花王株式会社(社長・澤田道隆)感覚科学研究所、サニタリー研究所と立命館大学(学長・仲谷善雄)総合心理学部の矢藤優子教授の研究グループは、日々のおむつ替え場面における親子のかかわり方が乳児の社会性発達にどのような影響を及ぼすかについて、行動観察などの手法で検討しました。その結果、おむつ替え場面で親が子に対して言葉で多くコミュニケーションを取るほど、遊びの場面で測定した子の社会性指標が高いことを確認しました。このことは、おむつ替えの場面は単に親が子の世話をするというだけでなく、親子のかかわりにとって重要な場面になりうるという新しい視点を与えます。
本研究内容は、第61回日本母性衛生学会学術集会(2020年10月9~22日、オンライン開催)で発表しました。また一部は、日本心理学会第84回大会(2020年9月8日~11月2日、オンライン開催)で発表しています。
花王は、ベビー用品の開発に向けた基礎研究や、育児をしている家族をサポートする情報発信のために、さまざまな分野の専門家と協働して乳幼児を深く理解する研究を行なっています。また、立命館大学の矢藤教授は、乳幼児期の子どもの行動発達について、周りの環境(養育者、家族、地域、文化など)とのかかわりに重点を置いた研究を行なっています。両者は、親子のかかわり方と乳幼児の発達に関し、2018年から共同研究を行なってきました。
今回の研究では、おむつ替え場面での親子のかかわりに着目しました。おむつ替えは一日に何度も行なわれる育児行動です。花王の調査では、月齢5カ月の乳児の一日のおむつ替え回数は約8回にものぼります。しかしながら、日々のおむつ替え場面における親子のかかわり方が、子の社会性発達にどのような影響を及ぼすかについては、これまであまり注目されてきませんでした。
・ 試験参加者: 親(母)子47組。月齢5カ月の乳児47名(男児20名、女児27名)と、初めて子育てする母親46名。
・ 試験方法: 親と子が積み木で遊んでいる様子と、親が子のおむつ替えをしている様子についての行動観察を行ないました。
1. 積み木遊び場面の行動観察
積み木を使った遊び課題(2個の積み木を上に積む)に、親子2人で約10分間取り組んでもらいました。親には、子が課題を達成できるように、必要に応じてかかわってもらいました。その様子を撮影した動画を訓練された評価者2名が見て、「かかわり指標(IRS; Interaction Rating Scale)」により子の社会性を測定しました。また、親の発話量をカウントしました。
かかわり指標とは、広義での人の社会性(社会能力)のさまざまな側面を、国際的に比較可能な形で測定可能にした指標です。子どもから成人まで、人と人との相互作用を日常的な場面で簡単に評価することができますが、今回はそのうち乳幼児用を使用しました* 。
2. おむつ替え場面の行動観察
親にいつも通りにおむつ替えをしてもらい、その様子をビデオ撮影しました。おむつ替え場面を、前のおむつのテープを外した時点から新しいおむつのテープをとめきった時点までとして、その間の親の発話量をカウントしました。
おむつ替え場面と積み木遊び場面の親の発話量を比較したところ、おむつ替え場面の方が少ないことがわかりました(図1)。この結果から、遊ぶ時間と違って、おむつ替え場面が親子のかかわりにとって重要であるとの親の認識が薄いことが推測されます。
また、おむつ替え場面の発話量の多さで親を二群に分けて、積み木遊び場面で測定したかかわり指標を比較しました。その結果、子の主体性、応答性、共感性は、おむつ替え場面で発話量が多い親の子の得点が高いことがわかりました(図2)。これは、おむつ替え場面の親子のかかわり方と子のこれらの性質の発達に関連があることを示唆します。
一方、積み木遊び場面の母親の発話量とかかわり指標の子の得点との間に関連性は見られませんでした。積み木遊び場面では親子で協力して課題を遂行するため発話が発生しやすい状況である一方、おむつ替え場面は一般的に発話がなくても世話に支障はありません。そのような場面であえて発話するということが子の社会性発達に関連している可能性が考えられます。
今回の研究からは、おむつ替えの場面は遊びの場面と違って親子のかかわりにとって重要であるとの親の認識が薄いことが推測されます。しかし実際には、おむつ替え場面の親の発話量が多いほど子どもの社会性発達指標の得点が高いことが確認されました。これより、言葉が少なくなりがちなおむつ替えの場面においても、コミュニケーションの時間として接することの重要性が示唆されたと考えられます。
※社外への発表資料を原文のまま掲載しています。