女性泌尿器科医師・佐藤亜耶先生
(自由が丘ウロケアクリニック院長)
デリケートゾーンのかゆみ、におい、違和感、尿もれ… これらの対策に欠かせないのが、「第2の顔」とも言われるデリケートゾーンのお手入れです。とくに女性ホルモンの分泌量が減り始めるプレ更年期からは、これらの不快症状が出やすくなるため、ケアするか否かで心身の快適度も大きく違ってきます。正しいお手入れを習慣にして、体も心もうるおう毎日を手に入れましょう。
肌のくすみ、疲れやすい、月経(生理)の乱れなど、女性が不調を感じるきっかけはさまざま。そして、更年期を迎える40代・50代になると、女性ホルモンの急激な減少により、腟まわりの乾燥や性交痛、頻尿・尿もれなど、デリケートゾーンの悩みも増えてきます。
実は、デリケートゾーンは「第2の顔」とも言われるほど、身体のどの部分よりも皮膚が薄くて敏感な部位。それだけに、加齢にともない乾燥して萎縮したり、ハリがなくなったり… 何かしらのトラブルが起きやすいのです。そのため、洗顔の後、スキンケアをするように、デリケートゾーンにも日々のケアは必須。しっかり保湿することで、しなやかでうるおいのある膣まわりに整うのです。
■ デリケートゾーンは全身でいちばん吸収率が高い!
出典: Feldmann RJ. et al.: J Invest Dermatol Feb; 48(2): 181-3, 1967)を改変
皮膚が薄くて敏感ということは、それだけ皮膚に与えたものが浸透しやすいということ。実際に、デリケートゾーンは全身でいちばん経皮吸収率が高い部位です。しっかり保湿ケアをすれば、その効果を実感することができるでしょう。
健康な肌は弱酸性(pH4.5~6.5)ですが、デリケートゾーンはそれよりもさらに酸性に傾いた弱酸性(pH3.8~4.5)。そのおかげで、外からの細菌が腟の中に侵入するのを防ぐことができます。普通の石けんやアルカリ性のボディソープで洗ってしまうと、刺激が強すぎて腟の自浄作用を失うことも。デリケートゾーン専用の肌にやさしい弱酸性の洗浄料をおすすめします。
洗い方は、ゴシゴシこすったりせず、しっかり泡立てた泡で包み込むように。垢がたまりやすい小陰唇のひだの間もやさしく丁寧に洗いましょう。ただし、腟の中まで洗うのはNG。腟の中には、悪い細菌から守ってくれる善玉菌(乳酸菌の1種であるデーデルライン桿菌)が常在しています。それを洗い流すと、細菌感染を招くことにもなりかねません。
デリケートゾーン専用品には、便利な優しい泡タイプの洗浄料(弱酸性)もあります。
①弱酸性の専用洗浄料を使う
②泡で包み込むようにやさしく洗う
③ひだの間も垢がたまりやすいので丁寧に洗う
④腟の中は洗わない
顔を洗ったまま何もしないでいるとカピカピに乾燥してしまいますよね。デリケートゾーンはもっと繊細!きちんと保湿をしないと、顔よりもトラブルを招きやすい状態に。洗った後は専用のローションやオイルで保湿しましょう。
保湿に使うアイテムは、デリケートゾーン専用のものをぜひ使いたいところです。体の中でいちばん敏感な部位なので、「ボディ用なら大丈夫」と過信できません。とくに粘膜部分は、できるだけ刺激の少ないデリケートゾーン専用の保湿アイテムを選びましょう。
保湿は、お風呂上がりにタオルで軽く拭いたあとに行います。清潔な指で、粘膜に塗り込むように、やさしくマッサージするような気持ちで、腟まわりをほぐしなでるようにします。こうすることで、保湿と共に血行を促すことができます。爪が長い人は、皮膚を傷つけないように注意しながら行いましょう。
①刺激の少ない専用保湿アイテムを使う
②洗ってから、軽くタオルで拭いた後に
③やさしくなでるように保湿する
デリケートゾーンは、ふっくらと張りがあり、普段から湿っているのが健康な状態です。その状態を維持するためには、「洗って清潔にする」「保湿ケアする」といったお手入れが欠かせません。今日からお風呂上りのルーティンに加えましょう。
あなたは、鏡で自分のデリケートゾーンを見たことがありますか?
健康な状態の陰唇(大陰唇・小陰唇)はふっくらとしてハリとうるおいがあります。一方、女性ホルモンが減ってくると陰唇は乾燥し、薄くてペラペラに。さらに乾燥が進むと、粘膜が白っぽくなったり、炎症で赤みが強くなったりします。こうした見た目の変化とともに、違和感やかゆみ、痛みが起こります。
これまでこうしたデリケートゾーンの不快症状は、「加齢のせい」だから「しかたない」で片づけられてきた傾向があります。病院でも「萎縮性腟炎(老人性腟炎)」と診断される場合がありました。しかし、今や人生100年時代。昨今、こうした症状は「GSM(閉経関連尿路生殖器症候群)」と呼ばれ、女性のウェルビーイングのために、きちんと改善していこう!という動きになっています。
①デリケートゾーンの乾燥・不快感
②排尿トラブル(頻尿・尿もれ・再発性膀胱炎)
③性交痛などのセックストラブル
「GSM(Genitourinary Syndrome of Menopause)」とは、閉経関連尿路生殖器症候群のこと。つまりは女性ホルモンが著しく減少する更年期に主にデリケートゾーンに現れる症状で、慢性かつ進行性の疾患です。
うるおいホルモンともいえる女性ホルモンのエストロゲンが減少すると、デリケートゾーンは乾燥と萎縮が起こりやすくなります。その上、おりものが減ることで自浄作用も弱まるので、細菌の繁殖や炎症を起こしやすい状態になるのです。こうした身体の変化とそれに伴う不快症状が、GSMです。「40代以降の女性の約半数がGSMを発症している」という調査報告※も。萎縮性腟炎(老人性腟炎)と診断される場合もあります。
GSMは進行性の疾患なので、「もしかして、そうかも…」と違和感に気づいたら、すぐに対策が必要です。デリケートゾーンをきちんとお手入してあげることで、ダメージを修復し、免疫力やうるおいを呼び戻すことができます。「デリケートゾーンも、顔と同じく、毎日のお手入が肝心!」これがオトナ女性の新常識です。
「自覚がなくても、実はGSMだった」という場合も。以下の症状がある人は、デリケートゾーンの乾燥と萎縮が疑われます。予防のためにも若いうちからフェムケアの習慣を。
これもGSM? 乾燥・萎縮が原因の症状チェックポイント
「お手入れについて専門家のアドバイスを受けたい」「症状がとてもつらい」といった場合は、女性泌尿器科や婦人科(レディースクリニック)、ウロギネ外来(泌尿器科と婦人科の境界領域)を受診しましょう。
デリケートゾーンのお手入れに加えて、骨盤底筋トレーニングも行うのがおすすめです。
骨盤底筋を鍛えると、
■膀胱を支える力や排尿をコントロールする働きが向上する。
■骨盤内の臓器の血流がよくなり、膀胱・尿道がしなやかさを取り戻す。
といった、尿もれ改善に役立つ効果が期待できます。
さらに、
■骨盤底筋の外側にある粘膜や皮下組織の血行もよくなり、デリケートゾーン全体がうるおう。
といった効果も期待できます。
女性のQOL(生活の質)を上げるために欠かせない2本柱。「お手入れとトレーニングは一生もの」だと心得て、生涯の習慣にしましょう。
トイレの後のデリケートゾーンの拭き方、何が正解?
ゴシゴシ拭くのはNG。押さえるように拭きましょう
排尿後、トイレットペーパーでゴシゴシ拭く人がいますが、これはよくありません。デリケートゾーンの皮膚がダメージを受け、乾燥やかぶれを招いてしまいます。トイレットペーパーを当てて、押さえるように拭きましょう。できれば、刺激の少ないソフトな肌触りのトイレットペーパーを使用するのがおすすめです。
排便の後は、おしりの後ろから手を回して、前から肛門の方に向かって拭きます。股の間から手を入れて拭いてしまうと、大腸菌などの細菌が腟や尿道に入り、膀胱炎や細菌性腟症の原因になることもあります。肛門のまわりも皮膚が薄くて敏感なので、やさしく拭き取って。トイレットペーパーのカスが残るほど、ゴシゴシこすらないようにしましょう。
勢いよくシャワーや温水洗浄便座で腟を洗うのはダメ?
腟の中は洗ってはいけません。腟まわりを洗うときは、強い水圧や高温は避けて
腟まわりを洗うはいいのですが、腟の中を洗うのはよくありません。細菌感染を招くおそれがあります。また、デリケートゾーンはトイレではなく入浴時に洗うのがおすすめです。そのときに気をつけてほしいのは、シャワーの水圧と湯温です。デリケートゾーンの皮膚は敏感なので、強い水圧や高めの湯温は刺激が強過ぎ、かえって乾燥を招くことに。かゆいからと言って強い水流で念入りに洗うのは逆効果です。やさしい水圧のぬるま湯で短時間洗うことを心がけましょう。
デリケートゾーンのムレ・においが気になる場合は?
通気性のよい下着を選んで。おりものシート、吸水ケア用品なども上手に活用しましょう
ムレを抑えるために、まず大切なのは下着選び。肌への刺激が少なく、吸水性が高く(=汗を吸い取る)、通気性の良い(=ムレを防ぐ)素材のものを選びましょう。
また、おりものが多い場合はおりものシート、尿もれがある場合は尿もれケア専用品(吸水ライナーや吸水パッド)を利用するなど使い分けることも大切です。
これらのアイテムを使用する場合は、1日中つけっぱなしにするのでははく、トイレに行くたびに取り替えることが大切です。
また、生理用品・吸水ケア用品の売り場には、デリケートゾーンの汚れを拭き取る専用シートも並んでいます。こうしたケア用品を利用するのもいいでしょう。
ナプキンやおりものシートでかぶれやすい場合は?
肌にやさしい素材のものを選んで。こまめに取り替えることも大切です
市販のナプキンやおりものシートの中には、表面をコットンにするなど低刺激の素材を使用し、通気性の高さにこだわった製品もあります。自分の肌に合った製品を探してみましょう。
また、ナプキンやシートは、表面的には汚れていなくても、かなりの汗や腟の分泌物で湿っている状態なので、そのままにしておくと、ムレ・かぶれの原因になります。汚れがついていなくても、1日中つけっぱなしにせず、こまめに交換しましょう。
陰部のかゆみ、かぶれが起きてしまったら?
自己判断で市販薬を使うのではなく、医療機関を受診しましょう
デリケートゾーン(陰部)のかゆみは、単なるかぶれではなく、カンジダ症、細菌性腟症など感染症が原因の場合もあります。かゆみが続く、おりものの異常があるといった場合は、女性泌尿器科や婦人科、ウロギネ外来(泌尿器科と婦人科の境界領域)などを受診し、必要に応じて治療を受けましょう。
また、市販薬を使う場合は、塗る箇所に気をつけて。腟内や腟の入り口などの粘膜部分にはつけない注意が必要です。薄い粘膜部分はとくに吸収しやすいので、薬剤の影響を過剰に受ける心配があります。
女性泌尿器科医師
佐藤 亜耶 先生
自由が丘ウロケアクリニック院長
日本泌尿器科学会認定専門医、医学博士。日本大学医学部卒業後、研修医を経て同大学泌尿器科に入局。以降、関連病院で診療経験を積み、2019年に女性泌尿器科・小児泌尿器科に特化した自由が丘ウロケアクリニック開院。日本泌尿器科学会、小児泌尿器科学会、女性骨盤底医学学会、日本夜尿症学会所属。
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