2019年12月25日

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界面活性剤水溶液の相構造の可視化に成功、
米国化学会の学術誌「Langmuir」の表紙を飾る

花王株式会社(社長・澤田道隆)解析科学研究所は、名古屋大学(総長・松尾清一)工学研究科 岡崎進教授との共同研究の結果、分子動力学*1 シミュレーションにより界面活性剤濃厚水溶液が形成する相構造に関して可視化可能な計算結果を得て、これまで定性的な理解にとどまっていた分子の存在状態を明らかにしました。可視化した分子の配列構造は、研究成果が掲載された米国の権威ある学術誌「Langmuir」*2 の表紙を飾りました(図1)。

  • * 1 分子動力学
    ニュートンの運動方程式などに基づき原子、分子の動的振る舞いを模倣するコンピューターシミュレーションの手法です。
  • * 2 Langmuir誌
    米国化学会により1985年に創刊された、主に表面およびコロイド化学分野の研究をカバーする学術雑誌です。

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図1 学術誌「Langmuir」の表紙
Langmuir, Vol.35, Number 33, 2019)
(図中下方から上方に向かって、乳化剤などの用途に用いられる直鎖型ベンゼンスルホン酸ナトリウムの水和結晶、傾斜ゲル、液晶の相構造をそれぞれ可視化したもの)

研究内容

一般に界面活性剤水溶液は、その濃度や温度によって固体状態、液晶状態、液体状態など、極めて複雑な溶存状態を示します。とりわけ高濃度領域で界面活性剤の多層2分子膜が織りなす構造は、低温から高温に向かって、水和結晶、ゲル、液晶へと変化することがわかっていましたが、分子サイズでより詳細に分子構造を明示するのは困難でした。
このたび花王は分子動力学シミュレーションの第一人者である名古屋大学の岡崎教授との共同研究により、界面活性剤分子中の原子1個1個につき、水を含むほかの分子との相互作用をかけあわせ、その運動方程式をスーパーコンピューターを活用して解くことで分子集合体の振る舞いを可視化するに至りました(たとえるならば、1万原子×1万原子の1億通りの組み合わせの原子間相互作用を考慮した運動方程式を数値的に解くような計算)。コンピューターによってシミュレーションした結果を実際の実験データと突き合わせることで、個々の分子の運動状態までをも反映した、より詳細な構造の可視化が可能となりました。
このたび、この解析方法により、まずは汎用的な界面活性剤である、直鎖型ベンゼンスルホン酸ナトリウムの水和結晶構造を明らかにすることに成功しました。また、さらに高温で生じるラメラ型構造である、傾斜ゲル(結晶よりも分子の配向秩序が乱れ、なおかつ界面活性剤の分子軸方向がラメラの厚み方向に対して傾いている構造)や液晶のそれぞれの構造を決定することも可能になりました。水和結晶においては、直鎖型ベンゼンスルホン酸ナトリウム分子のアルキル基(炭素原子、水素原子で構成される線状の構造)のうち、ほとんどすべてが直線状の構造を保っていることがわかりました。一方で傾斜ゲルにおいては主にベンゼン環(炭素原子、水素原子で構成される六角形の構造)近傍のアルキル基のみが屈曲し、また液晶ではアルキル基全体が屈曲していることがわかりました(図2.直鎖型ベンゼンスルホン酸ナトリウムのラメラ構造にみられる代表的な分子運動状態(左から水和結晶、傾斜ゲル、液晶))。

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図2 直鎖型ベンゼンスルホン酸ナトリウム80wt%(水20wt%)のラメラ構造の代表的な分子運動状態
(原子の色分けは以下の通り:炭素は青、酸素は赤、硫黄は黄、水素はグレー)

分子動力学法を適用した物性研究知見により、製品中における界面活性剤分子の溶存状態のイメージや挙動の理解を深めることにつながるものと期待されます。
今後、さらに研究を深化させることで、より詳細な界面活性剤溶液の構造・物性研究につとめてまいります。

本研究の成果は、以下の「Langmuir」誌に掲載されました。
Takeda, K.; Andoh, Y.; Shinoda W.; Okazaki, S., Langmuir, 2019, 35 (27), 9011–9019
Takeda, K.; Andoh, Y.; Shinoda W.; Okazaki, S., Langmuir, 2019, 35 (33), 10877–10884

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