厳しくも自由闊達な議論で、戦略的な変革を後押し
桜井 花王の取締役会は、朝から午後までランチの時間も含め、全員でずっと議論しています。社外取締役同士の意見も異なり、さまざまな議論が生まれる稀有な取締役会です。社外取締役も花王への期待があるからこそ、執行側に厳しい質問を投げかけています。緊張感がある中でも、建設的な議論が行われ、私も毎回エネルギーを使い果たしています。
髙島 メンバーの多様性を確保しつつ、過不足ない規模の取締役会において、それぞれが自由かつ活発に議論しています。社外取締役の質問に執行側が答えるという日本企業によく見られる取締役会ではありません。執行側からも、たとえ耳が痛くても、議論を経営に活かしていこうとする意識を感じます。
カサノバ 私は2025年3月に初めて取締役会に出席しましたが、常にオープンで、遠慮なく本質に踏み込める取締役会です。メンバーが同じ目標や価値を共有できているからこそ、新たな考えを受け入れる土壌があります。
左から、社外取締役 高島誠、サラ・カサノバ、桜井 恵理子
桜井 私が社外取締役に就任した2022年は、花王にとって今までにない厳しい判断をしなければならない時期でした。花王が未来に進むため、成長が見込める事業への集中や、人財構造改革について取締役会で議論を重ね、慎重な意見もある中で、方向性を明確にして、踏み込んだ決断を後押ししました。結果として、課題事業を最適なパートナーに譲渡するなど大きな改革を進めることができました。構造改革を経て、事業を取捨選択するポートフォリオ管理の精度が高まりました。今後も機動的かつ果断な判断を期待しています。
髙島 私は2024年に社外取締役に就任しましたが、構造改革に取り組む中でも「The Kao Way」で掲げた企業理念は普遍的なものとしてまったく揺らいでいないことを確認してきました。研究開発を重視し、技術や品質に強いこだわりをもっている点も変わっていません。ただ、構造改革を経て、環境の変化に合わせて、機動的に対応していく戦略思考は、間違いなく高まっています。2025年からはグローバル成長の加速に向け、事業・地域ごとの執行責任を明確化しました。花王は、可能な限りフラットな組織を追求してきましたが、海外ではそれぞれのマーケットの特性を踏まえなければなりません。私も事業・地域ごとの責任体系を明確にし、機動的なマネジメントを実現する必要があると話し、新たな体制にも反映されたと考えています。
花王への期待があるからこそ
執行側に厳しい質問を投げかけています。
社外取締役
桜井 恵理子
髙島 欧米で地域ごとの戦略遂行や執行責任を明確化できたのは、大きな進歩であり、今後もさらに進める必要があります。重要な点は、現地の優秀な人財の確保と育成です。「事業は人なり」という有名な言葉のとおり、花王がここまでブランドを築けたのは、優秀な人財を確保してきたからです。
カサノバ 花王には、すばらしいポテンシャルと成長の余地があります。研究開発のリーダーシップと製品の品質は明確な強みです。マーケティングやデジタル戦略をもっと推進し、こうした強みや花王という企業のことを生活者に知ってもらえれば、グローバルでの存在感を高められるのではないでしょうか。
桜井 グローバル展開においては、現地のパートナーとの積極的な共創も重要です。2024年にはタイのチャロン・ポカパングループと協業に向けた基本合意書を締結しました。すべてを自前でやるのではなく、信頼できるパートナーと組むようになったのは、大きな変化です。花王が世界で発展するため、何ができるかに対する答えがそこにありました。
執行側からもたとえ耳が痛くても
議論を経営に活かす意識を感じます。
社外取締役
高島 誠
カサノバ 日本企業は慎重な意思決定が求められる傾向にありますが、花王にはそれを変えていこうとする姿勢を感じます。欧米のようにやりにくい環境でも道を進みながら課題を解決する姿勢が必要ではないでしょうか。そのためにも、結果に対して責任をもつチームを明確にしていかなければなりません。
桜井 花王は確実性を重視するカルチャーが根強かったですが、変化の芽が出ています。ヘアケア事業の変革では、商品開発期間を6分の1に短縮できました。ベストな人財を集め、アカウンタビリティを与えるスクラム体制を組んだからです。これは花王にとってよい経験になったと思います。
髙島 これまでは社内でしっかり固めて製品を出し、日本での信頼をつくり上げてきました。グローバルでは、そのやり方だけでは厳しいでしょう。スピードを上げるには、スクラム体制をもっといろいろな領域で拡大する必要があります。私も出席しましたが、社内の全研究所が集まる、研究発表会のような機会も大いに活用できます。誰かが取り組んでいる研究を自分が一緒にやれば、もっと面白くできるという創意工夫が高まるからです。こうしたしくみを活発化させるのも、スピードを上げるひとつの手段ではないでしょうか。
人財が情熱と自信をもち志を共有できていれば
グローバル成長の機会をつかめます。
社外取締役
サラ・カサノバ
桜井 花王には、すばらしい人財がそろっています。そのベースがあるからこそ、事業ポートフォリオを適切に管理すれば、飛躍が期待できます。人財、ブランド、製品のよいサイクルが回れば、さらに発展できるので、私も社外取締役として支援していきます。
カサノバ 企業の質を決めるのは人財です。人財が情熱と自信をもち、志を共有できていれば、グローバル成長の機会をつかめるでしょう。そして、グローバルで違いを生み出すためには、大きなチャンスがある領域に集中しなければなりません。戦略において最も難しいのは、何をするかではなく、何をしないかを決めることです。取締役会のメンバーとして、花王が成長できる領域を見極め、集中できるようモニタリングします。
髙島 サステナビリティを意識した製品・サービスを提供し、組織の多様性を拡大していくのは、企業理念である「The Kao Way」の実践にほかなりません。世界でファンを増やしていく上でも、重要な理念だと強調したいと思います。自分たちの理念とブランドに自信をもってほしいし、取締役会でも全力でサポートします。