予測にたどりついたのか、解釈の方法も確立しました。

(1)触媒の写真を用いた活性の予測モデル作成

触媒は化学反応を速める物質で、洗剤の界面活性剤の製造などに用いられています。触媒を開発するには、触媒が化学反応を促進する効率、すなわち触媒の活性を上げることが重要です。今回、2級アミンとアルコールを反応させた時の銅触媒の微細な構造を電子顕微鏡で撮影し、活性が高かった場合、低かった場合の違いをディープラーニングを用いて学習させることで、活性を上げる構造を予測するモデルを作成しました。

方法と結果

電子顕微鏡写真143枚に対し、写真の一部を切り出す、複写する等の処理を行ない、10000枚に増加させました。これらをディープラーニングで解析し、活性予測モデルを作成しました。さらに、活性が触媒のどの場所で起こっているかを確認するため、画像を作成しました(図1)。

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図1.活性予測モデルの作成過程

研究チームで、作成した予測モデルを確認したところ、非常に高精度なモデルの作成に成功したことがわかりました。また、触媒中には反応原料が拡散するための穴であるメソポア(2-50nm)とマクロポア(>50nm)が存在していますが(図2)、今回得た画像から、マクロポアの周辺の構造が活性に影響を与えているという具体的な予想が得られました(図3)。この知見を設計に活かすことで、より活性の高い触媒の開発につながると考えられます。

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(2)ポリエステル樹脂の化学構造式を用いたガラス転移点の予測モデル作成

プラスチック容器などの素材となる樹脂の開発では、形状に関わるガラス転移点*1 を予測することが重要です。たとえば、ガラス転移点が75℃の樹脂でつくった容器に85℃のホット飲料を入れると、容器が変形してしまいます。そのため、用途に合わせて樹脂のガラス転移点をコントロールする必要があります。今回はポリエステル樹脂において、化学構造からガラス転移点を予測するモデルを作成しました。

  • * 1 樹脂が硬質から軟質なものへと性質を変える温度のこと

方法と結果

不足しているデータ量を補うため、一般公開されている外部の化学構造のデータベースを読み込ませてディープラーニングで解析し、ガラス転移点予測モデルを作成しました。さらに、化学構造のどこがガラス転移点に影響を与えているのかを確認するため、画像を作成しました(図4)。

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図4.ガラス転移点モデルの作成過程

研究チームで予測モデルを分析評価した結果、ガラス転移点の温度を精度よく予測できることがわかりました。また、今までは、官能基の置換位置はガラス転移点に大きな影響を及ぼさないと考えられていましたが、得られた画像を確認したところ、ベンゼン環に対する官能基の置換位置(オルト位、メタ位、パラ位)がガラス転移点に大きな影響を与えていることがわかりました (図5)。この知見を設計に活かすことで、樹脂のガラス転移点をコントロールできると考えられます。

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図5.ガラス転移点に影響を与える化学構造

まとめ

ディープラーニング技術を応用し、少量のデータからでも予測モデルを作成する技術を開発しました。また、なぜその予測にたどりついたのか、画像を用いて解釈を行なう方法も確立しました。この技術は、ほかのさまざまな素材開発にも応用が可能です。今までは、研究者の経験に基づき素材開発を行なってきましたが、今後はデータ科学と研究者の知見を融合することで、効率的に素材開発を行なうことができるようになると考えられます。

※社外への発表資料を原文のまま掲載しています。

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