花王株式会社(社長・澤田道隆)生物科学研究所・スキンケア研究所・解析科学研究所は、皮脂RNAモニタリング*1 の研究を進め、皮脂RNAを用いて、絶えず変化している肌状態を精度高く予測する技術開発に取り組んでいます。今回、皮脂RNAが月経周期や加齢に伴って変動すること、また、肌の水分量や専門評価者の目視による透明感スコア、角層タンパク質の糖化*2 状態(カルボキシメチルリジン量)など、肌や体の状態に関連する86の項目が、AIを用いることで予測可能であることを見いだしました(表1)。
今回の研究成果は、第72回日本産婦人科学会学術講演会(2020年4月23~28日、オンライン開催)、第31回IFSCC(国際化粧品技術者会) Congress 横浜大会(2020年10月21~30日、オンライン開催)にて発表しました。
花王は、皮脂に人のRNA(リボ核酸)が存在することを発見し、そのRNAを網羅的に分析する独自の解析技術、皮脂RNAモニタリングを構築、これまでに、皮脂RNAが成人および乳幼児のアトピー性皮膚炎の症状と連動していることなどを見いだしてきました。RNAは、その時の体調や環境によって日々変化するという性質があることから、現在は、一人ひとりの肌状態を簡便かつ精緻に把握する技術として確立すべく、肌状態と皮脂RNA情報の関連性について研究を進めています。
今回は、皮脂RNAが実際に生体の周期的な変化や加齢による変化をとらえることができるのか、また、一度の皮脂RNA採取によって、肌や体の状態に関するどのような項目が予測可能であるかについて、詳細な検討を行ないました。
20~45歳の女性38名を対象に、それぞれの月経周期(卵胞期、黄体期、月経期)に皮脂RNAを採取し解析を行ないました。その結果、皮脂RNAの発現パターンは月経の各期に応じて変わること、また、卵胞期で増加することが報告されているVEGFA(血管内皮細胞増殖因子)が、皮脂RNAにおいても同様に変動することを確認しました(図1)。
さらに、20~59歳の女性134名の皮脂RNAを採取し、年齢との相関解析を行ないました。その結果、加齢に伴って皮脂RNAの発現パターンが変化することを確認しました。また、加齢に伴って減少するATP5A1(ATP*3 合成酵素)が、皮脂RNAにおいても同様に減少することが示されました(図2)。
これらのことから、皮脂RNAには体調や環境による変化がタイムリーに反映されていると考えられます。
花王は、20~59歳の女性134名を対象として、肌や体の状態に関連する99の項目について予測モデルの構築とその検証を行ないました。皮脂RNAと同時に、さまざまな専用機器による肌の物性値、肌評価のエキスパートによる素肌の目視評価スコア、肌内部成分の定量データなどを取得。約9割の人の皮脂RNA、年齢情報および実測データを用いてAIの学習を実施し、約1割の人の皮脂RNAと年齢情報から今の肌状態を予測しました。
その結果、肌や体の状態に関連する86の項目、具体的には、計測機器による肌の水分量、専門評価者の目視による透明感、また、これまでは簡単に取得できなかった角層タンパク質の糖化状態(カルボキシメチルリジン量)などが、皮脂RNAと年齢により、高い精度で予測できることが示されました(図3および表1)。
このことから、この技術は、一度の皮脂採取だけで、測定にかかる時間や手間、肌への負担を大幅に軽減し、見えない肌状態まで多面的に可視化することができると考えます。
今回、皮脂RNAが月経周期や加齢に伴って変動することを確認できたことから、皮脂RNAに体内の変化がタイムリーに反映されていることが明らかとなりました。さらに、一度の皮脂RNA採取から今の肌状態をAIを用いて多面的に予測可能であることが示されました。
現在花王は、株式会社Preferred Networks(PFN)と、皮脂RNAの情報にPFNのAI技術を用いて、肌状態に関する高度な予測アルゴリズムを開発する協働プロジェクトを進めています。絶えず変化している肌状態を精緻に可視化することで、一人ひとりに合わせた美容アドバイスやスキンケアの開発をめざします。
※社外への発表資料を原文のまま掲載しています。