発表資料: 2022年06月21日

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<歩行モニタリング技術>日常歩行モニタリングのさらなる進化

-認知機能低下の推定や歩行安定性の評価へ応用できる可能性-

花王株式会社(社長・長谷部佳宏)パーソナルヘルスケア研究所は、日常歩行モニタリングをさらに進化させる研究を進めています。今回、「認知機能低下」と「1日の中での日常歩行速度の変化」との間に関係性があることを見いだしました。また、「加齢歩数」*1 という指標を加えることで、加齢に伴う歩行安定性の変化をより詳細に把握できることがわかりました。これらの新しい知見を、地域や企業への健康支援サービスのさらなる向上などへ応用し、歩行支援によるフレイル*2 予防などを通して健康寿命延伸へと貢献していきます。
今回の研究成果は、第64回日本老年医学会学術集会(2022年6月2~4日・大阪開催)にて発表しました。

  • * 1 動きの少ないすり足や小股でゆっくりとした歩行など、高齢者に現れやすい不規則で不安定な歩行の歩数
  • * 2 健康な状態と要介護状態の中間の状態。加齢とともに心身の活力が低下し、生活機能が障害され、心身の脆弱性が出現した状態。

日常歩行モニタリングを健康状態のセルフチェックができるツールに

花王は、おむつ開発や高齢者の健康支援への応用などをめざし、幼児から高齢者まで3万人以上の歩行データをもとにさまざまなアプローチで研究を進めています。近年では、歩行動作をさらに詳細に解析できる技術の開発に取り組んでいます*3
一方、花王は、日常的な歩行の状態を連続してモニタリングできる技術の開発にも取り組んでいます。3軸加速度センサーを搭載した歩行専用高感度活動量計を開発し、計測した歩数や日常歩行速度などの歩行データの健康増進への活用を進めています。歩行状態は加齢によるさまざまな身体変化を反映しており、日常歩行モニタリングは、フレイルなど健康状態の変化を手軽にセルフチェックできる有力なツールになりうると考えています。
この日常歩行モニタリングをさらに進化させるため、歩行状態からさまざまな健康課題を推定する研究や、歩行状態をさらに精緻に評価する研究を進めた結果、今回2つの新しい知見が得られました。

認知機能低下と日常歩行速度の関係性

歩行という動作は、さまざまな認知機能を必要とします。そこで、認知機能低下と日常歩行速度の関係性を検討しました。
運動機能の疾患がなく、要介護状態ではない60~91歳(平均70歳)の高齢者1,567名を対象に、歩行専用高感度活動量計(HW、図1)を1日10時間以上かつ7日間以上使用してもらい、日常歩行速度の計測を行ないました。さらに、被験者の認知機能を「MMSE*4 」と「NCGG-FAT*5 」という手法を用いて評価し、その中から健常グループ(MMSE:24点以上、かつ、NCGG-FAT:4項目全て標準値内)と認知機能低下グループ(MMSE:23点以下、かつ、NCGG-FAT:1項目以上が標準外)を抽出して、日常歩行速度を比較しました。
なお、本研究は国立長寿医療研究センターの島田裕之先生のご指導とご協力のもと、実施しました。

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図1 歩行専用高感度活動量計(HW)

  • * 4 Mini-Mental State Examinationの略語で、「精神状態短時間検査」と呼ばれる認知症のスクリーニング検査。世界的に最も広く使用されている検査で、評価項目は11問、所要時間は10~15分程度で認知症の疑いを判断することができる。
  • * 5 国立長寿医療研究センターが開発した認知機能評価の専用システム

その結果、1日の日常歩行速度の平均値を比較してもグループ間の差はありませんでしたが、日常歩行速度を3時間ごとに区切って比較すると、認知機能低下グループでは、12時以降の日常歩行速度が有意に低下することがわかりました(図2)。本試験の対象者においては、1日の中での日常歩行速度の変化をモニタリングすることで、認知機能が低下しているかどうかを推定できる可能性があることがわかりました。今後さらに応用に向けた検討を進める予定です。

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図2 1日の中での日常歩行速度の変化

加齢歩数を計測、歩行安定性の新たな指標へ

通常の歩数計や活動量計は、主に上下の動きを検知して歩数を計測するため、すり足や小股でゆっくりとした歩行のような、高齢者に現れやすい不規則で不安定な歩行の歩数を計測することが困難でした。そこで、そのような歩行の歩数を「加齢歩数」として計測できるようにした歩行専用高感度活動量計を用いることで、加齢に伴う歩行安定性の変化を評価できるのではないかと考え、検証しました。
29~82歳の健常女性169名を対象に、上記歩行専用高感度活動量計を1日10時間以上使用してもらい、収集した歩行データの中から、1日の加齢歩数と歩数割合(通常歩数に加齢歩数を加えた総歩数に対する通常歩数の割合)を用いて、年代による差を比較しました。
その結果、加齢歩数はすべての年代の健常者の日常歩行で出現し、年齢と共に増加することがわかりました。また、歩数割合として見ることで、年齢と共に変化する(低下する)傾向がより顕著に現れることがわかりました(図3)。このことから、歩数割合をモニタリングすることで、加齢とともに低下する歩行安定性を評価できる新たな指標となることがわかりました。

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図3 年代による1日の加齢歩数と歩数割合の変化

まとめと今後

日常歩行モニタリングが、認知機能低下の推定や歩行安定性の評価へと応用できる可能性があることがわかりました。これらの新しい知見を健康支援サービスのさらなる向上などへ応用するとともに、健康的な歩行を維持できるための研究開発も進めます。今後も、歩行支援によるフレイル予防などを通して健康寿命延伸に貢献し、一生涯を通して「歩く」という視点からのQOLの向上を支援していきます。

※社外への発表資料を原文のまま掲載しています。

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