発表資料: 2015年02月25日
~衣類やタオルなどの糸表面への、柔軟成分の優先的吸着による効果~
花王株式会社(社長・澤田道隆)ファブリック&ホームケア研究センター・ハウスホールド研究所は、界面科学や繊維科学などに立脚した衣類・布製品の柔軟仕上げ技術の研究開発を進めています。
今回、柔軟仕上げ剤に含まれる柔軟成分に、1つの分子の中に水となじむ「親水基」と油となじむ「親油基」の両方を有する特定の両親媒性成分を加えることにより、柔軟成分を優先的に糸の表面に吸着させることが可能になりました。従来の技術では、衣類やタオルなどの使用時の快適性に重要な「柔軟性」と「吸水性」の機能は両立が困難でしたが、本技術により糸の内部に素材本来の部分がより多く残るので、水や汗をすばやく吸う性質を維持することが可能になりました。
また、さらに本技術により、肌着などの衣類に対して「濡れ戻り抑制効果」と「はりつき力低下効果」も、新たに発現させることができるようになりました。
今後、本技術は、さまざまな柔軟仕上げ剤の製品開発に応用していきます。
木綿やポリエステルなどの糸は、細い繊維が束なって構成されていますが、これらの糸を織った布でつくられた衣類やタオルなどは肌触りのよさと吸水性に優れ、広く使用されています。しかし、使用と洗濯を繰り返すと、固くなって肌触りが悪くなりやすい性質があります。そのため衣類やタオルなどに対する柔軟効果が期待されて、柔軟仕上げ剤が使用されており、特に柔軟効果が発揮されやすいのが木綿です。
しかし、柔軟仕上げ剤に含まれる柔軟成分は、水をはじきやすい疎水的な性質も有しています。そのため、過剰な使用や長期間の使用により、疎水的な性質が強く発現し、衣類やタオルなどの吸水性が低下することがあります。これにより生活者の不満として、タオルが水を吸いにくい、少しの汗をかいただけでシャツがベタベタしたり、肌にはりつくなどの問題が起きることがありました。
この現象の原因は、洗濯中に柔軟成分が糸の内外に比較的均一に吸着することや、糸表面を広く覆ってしまうことが原因と考えられています。これにより、糸に水が触れたときに、柔軟成分の疎水的な性質が強く発現してしまい、糸内部への水の吸収が妨げられて吸水性が低下すると推測されています。
しかし、これまで衣類やタオルなどの「柔軟性」と「吸水性」の機能は、両立が困難でした。そこで今回、柔軟成分の糸の表面や内部への吸着分布に着目して、検討を行ないました。
検討の結果、柔軟成分に特定の両親媒性成分を加えることにより、柔軟成分を優先的に糸の表面に吸着させることが可能になりました(資料1)。これにより、肌に触れる糸の表面には、従来どおり柔軟成分が吸着することで衣類やタオルなどの柔らかさが維持されました。さらに、糸の内部には、素材本来の部分をより多く残すことで、水や汗をすばやく吸う性質を維持することが可能になりました(資料2)。
この現象のメカニズムについては、資料3に示したように、糸表面に柔軟成分が多く吸着している結果から、以下のように推測しています。糸は細い繊維が束なって構成されており、従来技術では、水中で柔軟成分は糸の表面から内部に侵入しながら、比較的均一に繊維に吸着していきます。これに対して本技術では、水中での柔軟成分と繊維の間の相互作用が変化することで、柔軟成分が糸の内部に吸着する前に糸の表面の繊維に優先的に吸着していると推測されます。
以上により、従来は両立の達成が困難であった衣類やタオルなどの「柔軟性」と「吸水性」を高レベルで両立する、新しい柔軟仕上げ技術を開発しました。
さらに本技術により、柔軟成分を優先的に糸の表面に吸着させることで、糸の内外で柔軟成分の吸着勾配ができた結果(柔軟成分の吸着分布コントロール)、次の2つの新たな機能を肌着などの衣類に付与することができました。
衣類に吸収された水分が、着用中に衣類がよじれたり圧迫されたときにかかる衣服圧などの圧力によって、再び浸みだす(濡れ戻り)現象があります。今回の技術により、この濡れ戻りと呼ばれる性質が、低く抑えられる効果が新たに発現されました。
汗などで濡れた衣類は、肌にはりついて不快を感じること(はりつき性)があります。今回の技術により、濡れた着用衣類が肌にはりつく力が弱まる効果が新たに発現されました。
本研究は、平成27年度繊維学会年次大会(2015年6月10日~12日)で発表する予定です。
花王株式会社 広報部
※社外への発表資料を原文のまま掲載しています。