【特集】ゆらぐ世代へフェムケアのすすめ Vol.1

婦人科医 対馬ルリ子先生「更年期をチャンスに。フェムケアの習慣が人生後半のQOL(生活の質)に大きな差」

2023.05.31

心や体がゆらぐ更年期。実はこの時期の過ごし方で、更年期はもちろんのこと、これからの人生のQOL(Quality of Life:生活の質)が大きく変わっていきます。特集第1回目は、現代女性の更年期&尿もれ事情をひもときながら、更年期のセルフマネジメント術について伺いました。

更年期の自覚は、40代後半から一気に高まる

対馬先生は、長年多くの女性たちと向き合ってこられました。更年期世代にあたる40代〜50代はどんなことに気をつけたらよいでしょうか。

更年期とは、閉経を挟んで前後5年間のトータル10年間のこと。つまり誰にでも訪れるのが更年期なのですが、閉経年齢には個人差があるため、人によってその時期は変わってきます。

症状としてはまず月経が不順になり、体調やメンタル面の不調が続いて、更年期だと自覚する方が多いです。特に重い症状はなく乗り切れてしまう方もいらっしゃいますが、なかには生活に差し支えるほどの症状がある方も2割くらいは存在します。自分は関係ないと思わずに、ご自身の体と向き合うことが大切ですね。

ここでデータを一緒に見ていきたいのですが。一般女性を対象にしたアンケート調査で、更年期の自覚は、40代後半から一気に高まり、50代前半で半数以上の人が自覚していることがわかりました。就業別にみると、フルタイム勤務の女性は、専業主婦やパート勤務の女性に比べて自覚しにくい傾向にあるようです。

年代別更年期の自覚

40代後半になると「今まさに更年期だと思う」と答えた方が25%に増え、50代前半では50%という結果に。

40代後半になると「今まさに更年期だと思う」と答えた方が25%に増え、50代前半では50%という結果に。

40代後半になると「今まさに更年期だと思う」と答えた方が25%に増え、50代前半では50%という結果に。

30~59歳女性 12,874人
(2021年12月 花王 生活者情報開発部調べ)

更年期の症状は、女性ホルモンのエストロゲンが閉経によって激減するという背景以外に、その人の気質的、体質的なもの、それから環境要因が大きく影響します。以前から、忙しい人は更年期症状を感じにくいといわれていましたが、働く女性において更年期を自覚している人が少ないというのは、忙しく過ごしているために気にしないでいられるということでしょう。

しかし、気にならないからといって、健康上、全く問題がないということではありません。元気なようでいて、以前よりも仕事がつらくなってきたり、家事がままならなかったり、飲み会などのお付き合いがしんどくなったということがあれば、更年期症状の一つといって良いかもしれません。

更年期の向き合い方は「やり過ごす派」が最多

アンケート調査からは、女性たちの更年期に対する向き合い方にも個人差があることがわかりました。相当つらくなるまでは、やり過ごしている女性が多いようです。

更年期の向き合い方について

「やり過ごす」と答えた方は44%。次いで多い順に「友達と話す」は22%、「病院に行く」は17%、「ネットで調べる」は9%、「認めたくない」は5%、「その他」は3%という結果に。

「やり過ごす」と答えた方は44%。次いで多い順に「友達と話す」は22%、「病院に行く」は17%、「ネットで調べる」は9%、「認めたくない」は5%、「その他」は3%という結果に。

「やり過ごす」と答えた方は44%。次いで多い順に「友達と話す」は22%、「病院に行く」は17%、「ネットで調べる」は9%、「認めたくない」は5%、「その他」は3%という結果に。

やり過ごす:みんなが通る道、特別何もせず何とかやり過ごす
友達と話す:友達と時々話して良さそうな対処法を試してみる
病院に行く:病院できちんとチェックした後で、対処法を見つけたい
ネットで調べる:ネットで調べてみるが、症状に合った対処法はよく分からない
認めたくない:「更年期」と認めたくないから、考えないようにして頑張る

※更年期でない人は「自分が更年期になったら」と想定して回答

40~50代女性 10,878人
(2021年12月 花王 生活者情報開発部調べ)

病院受診に抵抗があって、「もうちょっと様子を見よう」と受診を先延ばしにしている方は少なくないですね。

女性は、思春期、性成熟期、更年期と、人生の節目節目でなんらかの体調変化があったり、かかりやすい病気が変わってきます。特に更年期には、落ち込む、眠れない、ほてりがつらいなど、いくつもの不調が同時に重なることがありますから、困ったときに相談できるかかりつけ医がいると安心です。健診などで定期的に婦人科を受診する習慣をつけておきたいですね。今からでも遅くありません。

「女性の健康や活力のベースに女性ホルモンがある」というのは確か。更年期からはそれがなくなっていくわけですから、メディカルケアも含めて使えるものは使っていくという意識を持ちましょう。そうすることで知識や健康スキルがレベルアップしていき、ぐんと楽になります。これは私自身の経験からも言えることですが、医療、運動、栄養等の面で頼れる専門家がいるかどうか、誰を頼れば良いか知っているかどうかで、更年期の過ごし方も変わってきます。更年期は自分の体や生き方を見直すいい機会になるはずです。

不調を軽く、快適に過ごすためにできること

自分なりの病院受診のベストなタイミングを知るにはどうしたらいいでしょうか。

月経が不順になってきて、そのうえ体調やメンタル面の不調が続くとき。例えば眠りの質が悪くなった、なかなか疲れが取れない、仕事が終わって帰宅するともうだるくて動けないなど、「なんとなく今までと違うな」と感じ始めたときがいいでしょう。

婦人科では、採血をして女性ホルモンのレベルやバランスをみていくのですが、必ずしもホルモン値にははっきりと現れないこともあります。ですから私たち婦人科医は、検査数値は参考にしながらも、その方の年齢や症状も加味しながら診断していきます。我慢する必要はなくて、ちょっとつらいとか、体調面でこれまでと違うと感じているときには、気軽に相談してくださいね。

更年期の治療法についても教えていただけますか。HRT(ホルモン補充療法)の普及率が上がらないのは、日本の特徴といえますよね。

そうですね。日本では、諸外国に比べるとホルモンに対してネガティブイメージを抱く方が、まだ多いですね。ピルを使った経験がない場合、心理的に少しハードルが高くなるのかもしれません。

世界的にみると、更年期障害の治療法のゴールデンスタンダードといえばホルモン補充療法(HRT)、これが第一選択です。先進国では更年期女性の4~5割が選択している国もありますが、日本ではまだ数パーセント~10数パーセントといったところ。

エストロゲンの受容体は全身にあって、血管を守り、骨量を維持し、悪玉コレステロールを抑制し、皮膚のコラーゲン量を維持するなど、健康面はもちろん美容にも貢献しています。そして、女性の気分にもいい影響を与えてくれています。HRTを使うことで、やる気や活力が戻る方もいます。女性のトータルビューティ&ヘルスのために、ホルモンを上手に使っていくということは割と普通のことなんですよ。

HRTはまずは試しに使ってみるということでも、良いのですよね?

そうなんです。はじめるのは閉経前後が一般的で、HRTは保険適用。患者さん自身が選択して使っていくお薬(飲み薬・貼り薬・塗り薬の3タイプ)です。症状がつらいときにはまず1カ月使ってみる、といった取り入れ方もあり。不調の原因は更年期かもしれないし、何か他の病気が隠れているのかもしれませんから、病気の有無を調べることは大前提ですが。HRTを使ってみたら、つらい症状や不快な症状がだいぶ楽になったという自分なりの評価ができれば、「あの不調は更年期からくるものだったんだな」とわかりますよね。

調子がいいなら、そのままHRTを続けていく。量を調整したり、継続するかどうかも、患者さん本人が選択できますので、主治医と相談しながら進めていきましょう。

漢方はどのような方に向いているのでしょうか?

漢方の得意分野は、イライラやうつ状態、不眠、めまい、頭痛、冷え、睡眠障害など幅広く、日本人の体質や気質に合った処方がたくさんあります。心と体と、トータルで楽になったという患者さんもよくいらっしゃいますね。HRTと漢方のどちらかを選択しなくてはいけないということではなく、併用も可能です。

ゆらぐ世代の女性たちは、娘であり親であり社会人であり…と色々な役目があり忙しくしていますから、寝込んでいられないという方も多いです。使えるものは積極的に使って快適に過ごしましょう。しんどい思いをする必要はなく、楽になっていいのですよ。

注意したい点として、体調不良、イライラ、不眠、むくみなど、更年期の患者さんの訴えには、甲状腺の病気やリウマチ、膠原病(こうげんびょう)など、内科系の病気が隠れていることがあるんですね。ですから、治療は、まず病気がないかどうかの除外診断から進めていきます。そのためにも自己判断ではなく、信頼できるかかりつけ医を持つことです。更年期以降は、その人の体質的に弱いところや、長年の生活習慣による影響が病気になって出てきやすいということも知っておいてほしい点ですね。

閉経以降も健やかに生きていくために、女性ホルモンのゆらぎを「コントロールしていい」という考えが当たり前になるといいですね。

女性の体は月経の開始と同時に、女性ホルモンの変動がはじまります。子宮や卵巣の病気もあるかもしれないし、避妊や性感染症の対策も必要ですから、一生を通じて健康チェックや病気の対策はしていった方がいいです。

フランスでは、15歳から婦人科のかかりつけ医がつくというしくみを国が制度設計しているんです。いつでも子どもを産み育てていける施策も充実しているので、出生率2.07を達成するなど少子化対策で成功している国なんですね。日本も、少子化を解消したいなら女性が病院にかかりやすいようにして、若いうちからヘルスリテラシーを上げていくしくみを作れるといいですね。それがゆくゆくは病気の早期発見にもなるし、将来の妊娠・出産への前向きな動機づけにもつながりますし、医療にサポートされていると快適に働けるという点でも、とてもメリットが大きいと思うんです。

※2008年の出生統計(フランス国立統計経済研究所INSEE発表)

更年期以降の女性に増えてくる「尿もれ」や「GSM」について

最近では50代以上の人口が増えてきており、デリケートゾーンのトラブルや尿もれの悩みについても注目が集まっています。

フェムケアやフェムテックという言葉が話題に上るようになってから、腟まわりの不快感や性交痛、尿もれなどを訴え、受診する女性がとても増えていますね。医療者側の意識も高まっていて、GSM(閉経関連尿路生殖器症候群)研究会が発足したり、さまざまな治療法やケアアイテムも増えています。医療だけでなく、セルフケアの面でも患者さんに情報提供できるようになってきました。

尿もれに関しては「女性はもれなく漏れます」と言っていいくらいよくある症状です。これは、長生きリスクでもあって、妊娠・出産と加齢の影響から女性はどうしても骨盤底筋のダメージを受けやすい。どちらかというと前方が弱いので、まずは尿もれや腟まわりの不快感が現れ、その後お尻の方も緩んでくる。尿だけでなくガスが漏れるという悩みも出てきます。

女性はもともと尿道が短く、男性よりも尿もれの悩みが深刻になりやすい。くしゃみをしたときや重いものを持ったときなどに漏れるなど、妊娠・出産時や、骨盤底筋のダメージが現れる50歳以降の女性で経験者が増えていきます。

※GSM(閉経関連尿路生殖器症候群)とは?
閉経後の女性ホルモン低下に伴う、外陰部・腟の萎縮変化およびそれに伴う身体症状のこと。腟の乾燥感・かゆみ・灼熱感、いやなにおいのおりもの、性交関連症状として性交時の痛み、潤いの不足のほか、排尿に関する症状としてトイレが近い、夜中に何度もトイレに行きたくて起きる、尿もれなどがある。

過去に「尿もれ」の経験がある
成人女性の割合

過去に尿もれ経験ありと答えた方は、20代では19.1%、30代では36.3%、40代では41.0%、50代では45.8%、60代では48.4%という結果に。

過去に尿もれ経験ありと答えた方は、20代では19.1%、30代では36.3%、40代では41.0%、50代では45.8%、60代では48.4%という結果に。

過去に尿もれ経験ありと答えた方は、20代では19.1%、30代では36.3%、40代では41.0%、50代では45.8%、60代では48.4%という結果に。

20~60代女性 52,920人(2021年 花王調べ)

GSM症状に対して、どのような対策がありますか?

閉経以降は、エストロゲンの分泌がゼロに近づいていくので、腟の粘膜が弱くなり、菲薄化といって非常に薄くなっていくんですね。そのために、少しの刺激でも敏感になってひりひり・ぴりぴりするような症状が出たり、萎縮性腟炎といって腟が乾いてただれた状態になったりすることが増えます。また、子宮内膜症などの病気も、GSM症状を悪化させることがあります。

先日は「ジーンズの縫い目があたる部分が痛い」といって受診された方がいましたが、その方はレーザー治療で腟の不快症状が改善しました。あとは若いパートナーができたから性生活を良くしたいというお悩みもあり、人それぞれ。年齢だけでなく、その方のライフスタイルによってもGSM関連の悩みは変わってくるものです。

腟の状態を良くするには、マッサージ、全身ストレッチ、保湿ケア、性交痛には潤滑剤の利用などのセルフケアのほかに、医療面ではエストロゲンの腟錠、レーザー治療などのさまざまな選択肢があります。骨盤底筋のゆるみは適切なトレーニングで8~9割の方は改善しますし、医療機関によっては骨盤底指導外来というものもできていたりします。フェムテックには骨盤底筋トレーニンググッズや超音波で自分の骨盤底筋の状態をチェックできるような機器もあります。何にせよ、GSM症状は改善できます。「我慢しないで快適になってもいいんだよ」ということを伝えたいですね。女性泌尿器科や婦人科で、またはかかりつけ医に相談してみてください。

未来の自分のために。セルフマネジメントのすすめ

最後に、この時期のセルフマネジメント術のポイントを改めて教えてください。

更年期は、人生でいうと真ん中の折り返し地点。ここから体質も変わり、病気のなりやすさも変わっていきます。それから老化の速度が急激に速くなりますので、さまざまな変化に対してちゃんと備えをすること。その備えの一つが知識です。

特にエストロゲンは全身に作用するホルモン。卵巣からのホルモン分泌がストップする閉経以降は、脳や皮膚、口(歯)、骨など、体の色々なところが弱くなっていきます。どうしたらもっと快適に過ごせるか、自分の健康度をあげていけるのか。生活を工夫するのはもちろん、女性の体やホルモンの特徴を知る、そしてかかりつけ医に相談できる体制を取っておくということ。そうすると先々の予測ができるようになり、自分の引き出しがどんどん増えていきますよ。

ちょっと厳しく聞こえてしまうかもしれませんが、更年期をないがしろにしてただやり過ごすだけにすると、そのあとの健康づくりが全然できなくなってしまいます。関節が痛い、見た目の衰えが速い、骨折しやすい、脳機能の低下が早いというように、全身に影響が及ぶのです。

中には、時間がない、忙しい、自分なりに何とかやってみますと言って、何年も一人で悩む女性がいらっしゃいます。結局良くならずに、職場でも居心地が悪くなって仕事を辞めました…と、そうなってようやく病院を受診されたりするのは、もったいないと思うんですね。早く相談してくれたら、周りの人もどれだけ助かるか。結果として、お金も時間も節約できるのですから、専門家を上手に活用してほしいと思います。

働く女性が増えてきている現代、女性たちの応援団になりたいという医師も増えてきています。医師に学んでもらうためにも、女性の皆さんにはどんどん受診をして「ああでもない」「こうでもない」と、リアルな悩みを伝えていただけたらうれしいですね。

自分の健康について専門家の手も借りながら「引き出しを増やす」というのが、更年期以降の過ごし方で非常に大事なポイントなんですね。

そう。これまでの自分の経験と科学的な知識と、専門家からの情報を組み合わせて、自分の〝トリセツ〟を作っていくようなイメージです。年齢に合わせたメンテナンスを考えていくことが大切です。そうすると、90代、100歳まで若々しく美しく、そして快適という、自分らしい健康状態を作っていけると思うんですね。それこそが本当の最先端医療だと、私は思っているのです。

頑張ることとヘルスリテラシーは両立できます。健診を受けたり、医師に相談したりして、更年期のことを正しく知っている、そして自分の今の状態を理解していることは、大きな強みになりますから。最近はパートナーと一緒に、健康づくりに取り組む方も増えてきましたね。更年期は未来の自分に対する投資の一番いいチャンスです。しっかり取り組むことでどんどん調子がよくなる。そんな更年期って、すごく楽しいですよ。

聞き手・取材・文/医療ライター 及川夕子

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今回お話を伺った先生

対馬 ルリ子 先生の写真

産婦人科医師、医学博士
対馬 ルリ子 先生
女性ライフクリニック銀座・
新宿 理事長

弘前大学医学部1984年卒。専門は周産期学、女性医療(ウィメンズヘルス)。東京大学医学部産婦人科学教室助手、都立墨東病院周産期センター産婦人科医長などを経て、2002年ウィミンズ・ウェルネス銀座クリニック(現 女性ライフクリニック銀座)を開院。03年にNPO法人「女性医療ネットワーク」を設立。2020年には、困窮する女性、行き場のない女性を、支援者が連携して助けるしくみ「日本女性財団」を女性医師や女性経営者の協力で立ち上げた。女性の生涯にわたる健康の実現に向けて診療・啓発・支援に広く活躍。著書に「閉経のホントがわかる本(集英社)」など多数。

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