賀来満夫先生

「今後のwith/afterコロナにおけるNew Normalの世界」

東北医科薬科大学 医学部 特任教授
東北大学 名誉教授
賀来 満夫先生

今回のコロナ禍の社会的なインパクトと今後の見通しはいかがでしょうか?

新型コロナウイルスがもたらした社会的インパクトは、過去のSARSや新型インフルエンザと比べても非常に大きいと考えています。
今後、予防、治療の体制が整ってくればこの感染症も季節性のインフルエンザのような形で移行し、社会復旧のフェーズになるのではないかと考えていますが、それに至るまでには年単位の時間が必要と思われます。
これまでは、感染症や公衆衛生の専門家など一部の方だけが感染制御のことを取り上げ、説明していましたが、この半年くらいで多くの市民の方にも感染症や感染制御についてかなりの情報が浸透してきています。来年、開催が予定されているオリンピックも含めた各種スポーツをはじめ、一般企業や飲食業などでのガイドラインの策定、また、環境衛生面での対策など、今後、安全・安心のために感染制御を考慮にいれた社会が展開していくと考えられます。
しかし、のど元を過ぎれば・・・にならないために、メディア、企業と私たちアカデミアが、継続的に感染症について問題提起していく必要があります。平時から“感染管理や感染予防”という考え方について取り組んでいくことによって、有事の備えにもなるといった考え方が、市民の中に受け入れられていくものと考えています。

市民はどのように感染管理・感染予防を行えばいいのでしょうか?

今後も、新たな感染症が出てくるでしょうし、地震や水害のような天災はこれからも避けられないでしょうから、私達は、そういった複合災害のことも想定しておかなくてはなりません。
今までは、“院内感染の管理”を目的にエビデンスづくりを進めてきましたが、今後は、生活の中に根差した“市中感染の管理”で感染のリスクを下げていくことが重要です。
今はアルコールでの消毒が中心に行われていますが、私たちがガイドブックの中に「市販の洗剤でも効果があるんですよ」ということを記載したら、ものすごく大きな反響がありました。一般の方が日常生活の中で使えるモノ、生活の延長でウイルスにも効果のあるモノを求めているということです。自分たちが手に入れられる、日常的に使える効果があるモノで生活の中の感染リスクを避けることがいかに大切かということに市民が気づき始めました。この気づきは重要です。
医学論文誌Lancetでは、布に付着したウイルスは24時間くらい感染性があると報告されています。当然、衣服や髪の毛、顔面にウイルスが結構残っているだろうと考えられます。手指はアルコールで、顔はマスクやゴーグルで保護できますが、衣服は無防備なのでここに付着したウイルスにはどのように対処すべきかとの質問を受けます。もちろん着替えて洗濯してもらえればいいのですが、外出時でも衣料用の除菌スプレーみたいなものを使うこともよいと思います。一般的な日用品でも一定の不活化効果があれば十分に家庭内での消毒効果を期待できます。新型コロナウイルスだけでなく、その他の多様な感染症に対してもリスクを減らせるモノを日常的に使えるということが重要です。

日用品メーカーにどのようなことを期待されますか?

アルコールは消毒の代名詞になっていますし、効果的なのですが、手荒れや刺激を感じる人もいるのでアルコールに代わるものは無いのですか?とよく聞かれます。これだけこまめな手洗いの大切さが継続的に啓発されていく中で、刺激が少なく手荒れをしないで、より安全に、学校でも職場でも家でもどこでも利用できるモノができれば、非常に有用だと思います。製薬会社による治療薬やワクチン開発は不可欠ですが、日用品メーカーが供給している日常生活の中で使える衛生製品や情報発信がものすごく生きてくると思います。日用品メーカーとしては、平時から有事まで使える衛生製品が“市中感染管理”にどのくらいの効果があるかを知ってもらえるようにすることが重要です。
手洗いだけではなく、衣服のケアとかシャンプーなどの日用品を扱うメーカーがもつ社会的な役割や使命は、もっと強調して良いものだと思います。今、治療薬やワクチンがない状態の中で、これを本当に強く感じています。

市民へ情報を提供していくためにはどうしたらよいでしょうか?

衛生製品の持っている、ウイルス不活化のポテンシャルを継続的に伝えていくことが重要です。雑貨等の日用品の効果について、日用品メーカーからは言えないことも財団やアカデミアと密接に連携しながら、様々な手段を活用して発信していくことが必要です。新型コロナウイルスに対する雑貨等を含めた製品の不活性化効果については、北里大学(※1)や経産省からの発表(※2)もありましたが、発表だけにとどまらず、学会発表、論文化、さらにはシンポジウムを開催する等で多くの方にその情報を知っていただくことができます。それには、財団、アカデミア、企業、できればメディアにも入ってもらい、社会全体でネットワークを作り、一般市民の方に理解してもらえるようなツール、システムを継続して作り、発信をしていくことが感染対策の戦略として重要だと考えます。

  • * 本コラムは、2020年6月時点のものです。
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