女性泌尿器科医師・佐藤亜耶先生
(自由が丘ウロケアクリニック院長)
40代・50代の心と体を揺さぶる「プレ更年期」や「更年期」。実はこの時期、尿もれで悩む女性はめずらしくありません。尿もれは更年期症状の1つ。だからといって、あきらめないで!今から対策を始めれば、予防も改善もできるのです。
もともと女性は男性よりも、尿もれになりやすい体の構造をしています。男性の尿道が約20cmでS字状なのに対し、女性の尿道は3~4cm程度と短くてまっすぐ。そのため、ちょっとおなかに力を入れただけでモレてしまうことがあります。花王のアンケート調査では、尿もれ症状が増え始めるのは、30代から。そして40代以上では、47%の女性が尿もれを経験しています。
*40~70代女性 1,370人(2021年5月 花王調べ)
尿もれには、くしゃみなどで腹圧がかかったときにモレてしまう「腹圧性尿失禁」、突然強い尿意が起き、トイレに行くまで我慢できずにもらしてしまう「切迫性尿失禁」、腹圧性と切迫性の両方の症状がある「混合性尿失禁」の3タイプがあります。このうち、40代・50代に多いのは、腹圧性尿失禁。尿道を固定しているはずの骨盤底筋がゆるんで、尿道を締める力が弱まり、ちょっと腹圧がかかっただけで尿がモレてしまうのです。
骨盤底筋は、骨盤の底にある複数の筋肉の総称です。これらの筋肉はハンモックのような形状で、膀胱・子宮・直腸が下垂しないように支えています。さらに、尿道や肛門を締めたりゆるめたりする、排尿・排便コントロールの役割も担っています。
■ 腹圧性尿失禁
くしゃみをしたり、重い荷物を持ち上げたときなど、腹圧がかかったときにモレてしまう。40代・50代に多い尿もれは、このタイプ。
こんなとき尿もれが…
■ 切迫性尿失禁
突然、強い尿意が起き、トイレに行くまで我慢できずにモレてしまう。
こんなとき尿もれが…
■ 混合性尿失禁
腹圧性と切迫性の両方の症状がある。40代・50代はこのタイプも多い。
女性の体に劇的な変化が起こる更年期が、骨盤底筋のゆるみやすいターニングポイント。つまり、尿もれになりやすい時期です。
とくに妊娠・出産を経験されている方は、骨盤底筋がゆるみやすい場合が多く、複数回出産していたり、高齢出産だったりすると、ゆるんだ骨盤底筋が戻りにくい傾向があります。
更年期は、女性ホルモンのエストロゲン分泌量が急激に減少し、その影響で筋肉量や骨量も減少します。また、エストロゲンが減少すると代謝も落ちるので、脂肪が燃焼しづらくなり、太りやすくなります。筋肉量の減少と、肥満による骨盤底筋への負担増。それらが影響して、骨盤底筋はゆるみやすくなります。
とくに、閉経前後の10年間という「期間」を指す更年期は、誰もが通る道。妊娠・出産を経験しない人はいても、更年期を経験しない人はいません。
閉経時期は個人差がありますが、閉経の5年前くらいから心身は弱りやすくなります。「今までのように無理がきかない」「疲れやすい」など、心身の変化を感じ始めたら、尿もれにも警戒しましょう。
おなかに力をいれて腹圧をかけると、骨盤底筋はゆるみやすくなります。以下の動作はできるだけ避けるのが賢明です。
骨盤底筋は複数の筋肉の集合体です。尿道の開閉に関わる部分の筋肉がゆるめば尿もれになりますが、肛門の開閉に関わる部分がゆるめば、便もれが起こることもあります。
加齢に伴い、骨盤底筋がゆるんで内臓が下に降りてくれば、臓器が体の外に出てくることも。尿道、腟、肛門の出口のうち、いちばん薄いのは腟なので、子宮や膀胱、直腸といった内臓が腟から出てくることがあります。これを「骨盤臓器脱」といいます。
骨盤臓器脱でいちばん多いのが膀胱脱、次に多いのが直腸脱です。
骨盤臓器脱が軽度の場合は、骨盤底筋トレーニングで改善することもありますが、症状が進行すれば、腟内にペッサリーという器具を入れる、手術をするなどの治療を行います。
初めは、「なんとなく内臓が下がっている?」などの違和感がある程度です。はっきりとした自覚症状が出るのは、腟から膀胱などの臓器が出てきてから。入浴時など、デリケートゾーンを触ったときに気づく人が多いようです。臓器脱が起こると、下着でこすれて出血したり、頻尿、尿もれなどの症状が出てくることも。また逆に、尿が出にくくなることもあります。
「尿もれが気になって日常生活に支障がある」、「骨盤底筋トレーニングを続けても症状が改善しない」といった場合は、一人で悩みを抱え込まずに、医療機関を受診してみましょう。尿の困りごと全般に対応してくれるのは、泌尿器科です。最近は、女性専用の泌尿器科(女性泌尿器科)、泌尿器科と婦人科の境界領域を診療するウロギネ外来などもあります。また、更年期の治療に力を入れている婦人科(女性ヘルスケア専門医など)で相談してみるのもいいでしょう。
尿もれで受診した場合、まずは尿もれの症状・原因を調べてから治療が行われます。更年期に多い腹圧性尿失禁の場合は、骨盤底筋トレーニングの指導がメインになりますが、症状によっては薬が処方される場合も。とくに切迫性尿失禁や混合性尿失禁では、薬で症状が改善することもあります。
また、尿もれの症状が激しい場合は、テープで尿道を引き上げる手術を行う場合も。このように尿もれの種類や程度により治療法はさまざまです。
泌尿器科では尿もれだけでなく、頻尿、排尿時の痛みなど、尿の異常全般に対応してくれます。尿もれで受診した場合、問診、尿検査、超音波検査などを行います。医師が陰部を診たり触ったりするケースは、それほど多くはありません。ただし、骨盤臓器脱が疑われる場合や陰部のトラブルのときは、内診や触診をすることがあります。
軽い尿もれでも、「におうかも…」「下着がぬれて不快…」「衣類に染み出るかも…」と心配する人は多いようです。そんな尿もれトラブルを回避するために上手に活用したいのが、吸水ライナーや吸水ナプキンといった吸水ケア用品です。
生理用ナプキンで代用しようとしても、経血と尿では成分、粘度などの性質が違い、においの種類も異なります。そのため、生理には生理用、尿もれには吸水用と、使い分けましょう。
吸水ケア用品は、尿のような液体に対する吸収性能が高い素材を使用しており、尿独特のにおいを消臭する機能もあります。
吸水ケア用品を上手に使うには、自分の症状に合ったアイテムを選ぶことが大切です。吸水量や薄さ、形状などバリエーションが豊富なので、今の自分に最適なものを見つけましょう。旅行や趣味、外出時の不安もなくなりQOL(生活の質)も向上します。
女性泌尿器科医師
佐藤 亜耶 先生
自由が丘ウロケアクリニック院長
日本泌尿器科学会認定専門医、医学博士。日本大学医学部卒業後、研修医を経て同大学泌尿器科に入局。以降、関連病院で診療経験を積み、2019年に女性泌尿器科・小児泌尿器科に特化した自由が丘ウロケアクリニック開院。日本泌尿器科学会、小児泌尿器科学会、女性骨盤底医学学会、日本夜尿症学会所属。
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