世の中のフェムケアへの関心が高まるにつれて、いま「女性泌尿器科」が注目されています。トイレが近い、尿もれが気になる、排尿時に痛みがあるなど、尿のトラブルは誰にでも起こり得る問題。泌尿器科にもかかりつけ医があると安心です。
特集 第2回目は、女性と子どもに特化した泌尿器科「自由が丘ウロケアクリニック」の院長、佐藤亜耶先生に、「どんなときに受診したらよい?」「内診はあるの?」など、泌尿器科に関する不安や疑問について伺いました。
佐藤先生は、2019年に女性と子どもに特化したクリニックを立ち上げました。「ウロケア」という名前がついていますが、初めて聞く方も多いと思います。
当院は子どもから90代まで幅広い年代の方がいらっしゃいます。「近所に(泌尿器科が)あってよかったわ」とおっしゃる患者さんは本当に多く、泌尿器の悩みや不安を感じている方はとても多いと感じています。
「ウロ」とは「ウロロジー(Urology)=泌尿器科」からとりました。泌尿器科と聞くと、どうしても性病や男性の病気をみる診療科というイメージが根強いように思うのです。「待合で待つのが恥ずかしい」という女性の声をよく聞くので、「女性や子どもが気軽に相談できる泌尿器科クリニックをつくりたい」という想いがありました。
当院のスタッフは全員が女性です。診察室には子どもが描いた絵を飾ったりして、居心地のいい雰囲気づくりを大切にしています。
最近では、女性専門外来や女性医師のいる泌尿器科も増えてきていますが、泌尿器科とは、そもそもどんな病気を診る科なのですか?
泌尿器科は腎臓、尿管、膀胱、尿道、副腎などにかかわる病気を診る科です。加えて、男性の場合には、前立腺、陰嚢・精巣(いんのう・せいそう)、陰茎といった臓器の病気も診察します。
女性に多い泌尿器疾患としては、頻尿、尿もれ、膀胱炎。それに最近増えている疾患として、出産や加齢などの影響から子宮や膀胱などが下垂して腟の外に出てしまう「骨盤臓器脱」があげられます。
そのほか、泌尿器のがんや尿路結石は男女ともに起こる可能性がある疾患ですし、お子さんでは性器が痛い、おねしょが治らない、日中の頻尿などの相談にのることが多いです。当院は町のお医者さんなので、おしっこのことで困ったらどんなことでもいいから、いつでも来てほしいと思っています。必要があれば大きな病院に紹介することもできますから。
【チェックリスト】 こんな症状は泌尿器科へ
泌尿器科は、性別や年齢問わず受診してよい診療科なのですね。その中でも、女性が受診するきっかけで多いのは、どのような場合でしょう。
女性に多いのは、尿もれや頻尿の悩み。そのうち女性に多い尿もれ(病名:尿失禁)は大きく分けて「腹圧性尿失禁」と「切迫性尿失禁」という2つのタイプがありますが、両方の症状で悩んでいる方もいます。
腹圧性尿失禁:強い腹圧がかかったときにもれてしまう状態で、女性の尿失禁の中で最も多い。骨盤底筋の緩みが原因で、出産を機に起こることもあれば、加齢に伴って30代後半ぐらいから増えていく。
切迫性尿失禁:尿意切迫感といって急に尿がしたくなり、我慢できずにもれてしまう状態。40代以降に多いが若い世代にもある。過活動膀胱といって膀胱が勝手に収縮してしまうことが原因。
過活動膀胱は、年代に限らず子どもにもみられます。切迫性尿失禁がつらいのは行動範囲がせばまってしまうこと。電車は各駅停車しか乗れないという悩みや「彼と旅行に行く予定があるけれど、もれたら恥ずかしい。先生どうしよう」と訴える患者さんもいて、本当に切実な悩みなのです。恥ずかしく思わなくて大丈夫。一人で悩まずに相談してほしいですね。
また更年期以降は骨盤臓器脱の悩みも多くなっていきます。「腟に違和感がある」「股に何か挟まっているような感じがする」というような訴えです。
花王フェムケアラボが読者(女性)を対象にしたアンケート調査では「尿もれに関する悩みを、誰かに相談したことはある?」という質問に対して、8割の方は相談経験なし、そのうち話したくない・相談相手がいない方は3割にのぼりました。専門家に相談すると回答した方はわずか3%でした。
おしっこの問題は恥ずかしいという思いから、人知れず悩んでいる方が本当に多いですよね。ただ、専門家に相談する方がこれほど少ないとは予想外でした。
通常、熱が40度もあれば内科を受診しようと思いますよね。でも、尿もれや泌尿器の症状は、感じ方に個人差があるので判断が難しいのも事実です。少しくらい漏れても気にしない方もいれば、1回でも尿もれがあれば病院へ駆け込む方も。また、長年自覚はあっても放置しており、洋服がぬれてしまうくらい漏れる状態になって初めて受診する方も。ひどくなるまで受診しないという方も多いと思います。
おしっこの問題は、外出を控えがちになったり、トイレをいつも気にするようになったりと生活の質(QOL)に直接関わってきます。泌尿器科医としては、我慢している時間がもったいないとも思うのです。違和感があって不安に思ったら、「こんなことで」と思わずに受診してほしいですね。
調査では尿もれの対処法についても聞いています。「おりものシートを使用する」「早めにトイレに行く/頻繁にトイレに行く」「生理用ナプキンを使用する」といった方法で対処している方が多いようですが、このような対応はあっていますか?
まずトイレの回数ですが、本当は我慢できるのに頻繁にトイレに行っているとしたら、それは必ずしも良いことではありません。
トイレに行きすぎるのはよくないこと なのですね?
膀胱は水風船のように伸び縮みする臓器で、初めて感じる尿意を初発尿意と言い、最大膀胱量まで我慢したときの尿意を最大尿意と言います。もれるのが怖いからとすぐにトイレにいくクセがついてしまうと、トイレがどんどん近くなってしまうことがあります。むしろ逆効果、という場合があるのです。
ですから、尿意があっても我慢できそうな方には「膀胱訓練」といってトイレを我慢するトレーニングを勧めます。排尿の間隔を少しずつのばしながら、膀胱に貯められる尿量を増やしていくのです。
また、尿もれのうち切迫性尿失禁の場合には、薬で良くなることがほとんど。落ち着いてきたら膀胱訓練も一緒に行い、トイレを我慢することで膀胱が広がってきます。尿がためられるように変化してくるので、ちょっとずつトイレの回数を減らしていくことが大切です。症状が改善すれば徐々に薬をやめていくことが出来る方もいらっしゃいます。
薬を使わずに骨盤底筋トレーニングや膀胱訓練といった行動療法だけでよくなる方もいます。尿意の感じ方や尿もれの原因、治療法も人それぞれなので、やはり専門医に診てもらうことが結局は近道になりますね。気になったら早めに受診を考えてほしいです。
買い物ついでに気軽に立ち寄ってもらいたい… 自由が丘にある佐藤先生のクリニック
自己流の対処が必ずしも良いとは限らないのですね。おりものシートや生理用ナプキンを使うことについては、どうでしょうか。
「尿もれケアに踏み込んでしまうのは、まだ早い」と思っていらっしゃるからなのかもしれません。ですが、本来は用途に合ったものを使うことが大切です。尿もれの悩みには、尿を素早く吸収しニオイも抑えてくれる「吸水ナプキン」のほうが快適に過ごせるはず。
ケア用品を使う際の注意点としては、必要なときに使用して、適切な頻度で交換するようにしましょう。濡れたまま長時間つけっぱなしにすると、デリケートゾーンが蒸れてかゆみなどのトラブルが起こりやすくなります。
尿の悩みはセルフケアで快適にすることができる。でも、困っていたら専門家に相談することも大事なことですね。泌尿器科の診察についても教えてください。内診は必ず行うものでしょうか? 痛みなどはありませんか?
基本的な流れとしては、初診の場合には問診票をもとにいちばん困っている症状について詳しく聞いていきます。泌尿器科疾患の多くは尿検査や超音波検査などで診断できるので、内診は必ずしも必要ではありません。生理中でも大丈夫。多くの場合、尿検査はしますので、生理だとわかっていれば医師に伝えてください。
陰部のトラブルや骨盤臓器脱が疑われる場合には、ベッドに横になっていただき陰部の内診・触診をすることがあります。クリニックや病院によって、産婦人科にあるような内診台に座っていただくこともありますね。
泌尿器科での検査についても教えてください。
尿検査や、超音波検査(エコー)といって腎臓や膀胱などの状態などを調べる検査があります。エコーはお腹にプローブを当てて調べるのでちょっと冷たく感じるかも知れませんが、痛みはないので心配いりません。服を恥骨あたりまで下げていただく必要があるので、ワンピースなどではなく、上下セパレートの服装が診察を受けやすいでしょう。
エコーで膀胱の状態をチェック。患者さんに見せながら丁寧に説明
検査をするのは、尿路感染症や腎臓、膀胱・尿管・尿道の病気、腫瘍など器質的疾患がないかどうか調べるためです。まれではありますが、結石や腫瘍が原因で頻尿や尿もれになることも。また、神経因性膀胱は尿意を感じにくくなってしまう疾患で、尿が出せなくなってしまったり、膀胱に尿がたまりすぎてチョロチョロもれたりしていることがあります。
それから尿路感染症も要注意です。女性に多い膀胱炎は、繰り返すことで粘膜に炎症が残り、過活動膀胱のように膀胱が敏感になっていきます。その結果、尿意が強くなったり頻尿になったりすることも。病気が隠れていないかどうか、まずは調べることが大切です。
泌尿器科の主な検査内容(女性の場合)
※陰部のトラブルや骨盤臓器脱が疑われる場合には陰部の内診・触診をすることがあります。
尿もれの場合、どんな治療を行いますか?
原因によって、運動療法、お薬、外科的療法などがあります。生活習慣の改善も大切ですね。例えば便秘になりトイレで無理にいきんだりすることは、骨盤底筋にダメージを与えてしまうので、いきまずに済むトイレの姿勢を指導することもあります。
女性はそもそも尿道が短く、尿もれをしやすい体の構造をしています。骨盤底筋トレーニングや膀胱訓練は、症状がなくても取り入れましょう。尿もれや頻尿、骨盤臓器脱の予防につながります。
女性泌尿器科で行われる治療の内容
尿もれに限らずですが、デリケートゾーンは優しく扱うようにと患者さんにはアドバイスしています。おしっこの後はゴシゴシ拭いたりせずに、トイレットペーパーをたたんでポンポンとおさえるように拭き取るのがコツ。ビデは、腟や尿道周りを守っている常在菌まで殺してしまいかねないのでお勧めしません。
佐藤先生のクリニック待合室。柔らかなイメージでリラックスできるように配慮
デリケートゾーンにトラブルが起きた時に、泌尿器科?婦人科?と迷うこともあると思います。
基本的には、おしっこに関する悩みや、骨盤臓器脱の可能性がある場合は泌尿器科へ。腟のかゆみ・炎症、おりものなどのトラブルや「性病かな?」と思うときは婦人科を受診してください。骨盤臓器脱は泌尿器でも婦人科でも大丈夫だと思います。
ありがとうございます。内科や婦人科のように、泌尿器科が身近な存在になっていくとうれしいです。最後に尿もれで悩む女性たちへ、メッセージをお願いします。
年齢を重ねると、睡眠障害がもとでおしっこの悩みが増えてくることがあります。尿は24時間作られ続けていますが、通常夜間は尿量を減らすようになっているので、トイレに行かずに眠れます。でも、中には夜中に目覚めた時に、尿意がないのになんとなくトイレに行ってしまう方がいらっしゃいます。実は、そういうちょっとしたことが、頻尿に至るきっかけになったりします。
尿もれの原因は1つではなく、その人に適した対処法や治療法があります。セルフケアや市販薬で良くなる場合もありますが、それがその人のベストチョイスかどうかはわかりません。やはり、病気の有無をきちんと確認することや、症状が悪化する前に手を打つことが大切です。
年齢や更年期といった背景も無関係ではないものの、だからといって、ご自身で何とかしようと頑張る必要はないと思うのです。患者さんの中には、私に悩みを話すだけでスッキリして「あ、何かよくなった気がする」という方もいます。そんな感覚で、自分にあうかかりつけの泌尿器科を見つけてほしいと思います。女性医師も増えていますから、困ったことがあれば相談してみてくださいね。
聞き手・取材・文/医療ライター 及川夕子
女性泌尿器科医師
佐藤 亜耶 先生
自由が丘ウロケアクリニック院長
日本泌尿器科学会認定専門医、医学博士。日本大学医学部卒業後、研修医を経て同大学泌尿器科に入局。以降、関連病院で診療経験を積み、2019年に女性泌尿器科・小児泌尿器科に特化した自由が丘ウロケアクリニック開院。日本泌尿器科学会、小児泌尿器科学会、女性骨盤底医学学会、日本夜尿症学会所属。
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