花王株式会社(社長・澤田道隆)ヘアケア研究所が投稿した論文*1 が、SCCJ*2 ジャーナル第20回2019年度優秀論文賞*3 を受賞し、2019年5月14日、パシフィコ横浜(神奈川県)で開催された2019年度(第59回)SCCJ総会にて表彰を受けました。
この研究は、日本人女性の理想の髪質のひとつである「しなやかな髪質」に着目したものです。「髪のしなやかな動きのある美しさ」の要因のひとつは、「表層はやわらかく内部は弾力がある二層状態の物理的性質を持つこと」であると解明*4 。さらに、しなやかな髪質に近づけるひとつの方法として、毛髪表層を選択的にやわらかくすることで二層状態の物性に導く技術を開発し、報告しています。
「しなやかな髪質」(左)「しなやかでない髪質」(右)の代表的な毛髪の内部構造
「理想の髪質」については、つや・まとまり・感触など、さまざまな視点で研究が行なわれています。花王では1975年以降、約40年にわたり、10代~60代の日本人女性の髪質実態調査*5 を実施していますが、本研究では、「しなやかさ」という動きをともなう美しさに着目しました。
しなやかな髪は、たとえば頭を動かしたときに、髪が流体のように連続的・曲線的に変形できる「やわらかさ」と、乱れても元の形状に戻る「弾力」を兼ね備えた物性を示します。そこで、この相反する「やわらかさ」と「弾力」を同時に満たすためには、毛髪を異なる構造・物性の材料を組み合わせた「複合材料」としてとらえることが重要ではないかと考えました。
「しなやかな髪質」の毛髪にはどのような特徴があるのかを探るため、化学処理などのダメージのない10人の毛髪を用いて、その内部構造を詳細に解析しました。毛髪断面を蛍光染料による染め分け技術を駆使して観察した結果、「しなやかな髪質」の毛髪では、表層付近にはケラチン繊維がらせん状に配列したオルト様コルテックス*6 、内部にはケラチン繊維が毛髪に平行に配列したパラ様コルテックスが多く確認されました(図1)。パラ様コルテックスの方がオルト様コルテックスよりも弾性率が高いことが知られているため、しなやかな髪質の本質は「表層はやわらかく内部は弾力がある二層状態の物理的性質を持つこと」であると考えました。
図1 「しなやかな髪質」・「しなやかでない髪質」の代表的な毛髪の内部構造
毛髪断面を蛍光染料で染め分けした後の顕微鏡写真
赤:オルト様コルテックス、緑:パラ様コルテックス
そこでさらに、化学処理などのダメージのある毛髪にまで範囲を広げて検証した結果、しなやかな髪質の毛髪の方が、表層はやわらかく内部は弾力があるというはっきりとした物性差があることを見出しました。
花王は、表層はやわらかく内部は弾力があるという明確な物性差のある毛髪に導くことをめざし、毛髪を二層状態の物性に導くための基剤を探索しました。
これまでの研究の知見から、有機酸を中心に検討した結果、「コハク酸」で毛髪を処理することで毛髪表層を選択的にやわらかくすることができることを見出しました。「コハク酸」は、毛髪タンパク質との相互作用性から表層に留まりやすい性質があることから、表層のみに作用して選択的にやわらかくできたと考えられます(図2)。
図2 コハク酸処理前(左)・処理後(右)の毛髪表層及び内部の弾性率
表層:表面から5μm程度、内部:表層より内側
髪質は遺伝などにより人それぞれで異なり、さらに同じ人でも、毎日の洗髪・ヘアケア行動などの外的ストレスや、ホルモン・加齢などの内的ストレスによって変化します。また、人種によって髪の形状は大きく異なり、理想とされる髪質も大きく変化します。花王は今後も、髪の本質を追究する研究に注力すると共に、もとの髪質・形状によらず、誰もがその人にとっての理想の髪質を実感できるようになるための技術についても研究知見を積み重ねていきます。
花王株式会社 広報部
※社外への発表資料を原文のまま掲載しています。