産婦人科専門医師(医学博士)・ 吉形玲美先生
更年期や閉経という言葉が頭をよぎりはじめる40代。体が大きく変わる時期を見据えて準備をしておきたいけれど、「いったい何から始めれば…」「そもそも私の閉経はいつ頃?」と不安を覚えている人も多いのでは。40代が迷いがちな更年期のサインや閉経の定義、おおよその閉経時期を予測する方法を専門医のアドバイスとともに紹介します。
自分の更年期を知りたい、閉経年齢を事前に知りたい…というのはとてもいい視点です。更年期の定義は閉経を挟んで前後5年間ずつ。「更年期を45歳〜55歳の10年間」と記憶している人も多いかもしれませんが、おおよそ50歳を平均的な閉経年齢としていることからそう言われることが多いということです。実際には40代後半で閉経する人もいれば、60歳近くまで月経が続く人もいます。
閉経年齢はみんな違うので、更年期の年齢もみんな違う。だから、自身の「閉経」タイミングを意識しないと更年期の時期は見えてきません。同世代の友人の話やネットなどの情報と比較して、不安になることもあるかもしれませんが、惑わされずに自分の体と向き合うことを意識しましょう。
閉経
卵巣が寿命を迎え、卵巣からのエストロゲン分泌がなくなり排卵が行われなくなることを閉経と言います。医学的には40歳を過ぎて1年以上月経がない場合に、最後に月経がきた時点での年齢を閉経年齢としています。
FemCare LABの読者アンケートでは、40代のプレ更年期の女性たちから「更年期がいつ頃くるのか、わからないから怖い…」という声が多く寄せられます。何となく不調があるけれど、これを更年期症状だと判断していいのか迷うことも多いはず。
■ そもそも「プレ更年期」とは?
女性のライフステージでいうと、更年期に入る前の時期をわかりやすくするため「プレ更年期」と表現されるようになってきました。年齢でいうとだいたい40代前半を指します。
更年期のはじまりのサインは人によりさまざまですが、月経周期の乱れ、ほてり、のぼせ、疲れやすいなどの自律神経症状を自覚することが多いと言われています。
そもそも更年期症状は多種多様。ほてり、発汗、冷えといった体温調節の不調のほか、めまい、だるさ、不眠、イライラ、気持ちの落ち込み、意欲の低下などもよくある訴え。ほかに頭痛、肩こり、背中の痛み、手指の関節痛などの訴えも更年期には多くなります。また更年期症状は月経の変化を意識してくる頃から「体の症状」として出はじめ、追って「メンタル(精神)の不調」が出てくる方が多い傾向にありますが、人によってさまざまです。
■ 実はその症状、更年期ではないかも…
ただこうした症状は、更年期に限らず女性全般にみられることも確かです。40歳に入って体の不調が続き「もしや更年期障害では?」と病院に駆け込んだら、実はPMS(月経前症候群)による不調だったというケースも少なくありません。
ほかにも頭痛や肩こりは運動不足やストレスなどの生活習慣が原因になっていたり、不調の陰に過多月経による貧血(鉄欠乏性貧血)やメンタル不調、甲状腺疾患などの病気が隠れていたりすることもあります。
特にPMSと更年期障害の症状は似ていますが、原因も治療法も異なります。40代前半で月経周期が順調で、月経前に症状が出やすい場合にはPMSの可能性が高いでしょう。問診やホルモン検査で鑑別できるので、不調が気になる場合には婦人科を受診しましょう。
PMS
月経前、3~10日の間続く精神的または身体的症状のことで、月経開始とともに軽快するか消失するものをいいます。精神的症状としてイライラする、憂うつ、情緒不安定になる、集中力がなくなるなど。身体的症状として肌荒れ・ニキビ、過食、体重増加、不眠、疲れ・だるさ、頭痛、腰痛、むくみ、のぼせなど。
貧血(鉄欠乏性貧血)
女性に多く、月経過多や鉄分不足、妊娠・出産、造血力の低下、激しい運動などが原因となって起こります。主な症状には全身倦怠感、耳なり、めまい、動悸、肌の乾燥、肩こり、頭痛、抜け毛などがあります。
甲状腺疾患
甲状腺ホルモンの乱れによって引き起こされる病気。バセドウ病や橋本病といった疾患があります。女性に多く、疲れやすい、汗をかく、寒がり、イライラ感、眠気、息切れ、筋力の低下、無月経など、月経異常や更年期障害のような多様な症状が特徴です。
では、自分の閉経時期を知る方法は?医療機関で検査を受けないとわからないものなのでしょうか。
自分の閉経時期を明確に知る方法はありませんが、自分で予測することはできます。月経や基礎体温の変化から、ある程度検討がつくのです。月経の日を記録するだけでは「排卵していない(=卵巣機能が低下している)」ということが判断できないので、基礎体温とセットでみていきましょう。お金も手間もそれほどかからないうえに、婦人科受診の際にも役立つセルフチェック法としてお勧めです。
① 月経周期から閉経時期を知る
周期が短くなる、早く終わる、出血がダラダラと続き月経のはじまりと終わりがわかりにくいなど、40代で月経不順を自覚したら卵巣のエイジングのサインであり、更年期の入り口に差し掛かっていると思ってOK。「数年以内に閉経がきそうだな」というように推測できます。その後、月経が飛び飛びになり「2~3か月に一度しか月経がこない」「月経が止まっていて半年ぶりに月経がきた」ということがあれば、「およそ1〜2年以内に閉経がきそうだな」というように推測できます。
<妊娠の可能性は?>
閉経が近づくと月経があっても無排卵であることが多くなると考えられますが、数回に一回は排卵している場合があります。妊娠を希望しない場合には、完全に閉経するまでは避妊が必要です。
② 基礎体温から閉経時期を知る
低温期と高温期の二相のパターンが定期的に繰り返されていれば、排卵機能は安定していると言えます。更年期に入り閉経に近づくと、高温期を作るプロゲステロン(黄体ホルモン)が減少していくために低温期と高温期の区別がつきにくいグラフに変化していきます。
月経前にほてる、イライラするなど、月経周期とともに体調の変化もメモをしておくとPMSの可能性を探ることもできます。もともと周期が不順の人や夜用ナプキンでも漏れるほど大量出血がある場合などは別の病気を疑ってみることも必要です。
婦人科で受けられるホルモン検査やAMH検査(卵巣機能の予備能をチェックする検査)の結果からも、ある程度、閉経タイミングの予測がつきます。かかりつけ医に相談してみてもいいでしょう。
閉経が近づくと高くなるのが卵胞刺激ホルモン(FSH)。通常、卵巣機能がしっかりしているとこの数値が上がることはないので、血液検査でFSHが基準値よりも上昇していたら閉経に向けた準備が始まりつつあるとみることができます(25mlU/ml以上なら閉経)。かつ、エストロゲン(エストラジオール)20pg/ml以下が閉経の目安になります。ただ、更年期の卵巣機能にはゆらぎがあるため一度の検査で閉経の判断はできません。半年ごとに検査を受けてFSH が少しずつ高くなっているようなら、閉経が近いと判断できます。
■ ピルを服用している
ピルを服用していると血中のホルモン量が安定した状態が続くので、更年期に入っても更年期障害のような症状は起きにくいと考えられます。基礎体温も変動しません。ただ内因性の変調はやはりあって、これまでと何か違う、気分や体調の安定感が得られないと感じたら主治医に相談してみましょう。もしくは年齢などを考慮して主治医から何らかの提案があるかもしれません。
■ 手術で子宮を全摘している
子宮を摘出していると月経は無くなりますが、卵巣が残っていて機能していれば、体内では毎月の排卵やエストロゲンの分泌が行われており閉経したわけではありません。セルフチェックとして基礎体温をつけ、40代に入り更年期症状と思われる不調を自覚したら、婦人科でホルモン検査を受けるなど相談してみるといいでしょう。
近頃は、いくつになっても若々しい女性が増えてきました。ところが卵巣の寿命や閉経年齢は昔と比べてそれほど延びてはいません。長寿な現代女性は、閉経後、それまで何十年も体を守ってくれていた「女性ホルモン」がない状態で後半戦を生きていくことになります。
ゆらぎ始める「女性ホルモン」の変化に何も対処しないでいると、人によっては重い更年期障害に悩まされることも。そこで40代前半、プレ更年期から意識してほしいのが「閉経マネジメント」です。自分の閉経時期を予測して、更年期以降に起きてくるさまざまな不調から自分をできるだけラクにしてあげるための作業のことです。
このプレ更年期のタイミングに、自らの意思で体を守るために各種検査や健康習慣などケアや準備を少しずつ進めておけば、その後に訪れる更年期をラクに過ごすことにつながります。
取材・文/医療ライター 及川夕子
産婦人科専門医師、医学博士
吉形 玲美 先生
医学博士、日本産科婦人科学会産婦人科専門医、日本更年期と加齢のヘルスケア学会副理事長。産婦人科臨床医として医療の最前線に立ち、婦人科腫瘍手術等を手掛ける傍ら、女性医療・更年期医療のさまざまな臨床研究にも数多く携わる。女性予防医療を広めたいという思いから、2010年より浜松町ハマサイトクリニックに院長として着任。現在は同院産婦人科専門医として診療のほか、多施設で予防医療研究に従事。月経不順、妊活、更年期など、ゆらぎやすい女性の身体のホルモンマネージメントを得意とする。’22年7月『40代から始めよう!閉経マネジメント』(講談社)を上梓。
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