発表資料: 2023年06月22日

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健全な表皮の形成におけるヒアルロン酸の働きが明らかに
ヒアルロン酸の構成成分N-アセチルグルコサミンの誘導体を新たに開発

花王株式会社(社長・長谷部佳宏)は、表皮ヒアルロン酸の産生を高めることにより、十分な厚みがあり、うるおいとハリに満ちた表皮の形成につながることを明らかにしました。さらに、新たに開発したN-アセチルグルコサミンの誘導体が、表皮細胞によるヒアルロン酸産生を促進することを確認しました。
今回の研究成果の一部を、6月4~8日に米国で開催された「第14回国際ヒアルロン酸学会(International Society for Hyaluronan Science・14th International Conference)」にて発表しました。

研究の背景

加齢に伴う変化のひとつに、表皮の厚みが減少することが知られています。表皮の厚みの低下は真皮に比べて早い年代から始まり、ハリのなさやなめらかさの低下といった見た目の美しさが損なわれる要因となります。

表皮は皮膚の最も外側にある組織で、基底層において増殖(誕生)した表皮細胞は、有棘層、顆粒層、角層と外側に向かって移動しながら角化(成熟)していきます。表皮の増殖と角化の繰り返しはターンオーバーと呼ばれ、このサイクルが正常であると健全な表皮が形成されます。一方、表皮には血管が通っていないため、重層した細胞同士の空間を維持し、細胞への栄養素の供給や細胞からの代謝産物の通り道を確保するといった役割は、ヒアルロン酸が担っていると考えられています(図1)。

図1表皮におけるヒアルロン酸

図1 表皮におけるヒアルロン酸

花王のヒアルロン酸研究

ヒアルロン酸は、N-アセチルグルコサミンとグルクロン酸の2種の糖が交互に結合した高分子多糖で、その分子量は数百万にも及ぶ生体で最大の高分子ポリマーです(図2)。
花王グループでは、1981年より、皮膚におけるヒアルロン酸の合成・分解のしくみやその制御について、業界の先駆けとなる多くの知見を見いだしてきました。たとえば、2002年には表皮におけるヒアルロン酸合成のしくみを遺伝子レベルで解明し、2004年にはN-アセチルグルコサミンの表皮ヒアルロン酸産生促進作用を発見しました*1
しかし、表皮ヒアルロン酸が、表皮細胞のターンオーバーや表皮形成、また皮膚性状にどのような影響を及ぼすかは実はよくわかっていませんでした。

図2ヒルロン酸の構造

図2 ヒアルロン酸の構造

  • * 1 Sayo T et al., Hyaluronan synthase 3 regulates hyaluronan synthesis in cultured human keratinocytes. J Invest Dermatol. 118:43-48 (2002) DOI: 10.1046/j.0022-202x.2001.01613.x
    Sayo T et al., Synergistic effect of N-acetylglucosamine and retinoids on hyaluronan production in human keratinocytes. Skin Pharmacol Physiol. 17:77-83 (2004) DOI: 10.1159/000076017

表皮細胞のヒアルロン酸産生を促進する1-エチル-β-N-アセチルグルコサミニドの開発

今回花王は、N-アセチルグルコサミンの構造を改変し、さらにその安定性を高めた1-エチル-β-N-アセチルグルコサミニドを新たに開発しました(図3)。
培養した表皮細胞にこの新たなN-アセチルグルコサミン誘導体を添加したところ、ヒアルロン酸の産生を顕著に高めることが確認できました。そのメカニズムとして、1-エチル-β-N-アセチルグルコサミニドは表皮細胞の中に取り込まれた後、細胞が持つ酵素(β-N-アセチルグルコサミニダーゼ)の働きによってN-アセチルグルコサミンに変換され、ヒアルロン酸の材料となってヒアルロン酸の産生を促進することがわかりました。

図3。新開発の1-エチル-β-N-アセチルグルコサミニドの構造

図3 1-エチル-β-N-アセチルグルコサミニドの構造

表皮ヒアルロン酸による表皮細胞のターンオーバーと表皮形成の促進

さらに、新規N-アセチルグルコサミン誘導体を3次元培養ヒト皮膚モデルに添加したところ、表皮ヒアルロン酸が増加するとともに、基底層における表皮細胞の増殖、及び有棘層から顆粒層における表皮細胞の角化が促進し、表皮の厚みが増加することが確認できました(図4)。一方、これらの効果は、β-N-アセチルグルコサミニダーゼの働きを阻害して、N-アセチルグルコサミン誘導体をN-アセチルグルコサミンへ変換できないようにすると、いずれも消失しました。
これにより、表皮ヒアルロン酸の役割として、表皮細胞の増殖と角化を高め、健全な表皮形成を促進することが初めて示されました。

新誘導体を添加した際の表皮組織構築の促進を示す画像。

図4  1-エチル-β-N-アセチルグルコサミニドによる表皮組織構築の促進

新成分1-エチル-β-N-アセチルグルコサミニド配合製剤塗布による肌の変化

表皮においてヒアルロン酸は、加齢に伴って減少することが知られています。今回花王は、33名の女性(40~58歳)を対象に、新成分を配合した製剤と、配合していない製剤を顔の左右それぞれに8週間使用してもらい、肌状態を比較しました。その結果、新成分配合製剤を使用した方の肌では、角層水分量が上昇し、肌のハリ(皮膚粘弾性)が高まったことを確認しました(図5)。

新成分配合製剤の連用による角層水分量と皮膚弾性への影響のグラフ

図5  1-エチル-β-N-アセチルグルコサミニド配合製剤連用による肌への影響

今後の展望

今回、新たに開発したN-アセチルグルコサミン誘導体は、培養した表皮細胞のヒアルロン酸産生を促進することを確認しました。さらに3 次元培養ヒト皮膚モデルにおいては、表皮ヒアルロン酸の増加に伴い、表皮細胞の増殖と角化が高まり、健やかな表皮の形成が促進することを初めて明らかにしました。また、うるおいやハリといった変化を肌でも確認できたことから、表皮ヒアルロン酸へのアプローチは新しいスキンケア技術を開発する上で重要なターゲットになり得ることが示されました。今後も、ヒアルロン酸の研究を通じて、健やかで美しい肌に導く技術の向上をめざします。

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