参考資料: 2016年09月02日
花王株式会社と株式会社資生堂が共同で開発してきた、ヒト由来の培養細胞を用いた活性化試験である「h-CLAT*1 」が、7月29日、世界的に認められる公的試験法である「OECDテストガイドライン*2 」に収載されました。皮膚感作性(皮膚アレルギー反応)は生体反応の中でも複雑なメカニズムであり、動物実験に代わる方法で評価するのがむずかしいとされています。「h-CLAT」は、その成立過程の最初の反応である免疫細胞のはたらきを試験管内で再現することに着目した皮膚感作性試験代替法として、世界で初めて採択されました。この結果、すでに収載されているほかのアレルギー成立過程の現象を再現する代替法と今回の「h-CLAT」を組み合わせることで、化学物質の皮膚感作性を動物実験と同等以上の精度で評価することが可能になると期待されます。
今後は全世界で年間数万種類の化学物質の皮膚感作性評価が代替法に置き換わることが期待されます。とりわけ欧州では、すでに化粧品開発に関わるすべての動物実験が禁止されているため、代替法の活用は必須要件であり、化学物質登録規制であるREACH*3 への活用も期待されています。また、日本においても医薬部外品申請にも用いる検討が厚生労働科学研究として始まっております。
「h-CLAT」は、すでに多くの化粧品会社で実用化されており従来の動物実験に比べ、費用や期間が格段に効率化されることからも、産業界の新規化学物質の開発の効率化に大きく貢献すると考えています。
両社は2003年1月より企業の壁を越えて皮膚感作性試験代替法の共同研究を開始し詳細な試験法を確立後、国内外の化粧品会社*4 や欧州化粧品工業会、厚生労働省、日本動物実験代替法学会の協力を得ながら、産官学をあげて実用化に向けての研究を進めてきました。その後、欧州委員会が主導するバリデーション(妥当性検証)を経て、「h-CLAT」は国際標準である「OECDテストガイドライン(OECD TG 442E)」として収載されました。
この「h-CLAT」の開発は、日本の化粧品企業を代表する両社が、日本としては初めて長い年月をかけて取り組み、世界的な試験法ガイドラインに採択されたものです。これは、日本の技術力を世界に示す大きな成果となります。
皮膚感作とは、皮膚に化学物質が接触し、体が異物として認識すると、次に同じ化学物質に接触した時に起こるアレルギー反応のひとつです。原因化学物質は天然由来成分から合成物質、金属までさまざまで、代表的なものとしてニッケル、プラチナなどの金属や、うるし、サクラソウなどの植物があげられます。
「h-CLAT」はヒト由来の免疫に関連した培養細胞であるTHP-1の細胞表面に現れる2種類のタンパク質(CD86*5 、CD54*6 )が増加するしくみを指標に化学物質の皮膚感作性を正確、迅速かつ低コストで測定・評価する動物実験代替法です。
皮膚感作性は、化学物質の安全性評価において非常に重要な項目でありながら、複雑な免疫系に基づく生体反応であるため、これまで代替法開発が非常に困難とされてきました。近年OECDでは、アレルギー成立過程の現象を再現したいくつかの代替法を組み合わせることで、皮膚感作性を評価する取り組みが行なわれています。なかでも「h-CLAT」は複雑かつ重要である「樹状細胞の活性化」という現象を再現する代替法として、世界で初めて採択されました。
当社では、1980年代より、グローバルに制約なく使え、公的に認められた信頼性の高い動物実験代替法が必要であると考え、国内外の研究機関と連携して、さまざまな技術開発に取り組んでいます。2015年7月には、当社で独自に開発した、眼刺激性試験代替法(STE試験:短時間暴露試験法)*7 がOECDテストガイドライン491として認められました。
花王グループは、化粧品(医薬部外品を含む)の商品開発においては、すでに外部委託を含めて動物を用いた試験は行なっておらず*8 、今後も、国内外の業界団体、他社等とも共同し、動物実験代替法の技術開発に積極的に取り組み、広く産業界の発展に貢献していきます。
花王株式会社 広報部