伊藤薫子先生
(かおるこHappyクリニック院長)
40、50代は更年期症状だけでなく、骨密度の急激な低下にも警戒が必要な世代です。じつは50代以降の女性の4人に1人は骨粗しょう症といわれています。これから先の人生をアクティブに楽しむため、早めに骨粗しょう症予防を始めましょう。骨粗しょう症のリスクチェックや、骨密度を上げるための「骨活(ほねかつ)」を解説します。
「骨粗しょう症」とは、骨密度が減ってスカスカになることで、腰や背中が曲がったり、骨折しやすくなる病気です。具体的には、骨密度が若年成人(20歳~44歳)の7割以下だと、骨粗しょう症と診断されます。腰や背中が曲がるなんて、まだまだ先のことだと思ってしまうかもしれませんが、女性は40代半ば頃から骨粗しょう症のリスクが一気に上昇するので、決して他人ごとではないのです。
男性よりも女性の方が早期からなりやすい骨粗しょう症。あなたは大丈夫?以下の項目に1つでも当てはまるものがあれば、骨粗しょう症になるリスクが高いということです。
<骨粗しょう症のリスク チェックリスト>
作成:かおるこHappyクリニック
骨密度が低下すると、背骨の一部が押しつぶされて骨折することがあります。その結果、背骨が湾曲して身長が縮んだり、背中が丸くなったりします。こうした脊椎圧迫骨折は、痛みがなくて気づかないことが多いので、「いつの間にか骨折」とも呼ばれています。放置すると、誤嚥性(ごえんせい)肺炎や周辺の骨の骨折につながるので、早めに骨密度検査を受けましょう。
更年期は女性ホルモンのエストロゲンが急激に減少します。この変化は、骨密度にも大きな影響を与えます。なぜなら、エストロゲンには骨の形成を促し、骨を守る働きもあるからです。
骨密度は20歳前後にピークを迎え、40代前半まではほぼ保たれます。ところが、エストロゲンの分泌量が下降すると、それに合わせるように、どんどん骨密度も低下していきます。この流れを止めるには、骨密度の低下を抑える「骨活(ほねかつ)」を実践することが大事です。

骨粗しょう症のリスクは、女性の方が大きい
骨粗しょう症の予防のためにまず必要なことは、自分の骨密度を知ることです。できれば、女性ホルモンが急激に減る前に一度測っておくと、もともと骨密度が高めなのか、低めなのかがわかり、予防策が立てやすくなります。ですから、理想は「40歳になったら骨密度検査!」。
ただし、更年期を過ぎても骨密度を上げることは可能です。45歳以降でも、自分の骨密度を知らない人は、できるだけ早く骨密度検査を受けましょう。
骨密度を測る検査は、X線を用いるDXA(デキサ)法とMD法、超音波を用いるQUS法の3種類があります。どの検査も数分で測定でき、その日のうちに結果がわかることが多いでしょう。
これらの検査で最も信頼性が高いのは、腰椎(ようつい)と大腿骨の骨密度を測るDXA法です。ただ、この測定方法には大型の装置が必要なので、総合病院や骨粗しょう症治療に特化した整形外科など、測定できる施設は限られています。DXA検査ができる病院は「骨検」というサイトで探すことができます。

腰椎と大腿骨の骨密度を測るDXA法検査の様子。測定は5分程度で終わります。
また、腕の橈骨(とうこつ)で測定するDXA法、手のひらをX線撮影して測定するMD法、かかとの骨量を超音波で測定するQUS法は、コンパクトな装置で測定できるので、自治体の保健所、内科、婦人科など比較的多くの医療機関で行われています。
骨密度検査の結果、骨密度が若年成人と比較して80%以上なら「正常」、70~80%なら「骨量減少」(危険信号)、70%以下なら「骨粗しょう症」と診断されます。



骨粗しょう症予防のためには、骨密度を定期的に測り、経過を知ることが大切です。40代前半に1回は測っておきましょう。
そして、閉経から3年目・4年目・5年目は毎年測定を。全身の骨が入れ替わるのに3~5年かかるといわれているので、この時期に骨密度を測定すると、閉経を機にどれだけ骨密度が低下したかを把握できます。また、閉経から5年以降も、できるだけ年に1回は測定するのが理想です。ただし、骨粗しょう症と診断された人は、その時点から半年に1回測定することになります。
骨は皮膚などと同じように新陳代謝を繰り返しています。古くなった骨を壊す「破骨細胞」と、骨を作る「骨芽細胞」の働きで、半年ほどで新しい骨に生まれ変わり、3~5年で全身の骨が入れ替わります。つまり、骨芽細胞の働きを応援する生活習慣「骨活」を継続していれば、強い骨に作り替えることができるのです。まもなく更年期を迎える人も、現在更年期真っ最中の人も、今から骨活を始めて、骨密度低下を防ぎましょう。
骨を作る栄養素として欠かせないカルシウム。それと共に重要なのがビタミンDです。ビタミンDには腸でのカルシウム吸収を助けるだけでなく、骨や筋肉の形成を助ける働きがあります。
骨粗しょう症の人の場合、1日に摂取したいカルシウムは800mgですが、乳製品や小魚、大豆製品を意識して摂っていれば、比較的ラクに摂れる量です。一方、日本人女性の8~9割はビタミンD不足といわれています。ビタミンDが豊富に含まれているのは、天日干しの干しシイタケやキクラゲ、鮭やサバ缶などです。
ビタミンDは紫外線を浴びることで、皮膚でも合成できる栄養素です。夏場なら1日15分、冬なら1日に30分を目安に日光浴を習慣にしましょう。その際、紫外線を浴びるのは手のひらなど体の一部だけで構いません。顔などは日傘や日焼け止めクリームなどでしっかり紫外線対策しても大丈夫です。

食事で摂ったカルシウムの約7割は尿として体外に排出されます。アルコールには利尿作用があるので、飲酒するとせっかく摂ったカルシウムがますます排出されてしまうことになります。
また、アルコールは腸でのカルシウム吸収を妨げる働きも。カルシウムの排出量を増やさないために、お酒習慣のある人は、酒量を控えるなど、これまでの飲み方を見直してみましょう。
かかとに適度な衝撃を与えると全身の骨芽細胞が活性化され、骨を丈夫にすることができます。週3回以上1日8000歩を目標にしましょう。
歩くときは、
① 胸を張り、背筋を伸ばして体幹を意識する
② 着地はかかとから
が、ポイントです。ウォーキングは日光浴も兼ねることができるので、最もおすすめの運動です。
室内で骨芽細胞を活性化させる運動なら、かかと落としがおすすめです。ぐらつきそうな人は机などにつかまって立ち、つま先立ちから、かかとをストンと真下に落とします。前かがみで行うと、かえって腰を痛めてしまうこともあるので、背筋を伸ばした姿勢をキープしながら行うのがポイント。歯みがきをしながら、トイレのあと手を洗うたびに…10回行うなどして、1日5セット(毎日50回)を日課にしましょう。




もしも、骨密度が70%以下で骨粗しょう症と診断された場合でも、あきらめなくて大丈夫。早期に治療を始めれば、骨密度を上げることができます。 その際、まずは血液検査で破骨細胞と骨芽細胞のバランスを調べます。2つの細胞のバランスがよければ運動と食事の見直しで骨密度の上昇を目指す、破骨細胞の働きのほうが活発ならば薬も用いて治療するなど、いくつかの選択肢があります。骨粗しょう症の診療は整形外科が基本ですが、内科や婦人科でも治療を行うことがあります。
骨粗しょう症の治療薬には、骨吸収を抑える薬、骨形成を促進させる薬、骨に足りない栄養素を補う薬などがあり、医師と相談しながら症状に合った飲み薬や注射での治療を選ぶことになります。飲み合わせに注意が必要な薬もあるので、ほかの薬も服用している場合は、必ず医師に伝えるようにしましょう。
更年期に女性ホルモンのエストロゲンが減少したことにより骨密度が低下した場合には、HRTも治療の選択肢になります。骨粗しょう症対策だけでなく、更年期特有の不快症状を緩和する効果も期待できます。エストロゲン製剤には飲み薬と貼り薬、塗り薬(ジェル)があります。
骨密度は部位によって異なります。腰椎や大腿骨で計測するのがおすすめです。
大人の体には約200本の骨があり、どの骨も、外側の硬い「皮質骨」と、内側のスポンジのような「海綿骨」の二層構造になっています。ただし、皮質骨と海綿骨の比率は、体の部位によって異なるので、計測する部位によって骨密度は違ってきます。
なお、骨密度で問題となるのは、内側の海綿骨です。海綿骨の骨密度が低下してスカスカになるのが、骨粗しょう症だからです。骨密度を測るのであれば、海綿骨が多い腰椎や大腿骨を計測するのがおすすめです。
いいえ。女性ホルモンの減少が原因の可能性があります。
更年期に多い症状として、手指の関節のこわばりがあります。これは、女性ホルモンのエストロゲンが急激に減少したことが原因かもしれません。なぜなら、関節のなめらかな動きには、関節や腱などを覆っている「滑膜エストロゲン」の働きが関係しているからです。ただし、関節リウマチの可能性もあるので、まずは整形外科や内科などで検査を受けることをおすすめします。関節リウマチかどうかは、血液検査ですぐわかります。
遺伝も骨粗しょう症の要因です。
骨粗しょう症の要因は、加齢や女性ホルモンの減少、生活習慣(喫煙、過度のアルコール摂取、運動不足、栄養不足など)、そして遺伝です。親が骨粗しょう症と診断された人や、親が大腿骨骨折や脊椎圧迫骨折をした人はリスクが高いので、定期的に骨密度を測り、予防のための生活習慣を身につけましょう。
できないわけではありません。必ず医師に相談を。
骨粗しょう症の治療薬を服用している期間に、歯科でインプラントや抜歯をすると、顎の骨に影響が出る可能性があります。だからといって、どちらかの治療をあきらめる必要はありません。歯の治療中は骨粗しょう症治療の投薬を休む、別の薬に切り替えるなど、対策はあります。大切なのは、整形外科医、歯科医それぞれと相談しながら、治療を進めることです。

女性のための整形外科医師
伊藤 薫子 先生
かおるこHappyクリニック院長。日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会認定脊椎脊髄専門医。東京女子医科大学医学部卒業。2021年、東京の帝国ホテル内に「女性のための整形外科かおるこHappyクリニック」開院。大学病院で骨粗しょう症外来に4年間勤めた経験と、背骨の認定医としての知見を活かし、骨粗しょう症の早期発見と治療、骨活プログラムに注力している。いくつになっても背筋を伸ばしてハイヒールを履き、輝く女性を増やしたい、との思いをもって日々治療を行う。
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