花王株式会社(社長・澤田道隆)感性科学研究所、スキンケア研究所、メイクアップ研究所は、快感情を喚起する刺激に着目したスキンケア研究を行なっている中、今般、以下の研究知見を得ました。
1) 顔へのハンドプレス刺激により、大脳皮質の一部の前頭前野*1 の血流変化量が安静状態よりも増加すること(図1)
2) 顔へのハンドプレス刺激による前頭前野の血流変化量が大きいほど、快感情の喚起度合いが大きいこと(図2)
3) クリームを前腕内側に塗布するというスキンケア行為のうち、塗布感触の違いにより前頭前野の血流変化量が異なること(図3)
なお、本研究内容の一部は、第20回日本感性工学会大会(2018年9月4~6日、東京都)にて発表しました。
・化粧時の感情を評価する12の感情因子を抽出し、感情の評価尺度を作成。
・スキンケア行動のひとつである、顔肌への触覚刺激が快感情を喚起する。
・快感情を喚起する顔肌への継続的な触覚刺激が、見た目の肌状態(肌の質感)を向上させる。
・唾液中のオキシトシン量と肌の質感との関連性を確認。
以下の試験条件で、顔へのハンドプレスが脳血流に及ぼす影響を検討しました。
【対象】
20-49歳の女性、20名。
【試験方法】
素手によるハンドプレスと、2種類のコントロール条件(ゴム手袋装着によるハンドプレス、手を顔に近づけるだけの動作)における前頭前野の脳血流変化量を、近赤外分光法(NIRS)*2 を用いて計測し、快感情の喚起度合いとの関連性を解析しました。
ハンドプレス刺激は、1回15秒間、安静状態20秒間を交互に計6回実施してもらい、ハンドプレス中と安静状態の脳血流変化量の差分の標準得点(Z-score)を算出しました。
快感情の喚起度合いは、10cmのVisual analog scaleを用いて、快感情の感覚量の程度を評価値(快感情評価値)で表しました。
【試験結果】
素手によるハンドプレスによって、前頭前野の血流変化量が安静状態よりも有意に増加することが認められました(図1)。さらに、素手によるハンドプレス条件と各コントロール条件の前頭前野の血流変化量の差分と、快感情評価値の差分とが、中程度の正の相関を示しました(図2)。
図1. ハンドプレスによる前頭前野の脳血流の変化
脳画像の色は、安静状態との比較で、血流量に差がある確率の高さを表しています。色が赤いほど、その領域が活動している確率が高いということを指します。
図2. 前頭前野の脳血流変化量と快感情の喚起度合いの関係
【対象】
20-49歳の女性、15名。
【試験方法】
スキンケア行為の一例として、塗布感触の異なる4種のクリームA、B、C、Dを前腕内側に自身で塗布し、その際の脳血流変化量を、NIRSを用いて計測しました。
塗布刺激は、1回20秒間、安静状態20秒間を交互に計4回実施し、《試験-1》で快感情の喚起度合いと正の相関の見られた領域を関心領域として(図3, 赤枠)、塗布中と安静状態の脳血流変化量の差分の標準得点(Z-score)を算出しました。
【試験結果】
クリームを前腕に塗布するというスキンケア行為のうち、感触の違いによって、関心領域の血流変化量が異なることを確認しました(図3)。脳血流量変化に有意差のあったクリームCは、コクとしっとり感があり、肌なじみがよいという特徴がありました。
図3. 4種のクリーム塗布における前頭前野の血流変化量の比較
クリームA:コク、しっとり感、肌なじみが普通
クリームB:コク、しっとり感が少なく、肌なじみが悪い
クリームC:コク、しっとり感があり、肌なじみがよい
クリームD:コクが非常にあり、しっとり感があり、肌なじみが悪い
(まとめ)
ハンドプレスやクリーム塗布など、スキンケア時に肌に触れることで得られる快感情の喚起度合いに応じて、前頭前野の活動が増加することが示唆されました。
花王株式会社 広報部
※社外への発表資料を原文のまま掲載しています。