花王株式会社(社長・澤田道隆)生物科学研究所は、大阪大学 吉森 保栄誉教授の研究指導のもと、加齢に伴って皮膚のオートファジー活性が低下すること、また、紫外線などによる光老化のあらわれであるシミ部位において、皮膚のオートファジー活性が低下していることを突き止めました。これらのことから、タンパク質の代謝循環を担うオートファジーが、老化や紫外線による皮膚の状態にも関連していることを発見しました。
今回の研究成果は、「第29回日本色素細胞学会学術大会」(2019/11/23~24)にて発表予定です。
オートファジー(自食作用)とは、細胞が自己成分を分解する機能のことで、ヒトのすべての細胞内で行なわれています。細胞の中に、不要になったタンパク質や細胞小器官などの物質ができると、“隔離膜”がそれらを包み込んで“オートファゴソーム”という小胞を形成。このオートファゴソーム内に取り込まれた不要なタンパク質等は、続いてリソソームに含まれる酵素によって分解され、アミノ酸となります。分解されてできたアミノ酸は、新たなタンパク質の合成に再利用されます。私たちの体は、日々生まれ変わっており、1日あたり1~2%のタンパク質が分解され、一方で新しいタンパク質が合成されています。すなわちオートファジーは、細胞の内部で、この大切なタンパク質のリサイクルに寄与し、細胞成分を常に新しい状態に保つ役割を担っています。
オートファジー(自食作用)の働き
オートファジーは、これ以外にもさまざまな役割がありますが、加齢によって低下することが知られています。オートファジーの低下は、老化に伴うさまざまな疾患にも深く関わっていると考えられており、これを活性化することで、老化やそれに伴う病気の発症を抑制できる可能性が期待されています。
皮膚において、オートファジーは表皮の分化、免疫、皮膚色の調節などの役割を果たしていることが明らかになっています。花王は、皮膚におけるオートファジーの役割にいち早く注目し、2010年に研究を開始。大阪大学の吉森 保栄誉教授から研究指導を受け、2013年には、オートファジーの皮膚色への寄与を明らかにし、メラニン(メラノソーム)の分解メカニズムを発見した成果を報告しています*1 。以後、皮膚科学分野でのオートファジー研究の深耕と、その応用に向けた取り組みを進めてきました。
今回花王は、ヒトの皮膚を用いて、老化による皮膚状態の変化とオートファジーとの関連を調べました*2 。
40~50代の健常女性6名を対象に、非露光部である上腕内側部より取得した皮膚から、タンパク質を抽出。オートファジー活性を測る指標であるLC3タンパク質またはp62タンパク質の代謝量を検出することで、皮膚組織中のオートファジー活性を定量しました*3 。その結果、皮膚のオートファジー活性は、加齢に伴って低下する傾向が認められました(図1)。
図1 皮膚オートファジー活性の加齢変化
紫外線は、肌に日やけを生じさせるだけでなく、将来的にシミ・シワ・たるみなどの光老化を引き起こすことが知られています。そこで、紫外線に曝露されやすい前腕外側に生じたシミ(色素沈着)部位、および上腕内側の健常部位のそれぞれでオートファジー活性を比較しました。露光部のシミ部位は、非露光部の健常部位と比べて、オートファジー活性の有意な低下が観察されました(図2)。
図2 シミにおける皮膚オートファジー活性の低下
今回、ヒト皮膚組織のオートファジー活性を定量化することで、加齢および光老化が顕在化している部位(シミ)で、オートファジー活性が低下することが明らかになりました。低下したオートファジー活性を高めることは、停滞したタンパク質の代謝循環を正常化し、加齢や紫外線をはじめとするさまざまな要因による皮膚のダメージ改善に寄与することが期待されます。今後も、私たちの体に備わる重要なオートファジーについて研究を重ね、健康で美しい肌を実現する技術の開発を進めていきます。
※社外への発表資料を原文のまま掲載しています。