女性泌尿器科医師・佐藤亜耶先生
(自由が丘ウロケアクリニック院長)
更年期にあたる40代・50代は、女性ホルモンの急激な変化に伴い「尿もれ」の原因である“骨盤底筋のゆるみ“が加速します。対策として有効なセルフケア、骨盤底筋トレーニングが注目を浴びていますが、自己流ではうまくできない、続けられない…といった声も。そこで、専門医にトレーニングのコツを伺いました。
継続的に鍛えていないと、加齢と共に筋力は低下の一途をたどります。骨盤底筋も同じこと。とくに、更年期以降は、急激に筋力が低下します。
まだ尿もれになっていなくても、40代に入ったら、骨盤底筋トレーニングを始めましょう。40代・50代に多い尿もれの腹圧性尿失禁や混合性尿失禁は、骨盤底筋トレーニングを習慣にすることで予防・改善が期待できます。また、便もれや骨盤臓器脱の予防にも役立ちます。
①コツをつかんで正しく行うこと
②毎日継続して行うこと
骨盤底筋トレーニングは、骨盤底筋を意識しながら、腟と肛門を「締める」「ゆるめる」を繰り返すのが基本型。骨盤底筋と横隔膜(肺の下にある筋肉)は連動するので、締めるときは息を吐きながら、ゆるめるときは息を吸いながら行います。
コツさえつかめば、とても簡単!いつでもどこでも、気軽にできます。きちんとできていれば、人によってはトレーニング開始後1カ月後くらいで、通常は2~3カ月で効果が出てくることが多いでしょう。
ただし、骨盤底筋トレーニングは、継続することが重要。効果が出たからといって、トレーニングをやめてしまうと、すぐ元に戻ってしまいます。歯磨きのように毎日の習慣にしましょう。
座ってても立ちながらでも、腟まわりを意識して動かすトレーニングを。
まずは、背筋を伸ばして、お尻や肩に力が入らないようにリラックス。
息を吐きながら3秒「締める」、息を吸いながら3秒「ゆるめる」を10回繰り返す。これを1セットとして、1日に5~10セットを目標に毎日行います。
息を吐くときに、尿道口・腟口・肛門を体の内側に引き込むようにイメージしながら締める
■すきま時間に、こっそり鍛えよう!
骨盤底筋トレーニングは毎日継続してこそ、効果が期待できます。立つ、座る、横になる…どの姿勢でも腟を意識するだけでできるので、通勤途中や入浴時、家事の合間などタイミングを見つけて、こっそり実践しましょう。
いつでもどこでも、誰にも知られず。こっそりトレーニングを習慣にしましょう!
■ちゃんとできている?確認するには…
腟と肛門を「締める」「ゆるめる」の感覚がよくわからない人もいるでしょう。その場合は、入浴時に人差し指を第一関節あたりまで腟の中に入れた状態で収縮させてみましょう。腟を締めたときに指が上に引き込まれるようであれば、ちゃんとできています。
体幹の深部にある4つの筋肉(骨盤底筋・横隔膜・多裂筋・腹横筋)を総称して「インナーユニット」といいます。インナーユニットは連動して働くので、これらの筋肉が衰えると骨盤底筋も衰えます。逆に、インナーユニットがしっかり機能しているということは、骨盤底筋は健全だということ。骨盤底筋トレーニングとともに、日頃からインナーユニットを意識した姿勢を心掛けることが、尿もれの予防・改善に役立ちます。
■ インナーユニットを構成する4つの筋肉
■ 正しい姿勢【立ち方】
両足をこぶし1つ分あけて立ち、腟からおなかを引き上げるイメージで。
■ 正しい姿勢【座り方】
腟を閉めながら、左右の坐骨で座るイメージで。
骨盤底筋を鍛えるメリットは、尿もれの予防・改善だけにとどまりません。“脱おばさん体形”にも効果が期待できます。また、自律神経を整え、血液やリンパの流れを促すことで、不眠・冷え・肩こり・腰痛などの不調改善にも役立ちます。
骨盤底筋を鍛えることで期待できるメリット
「骨盤底筋トレーニングを続けても症状が改善しない」、「尿もれが気になって日常生活に支障がある」といった場合は、一人で悩みを抱え込まずに、医療機関を受診してみましょう。尿の困りごと全般に対応してくれるのは、泌尿器科です。
最近は、女性専用の泌尿器科(女性泌尿器科)、泌尿器科と婦人科の境界領域を診療するウロギネ外来などもあります。また、更年期の治療に力を入れている婦人科(女性ヘルスケア専門医など)で相談してみるのもいいでしょう。
尿もれで受診した場合、まずは尿もれの症状・原因を調べてから治療が行われます。更年期に多い腹圧性尿失禁の場合は、骨盤底筋トレーニングの指導がメインになりますが、症状によっては薬が処方される場合も。とくに切迫性尿失禁や混合性尿失禁では、薬で症状が改善することもあります。
また、尿もれの症状が激しい場合は、テープで尿道を引き上げる手術を行う場合も。このように尿もれの種類や程度により治療法はさまざまです。
泌尿器科では尿もれだけでなく、頻尿、排尿時の痛みなど、尿の異常全般に対応してくれます。尿もれで受診した場合、問診、尿検査、超音波検査などを行います。医師がデリケートゾーンを診たり触ったりするケースは、それほど多くはありません。ただし、骨盤臓器脱が疑われる場合やデリケートゾーンのトラブルのときは、内診や触診をすることがあります。
軽い尿もれでも、「におうかも…」「下着がぬれて不快…」「衣類に染み出るかも…」と心配する人は多いようです。そんな尿もれトラブルを回避するために上手に活用したいのが、吸水ライナーや吸水ナプキンといった吸水ケア用品です。
生理用ナプキンで代用しようとしても、経血と尿では成分、粘度などの性質が違い、においの種類も異なります。そのため、生理には生理用、尿もれには吸水用と、使い分けましょう。
吸水ケア用品は、尿のような液体に対する吸収性能が高い素材を使用しており、尿独特のにおいを消臭する機能もあります。
吸水ケア用品を上手に使うには、自分の症状に合ったアイテムを選ぶことが大切です。吸水量や薄さ、形状などバリエーションが豊富なので、今の自分に最適なものを見つけましょう。旅行や趣味、外出時の不安もなくなりQOL(生活の質)も向上します。
女性泌尿器科医師
佐藤 亜耶 先生
自由が丘ウロケアクリニック院長
日本泌尿器科学会認定専門医、医学博士。日本大学医学部卒業後、研修医を経て同大学泌尿器科に入局。以降、関連病院で診療経験を積み、2019年に女性泌尿器科・小児泌尿器科に特化した自由が丘ウロケアクリニック開院。日本泌尿器科学会、小児泌尿器科学会、女性骨盤底医学学会、日本夜尿症学会所属。
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