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お悩み相談室 Q&A
<回答したスペシャリスト>
産婦人科医師・石山尚子先生
女性の骨盤の中には、前側から膀胱、子宮、直腸と3つの内臓が収まっています。これらの内臓が下がり、ゆるんだ腟から外に出てきてしまう状態を「骨盤臓器脱」といいます。別名「腟のヘルニア」などともいわれています。
比較的、よく耳にする言葉が「子宮脱」かもしれませんね。ほかにも、腟壁とともに膀胱が出てきたら、「膀胱瘤(りゅう)」、直腸が出てきたら「直腸瘤」といいます。
骨盤臓器脱が軽度のうちは股間に違和感がある程度ですが、対策をせずに放置しておくとだんだんひどくなり、臓器を手で戻さないと排尿や排便がしづらくなることもあります。また、臓器がこすれて出血したり、痛みで歩けなくなる人もいます。
骨盤臓器脱の初期症状
骨盤臓器脱が起こる原因は、骨盤底筋のゆるみです。骨盤底筋がゆるんで内臓を支えきれなくなることで、内臓が下がり腟から出てきてしまうのです。更年期は女性ホルモンが激減し、その影響で筋肉や靭帯が弱くなるので、骨盤底筋がゆるみやすくなります。そのため、子宮などの内臓も下がりやすくなります。
【正常な状態】
■ 子宮脱
子宮が下がり腟から出る状態。出産経験のある人に多い。
■ 膀胱瘤
膀胱が腟壁とともに下がる状態。排尿障害の原因にも。骨盤臓器脱の中で一番多いとされる。
■ 直腸瘤
直腸が腟に向かって膨らみ、腟壁とともに下がる状態。排便障害の原因にも。
出典:『「閉経」のホントがわかる本 更年期の体と心がラクになる! 』(集英社)対馬ルリ子、吉川千明著
骨盤底筋がゆるむ原因は、女性ホルモンの減少だけではありません。妊娠・出産を機に骨盤底筋がゆるむこともあります。とくに、赤ちゃんが大きかった人、お産が長引いた人、高齢出産、双子などの多胎はその傾向が強くなります。
ほかにも、重い物を運ぶことが多い、便秘でよくいきむなど、頻繁に腹圧をかける行為が骨盤底筋のゆるみを招くことになります。
また、太りすぎて骨盤底筋に多大な負荷がかかったり、やせすぎて筋肉がなかったりすることも、原因になります。
骨盤臓器脱を改善するために、まず実践したいのが骨盤底筋トレーニングです。骨盤底筋トレーニングは毎日継続してこそ、効果が期待できます。まずは3カ月を目標に根気強く続けましょう。
腟と肛門を「締める」「ゆるめる」を繰り返すのが基本型。骨盤臓器脱だけでなく、骨盤底筋のゆるみから起こる腹圧性尿失禁や、過活動膀胱による切迫性尿失禁の改善にも効果が期待できる(切迫性尿失禁の場合は、併せて薬物療法を行うこともある)。
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また、以下のことにも注意してみるとよいでしょう。
骨盤臓器脱が軽症の場合は、骨盤底筋トレーニングでの改善が期待できますが、症状が重くて生活に支障が出る、骨盤底筋トレーニングを数カ月続けたけれど効果が実感できない、などの場合は、婦人科か泌尿器科を受診しましょう。対症療法としては、ペッサリーという器具を腟内に入れて臓器を押し上げる方法が一般的です。また、根本的に治療するのであれば、下がった臓器を持ち上げる手術をすることになります。手術にはいくつかの方法があり、年齢や性生活の状況、下がってきた臓器の種類や程度によってその方法を決めていきます。
産婦人科医師
石山 尚子 先生
対馬ルリ子ライフクリニック銀座院長
日本産婦人科学会専門医。対馬ルリ子ライフクリニック銀座勤務。女性がより快適に生活するための治療や対処法、セルフケアのアドバイスをわかりやすい言葉で丁寧に、を信条にされる女性医療(ウィメンズヘルス)のスペシャリスト。
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