論文発表

Hydrophobic solution functions as a multifaceted mosquito repellent by enhancing chemicaltransfer, altering object tracking,and forming aversive memory

疎水性の液体が蚊にもたらす多面的な効果

論文タイトル:疎水性の液体が蚊にもたらす多面的な効果

論文:Bianca M. Wiedemannら、2024
Sci. Rep. 14. 5422 (2024)

要旨

人の肌に適用できる安全で効果の高い蚊の忌避剤は、蚊媒介感染症の拡大を防ぐ有効な手段です。近年、低粘度のポリジメチルシロキサン(L-PDMS)などの疎水性液体が人の肌上の表面に広がることで、蚊の降着を防ぐことが確認されています。これは、L-PDMSが蚊の脚を濡らすことによるものです。
本研究では、L-PDMSがヒトスジシマカ(Aedes albopictus)に対して示す、次の3つの効果を新たに明らかにしました。第一に、L-PDMSをシトロネラオイルやDEETなど既存の忌避成分と混合して肌に塗布すると、蚊の脚に濡れ広がりやすい性質を持つシリコーンオイルによってこれらの忌避成分が効率的に蚊の脚に移行し、忌避効果を有意に上昇させるというものです。第二に、L-PDMSが脚に付着すると、飛行中に物体を追跡する能力が低下します。第三に、L-PDMSをシトロネラオイルと混ぜて脚に付着させた蚊では、シトロネラオイル対する忌避行動が増強されます。
これらの結果は、L-PDMSが多面的に蚊の行動を変化させうることを示しています。

目次

イントロダクション
結果
L-PDMSと忌避成分の併用による忌避効果の向上
L-PDMSが蚊の行動に与える影響 
ディスカッション
実験方法/参考文献

詳細

Surfactants alter mosquito’s fight and physical condition

界面活性剤が蚊の飛行と身体状態を変化させる

論文タイトル:界面活性剤が蚊の飛行と身体状態を変化させる

論文:難波ら、2023
Sci. Rep. 13, 2355 (2023)

要旨

蚊はマラリアやデング熱などの病気を人に媒介し、世界で毎年数十万人もの命が奪われています。そのため蚊を制御することは非常に重要ですが、従来の殺虫剤には生態系への影響や蚊の薬剤抵抗性の問題があります。
そこで本研究では、洗剤に含まれるような界面活性剤を利用し、殺虫成分に頼らず蚊を制御できる可能性を探りました。実験ではヒトスジシマカ(Aedes albopictus)を対象に、表面張力が低い溶液、特に界面活性剤水溶液に着目し、それらの液体が疎水的な蚊の表面を濡らすことで蚊の行動に与える影響を解析しました。
その結果、表面張力が低い水溶液が体や翅に付着すると、蚊は落ちることがわかりました。さらに液体の表面張力が下がると、蚊の体の表面がよりすばやく広く濡れ、蚊が落ちるだけでなくノックダウンすることが明らかとなりました。以上より、界面活性剤を利用することで、従来の殺虫成分に頼らず蚊を制御できる可能性が示唆されました。

目次

イントロダクション
結果
表面張力の低い界面活性剤水溶液は蚊を濡らして落とす
界面活性剤水溶液が体に付着すると蚊の飛行が阻害される
さらに表面張力が低い界面活性剤水溶液は蚊をノックダウンする
ディスカッション
実験方法/参考文献

詳細

  • 題名(英文):Surfactants alter mosquito’s fight and physical condition
  • 著者:Aya Kato‑Namba, Toshiaki Iida, Kazumi Ohta, Masahiro Suzuki, Kazuma Saito, Kohei Takeuchi, Maki Sakamoto, Hokto Kazama, Takao Nakagawa
  • 掲載:Scientific reports
  • 受付日:2022年8月31日
  • 受理日:2023年2月6日
  • 公開日:2023年2月9日
  • DOI:10.1038/s41598-023-29455-6

Mosquito repellence induced by tarsal contact with hydrophobic liquids

疎水性液体と脚の接触による蚊の忌避

論文タイトル:疎水性液体と脚の接触による蚊の忌避

論文:飯倉ら、2020
Sci. Rep. 10, 14480 (2020)

要旨

蚊の脚は、独特の撥水性の高い表面構造を有しています。蚊の脚の撥水性は一方では、油などの疎水性物質の濡れ性を高めます。この高い濡れ性によって蚊は、油から脚を通じて強い引力を受けます(蚊の自重の最大87%に相当)。油でコーティングされた表面での蚊の降着行動を調べたところ、親水性液体でコーティングされた表面に比べて、油でコーティングされた表面では、蚊の降着している時間が短縮されることが観察され、疎水性物質による被覆が忌避反応を誘発することが示唆されました。観察された蚊の忌避挙動は、化粧品用途としても幅広く利用されているシリコーンオイルなど、複数の疎水性液体に共通して見られました。これらの忌避効果は複数の疎水性物質に共通していることから、化学的相互作用によるものではなく、疎水性液体の物理的特性によるものと考えられます。この接触時間は、ヒトの皮膚上で蚊の吸血が開始されるのを防ぐのに十分短い時間といえます。カバの分泌液も低粘度シリコーンオイルと同様の物理的性質を持ち、蚊の忌避反応を引き起こし、天然の忌避剤として作用することが示唆されました。これらの結果は、新しい発見であり、安全で効果的な蚊の忌避技術を開発するのにつながると考えられます。

目次

イントロダクション
結果
種々な液体と蚊の脚の接触角
引き込む力の測定
疎水性液体上での、蚊の降着行動
接触時間に及ぼすポリジメチルシロキサン(PDMS)粘度と塗布比の影響
毛細管力に対するPDMS粘度の影響
実際の人間の皮膚に対する蚊の降着行動
ディスカッション
実験方法/データ引用/参考文献

詳細

  • 題名(英文):Mosquito repellence induced by tarsal contact with hydrophobic liquids
  • 著者:Hiroaki Iikura, Hiroyuki Takizawa, Satoshi Ozawa, Takao Nakagawa, Yoshiaki Matsui & Hiromi Nambu
    (KAO Corporation, Material Science Research, and Personal Health Care Products Research)
  • 掲載:scientific reports
  • 受付日:7 April 2020
  • 受理日:14 August 2020
  • 公開日:2 September 2020
  • DOI:Sci. Rep. 10, 14480 (2020)
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