発表資料: 2022年04月14日

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タオル繊維に付着する菌のかたまり(バイオフィルム)を発見
-タオル内で独自の菌叢(きんそう)を形成していることを確認-

花王株式会社(社長・長谷部佳宏)安全性科学研究所・ハウスホールド研究所は、家庭で使用されるタオルを調査し、半年間の使用を通してその平織り部に菌のかたまり(バイオフィルム)が形成されることを発見しました。そのバイオフィルムを構成する菌種は、手指等の肌に存在する菌とは異なり、植物の根付近にいるような菌を含む独特の菌叢*1 を形成していることも確認しました。これらの菌は洗たくでも容易に落ちず、タオルのくすみなどの原因になっていることが推察されます。

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図1.タオルの構造と菌のかたまり(バイオフィルム)が見られた場所の顕微鏡画像

本研究内容の一部は、第16回日本ゲノム微生物学会(2022年3月2~4日・東京都)にて発表しました。この研究成果は、新しい衣料洗浄技術の開発に応用します。

  • * 1 ある場所に存在する全ての菌の集合体

背景

身のまわりの繊維製品でニオイやくすみなどが生じる原因のひとつに、繊維で増えた菌や菌の代謝物があります。繊維上の菌がもたらすこうした課題は、これまでTシャツ等の一部の衣類を対象に研究されてきました。
花王は、ニオイやくすみなどを防ぐため、洗たくを通してそこに付着する菌を適切に制御する研究を続けています。このたび、繊維製品の中でも素材や織り方、編み方が異なると、住み着く菌の種類や付き方、生じる課題が変わるとの仮説に基づき、身のまわりの繊維製品の中でも、手や顔を洗う、うがいをする、お風呂に入るといった衛生行動に使われるタオルに着目しました。
タオルは、フワフワして分厚い独特の構造をしています。日々の生活の中で、タオルのニオイやくすみを感じることは少なくありませんが、このタオルに付着する菌についてはほとんど研究されていません。そこで、その表面に菌がどのように付着し、どのような課題を引き起こすかについて調べました。

半年間、新品タオルを普段通り使ってみる

今回の調査では、24家庭に新品のタオルを配って普段通り使用と洗たくを繰り返してもらい、その変化を2カ月おきに調べました。その結果、タオルの色は、ひと目で明らかなほどくすんだ状態となりました(図2)。
菌は何らかの表面に付着してかたまり(バイオフィルム)となることがあり、その過程で菌は多糖やタンパク質、DNAといった物質を菌体外に出すことが知られています。
そこで、これらのタオルには菌が付着してバイオフィルムを形成し、くすみが生じたと考え、タオルに含まれるバイオフィルムの量を調べました。その結果、バイオフィルムの構成成分である菌そのものの数に加えて、多糖やタンパク質、DNAがいずれも経時で増えていく様子が捉えられました。

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図2.使用と洗たくを繰り返したタオル

タオル繊維を顕微鏡観察

タオルは、平面的に織られた糸(平織り部)に対してループ状に編まれた糸(パイル部)が立体的に重なった構造をしており、このパイル部のおかげでフワフワな感触を楽しむことができます。こうしたタオルに菌がどのように付着しバイオフィルムを形成したのか、回収したタオルの糸を構成する繊維を顕微鏡で詳細に観察したところ、意外にも菌は最も表面にあってすぐに菌がたどり着きそうなパイル部には見られませんでした。しかし、パイルの奥をかき分けて平織り部をほぐしていくと、繊維の間にたくさんの菌がぎっしりと詰まっている様子を捉えることができました(図1)。その菌の数は、2カ月から6カ月とタオルを長く使うほど、増えていくように見えました(図3)。

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図3.繊維の隙間に経時的に菌が蓄積する様子の顕微鏡画像

このような場所にバイオフィルムが形成された理由にはさまざまな可能性が考えられますが、ひとつには、菌は、タオル表面(パイル部)の糸が大きく動き易く、洗剤にも触れやすいところにはあまり付着できず、平織り部のような糸が動きにくく水分が残りやすいところを好んだのではないかと考えられます。

タオルに形成されたバイオフィルムに存在する菌の正体

花王はさらに、タオルに形成されたバイオフィルムにどのような菌がいたかを調べました。タオル上の菌に含まれるDNAを抽出し、そのDNAを使って菌種とその構成割合等が分かる手法(メタ16S解析)で解析したところ、生乾き臭がする衣類でよく見られるモラクセラ(Moraxella)属細菌等が高頻度で見られました。Tシャツ等の衣類では皮膚に多い菌が多く検出されることが報告されていますが、タオルでは皮膚に多いスタフィロコッカス(Staphylococcus)属細菌等はほとんど見られませんでした。
興味深いことに、特にバイオフィルム量が多いタオルではブレバンディモナス(Brevundimonas)属細菌やオーレイモナス(Aureimonas)属細菌等といった過去に報告例が少ない菌が高頻度で見つかりました。そこで、バイオフィルム中の菌叢におけるオーレイモナス属細菌の割合(存在比)とバイオフィルム構成成分である多糖量との関係を整理したところ、オーレイモナス存在比が高いほど多糖量が多いことが確認され(図4左)、こうした菌がバイオフィルムを構成していることがわかりました。さらに、オーレイモナス属細菌の割合が高いほど、新品タオルと比較した白さの変化値(相対くすみ度)が高くなる傾向も確認できました(図4右)。
これらの結果より、タオル上には人の肌から移った菌だけでなく、糸が動き難にくく水分が残りやすいといった特有の構造・環境で生き抜くのに適した菌が選ばれた可能性が示唆されました。ブレバンディモナス属細菌やオーレイモナス属細菌はアルファプロテオバクテリア(Alphaproteobacteria)というグループに属する菌で、植物の根の表面に多くいることが知られています。こうした菌は、根に付着するように植物由来の綿素材のタオル繊維に強固に付着しやすいのかもしれません。

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図4.オーレイモナス存在比と多糖量(左)および相対くすみ度(右)の関係性

まとめ

タオルを例に、フワフワな糸の上でどのような菌が付着し、バイオフィルムができていくのかを調べました。その結果、タオル奥の平織り部の糸の隙間に菌がぎっしりと詰まっていること、その菌は単純に肌の菌が移っただけではなく、タオルのような構造をした繊維に適した菌が選ばれ、くすみなどと関連することもわかりました。
これにより、洗たく機で一緒に洗う繊維製品の中でも、その構造や使い方によって付着する菌や課題が多様であることが見えてきました。今後も、さまざまな繊維製品に対するバイオフィルムの形成挙動を調べ、その課題を解決する洗浄技術の開発を進めていきます。

※社外への発表資料を原文のまま掲載しています。

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