花王株式会社(社長・澤田道隆)生物科学研究所は、静岡県立大学薬学部・鈴木隆教授との共同研究によって、ヒトの唾液の抗インフルエンザウイルス作用には個人差があること、さらにこの作用にはタンパク質に結合したシアル酸量(以下、結合型シアル酸)が重要であること、をつきとめました。また、花王の生物科学研究所およびパーソナルヘルスケア研究所は、結合型シアル酸が耳下腺よりも舌下腺および顎下腺から多く分泌され、また炭酸刺激が抗インフルエンザウイルス作用の高い良質な唾液を分泌させる方法として優れていることを見出しました。
今後も花王は、静岡県立大学とともに、唾液のもつヒトの生理作用について、研究を重ねてまいります。
本研究成果は、第73回日本栄養・食糧学会大会(2019年5月17~19日・静岡市)にて発表したものの一部です。
ヒトの唾液には、消化作用、洗浄作用、咀嚼補助作用があると同時に、抗菌・抗ウイルス作用があることが報告されています*1 。静岡県立大学薬学部・鈴木隆教授と花王は、唾液の持つ抗インフルエンザウイルス作用(抗ウイルス活性)を調べたところ、唾液の抗ウイルス活性には大きな個人差があることがわかりました。さらに、唾液に含まれる成分を網羅的に調べた結果、抗ウイルス活性と結合型シアル酸が強い正の相関を示すことがわかりました。
(1)唾液の抗ウイルス活性に個人差(静岡県立大学との共同知見)
図1は、唾液がない条件下におけるA型インフルエンザウイルスの培養細胞への感染量を100%とし、唾液とA型インフルエンザウイルスを事前に混合した際の感染量を、相対値で示しています(1つのバーが被験者一人に対応)。左から右にむけて、抗ウイルス活性が低くなることを示しており、抗ウイルス活性に大きな個人差があることがわかりました。
(2)唾液中の抗ウイルス成分の解析(静岡県立大学との共同知見)
さらに、ヒトの唾液中に含まれる成分と、抗ウイルス活性の相関性を詳しく調べました。網羅的な解析の結果、図2に示すように、いくつかの唾液成分と抗ウイルス活性に有意な相関が認められましたが、最も高い正の相関を示す成分が結合型シアル酸でした。
次に、花王のパーソナルヘルスケア研究所および生物科学研究所では唾液腺に着目し、異なる唾液腺から分泌される唾液に含まれる成分を調べました。その結果、結合型シアル酸は、耳下腺から分泌される唾液(以下、耳下腺唾液)に比べて、舌下腺から分泌される唾液と顎下腺から分泌される唾液の混合唾液(以下、舌顎下腺唾液)に多く含まれることがわかりました。
そこで、結合型シアル酸を多く含む舌顎下腺唾液を、選択的に分泌させる刺激の探索を行なった結果、炭酸が有効であることを見出しました。
(3)唾液腺による抗ウイルス効果の相違(花王パーソナルヘルスケア研究所・生物科学研究所の知見)
耳下腺唾液に比べて舌顎下腺唾液は、結合型シアル酸の濃度が2倍高いことがわかりました(図3)。
(4)固形製剤による唾液分泌促進の技術(花王パーソナルヘルスケア研究所・生物科学研究所の知見)
粉末食品原料を打錠した固形製剤(固形化するための賦形剤としてマルチトールを使用)を作成し、各固形製剤を舐めた時に分泌される唾液分泌量と全唾液中に含まれる舌顎下腺唾液の割合を評価しました(図4)。対照としての賦形剤だけの固形製剤を舐めた場合、舌顎下腺唾液の割合は高いものの、唾液の分泌量は限定的でした。クエン酸を含む固形製剤では、全唾液分泌量が顕著に高まりました。一方、炭酸発泡刺激型固形製剤(先のクエン酸と同量のクエン酸に、等モル等量の重曹を加えた製剤)を舐めた場合、舌顎下腺唾液の割合は高く維持されたまま全唾液分泌量が高まりました。すなわち固形製剤を舐めると発生する炭酸発泡刺激は舌顎下腺唾液を選択的に分泌する作用があることがわかりました。
花王株式会社 広報部
※社外への発表資料を原文のまま掲載しています。