発表資料: 2020年01月16日

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ベースメイク塗膜の内部構造を解析する新手法を開発

~塗膜内部の組成分布と皮脂の挙動をラマン分光法により可視化~

花王株式会社(社長・澤田道隆)解析科学研究所・メイクアップ研究所は、ラマン分光法*1 を用いて、ファンデーションなどのベースメイク塗膜内部の組成分布(組成と各成分の分布)を、塗膜を破壊することなく可視化する評価手法を開発しました。これにより、ベースメイク塗膜内部の組成分布に加えて、皮脂の挙動も把握できるようになります。
今回の研究成果は、「第85回SCCJ*2 研究討論会(2019年11月27日、東京都)」にて発表しました。今後この知見を、さらに高い機能を持つベースメイクの技術開発に生かしていきます。

  • * 1 試料にレーザー光を照射した際に発生する特殊な光を検出し、試料内部の組成分布を可視化する技術。皮膚科学の分野では、皮膚内部の水分分布測定法として知られています
  • * 2 日本化粧品技術者会

背景

ファンデーションや化粧下地などのベースメイクは、きれいな仕上がりを実現するという基本性能に加え、化粧くずれしにくい、使い心地がよい、化粧のりがよい、紫外線から防御するなど、さまざまな機能が求められます。このような機能をより高次元で実現するためには、皮膚上に形成されるベースメイク塗膜の構造や組成分布、また、塗膜の形成・崩壊のプロセスを把握することが必要です。
ベースメイク塗膜の構造を解析する方法としては、これまで、走査型電子顕微鏡(SEM)などを用いた観察が行なわれてきましたが、製品に含まれる油剤や皮脂などの有機物を識別できない、塗膜の経時変化を観察できないなどの制約がありました。そこで今回、この課題を解決し、ベースメイク塗膜の内部構造や組成分布を詳細に解析する手法の開発に取り組みました。

ラマン分光法によるベースメイク塗膜内部の構造解析

まず、一般的な液状ファンデーションでベースメイク塗膜を作成し、ラマン分光法で観察しました。しかし、レーザーによる発熱で塗膜が壊れる、一部成分のラマン信号が過大で組成を正確に読み取れないといった現象が発生し、そのままでは内部構造を解析することができませんでした。 そこで、解析を妨害するベースメイク特有の成分が酸化鉄・酸化チタンであることを突き止め、これらをタルクに置き換えた処方(モデル処方)とすることで、ベースメイク塗膜の組成(有機物、無機物)と各成分の分布を断層像として可視化することに成功しました(図1)。
この結果から、ベースメイク塗膜内部では、粉体、親油成分、親水成分がμm程度の集合体を形成していること、さらに、ベースメイク塗膜内部は、成分の複雑な相互作用によって構築されていることが確認されました。

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図1 モデルベースメイク塗膜の構造観察例(水平断層図)

ベースメイク塗膜での皮脂分布の可視化

次に、新手法の適用例として、化粧くずれの主な要因となる皮脂のベースメイク塗膜での挙動を確認するため、モデル処方のベースメイク塗膜にモデル皮脂*3 を添加し、塗膜中での皮脂分布の可視化を行ないました。しかし、そのままではベースメイクに含まれる油剤(シリコーン、紫外線吸収剤など)とモデル皮脂との識別ができません。そこで、モデル皮脂の一部の原子を重水素に置き換えて高感度に検出する方法を考案しました。この方法を用いて、耐皮脂性を特長とするベースメイク塗膜の観察を試みたところ、皮脂は全体に広がっているのではなく、ベースメイクの成分の間に局在化していることが確認できました(図2)。
この結果から、耐皮脂性を持つベースメイク塗膜では、皮脂を局在化させることで皮脂由来の化粧くずれ防止に寄与している可能性が示唆されました。

  • * 3 オレイン酸、トリグリセリドなど

20200116-002-02

図2 モデルベースメイク塗膜の断層図
(耐皮脂性塗膜、皮脂付与後)

まとめ

今回、ラマン分光法を応用することにより、従来難しかったベースメイク塗膜の組成分布や皮脂の挙動を明瞭に観察できることがわかりました。今後は、この技術をより高機能なベースメイク製品の開発に生かしていく予定です。

※社外への発表資料を原文のまま掲載しています。

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