株主・投資家の皆さまへのトップメッセージ

限りある資源、限りあるいのち、限りない欲求の世界で、
日々の暮らしの“きれい”の進化に挑戦し続けます。

2023年6月
代表取締役 社長執行役員 長谷部 佳宏

ステークホルダーの皆さまへ

2020年に起きたパンデミックをはじめ、世界の人々は多くの困難に晒され、地球という限られた空間に存在する私たちがいかに密接につながっているかを知らされたのではないでしょうか。私たちの暮らしの土台は、人々が不安なく毎日を過ごせる環境にあるはずです。そして、今だからこそ、明るい笑顔で生活できることの大切さを感じている人たちは少なくないはずです。花王は、日常の生活を守りながら、人々の笑顔ある毎日に貢献することを願って誕生した会社です。これからの世界において、豊かな自然環境、病害や不安のない生活、こころ豊かに暮らせる毎日をめざすことが、花王の掲げる“きれい”を守る活動です。この方向性を見据え、「未来のいのちを守る」会社としての社会的役割を果たしていきます。

天祐は常に道を正して待つべし

花王が大切にしている創業者・長瀬富郎の遺訓が、「天祐は常に道を正して待つべし」です。この先人の言葉は、今の花王にとって最も大切なメッセージを伝えています。
この言葉は、良き運命も、悪しき運命も、もとを正せばすべて自らの種まきの結果であり、仕事の本質を忘れず、一心不乱に努力する様の大切さを語っています。花王のすべての活動の本質は、よきモノづくりを通してお客さまに喜んでいただき、その対価である利益を感謝の大きさとし、次のモノづくりに励むことにあります。日々の仕事を通して、一人ひとりがお客さまの感謝を糧に成長し、その成長の集まりが会社の発展にもつながるというものです。私たちは今、この原点に回帰し、現状の困難を打破しようとしています。
そして、原点に立ち戻るだけでなく、新たに加えなければならないことがあります。それは、社会の急速な変化に対応する準備です。社会の情勢が変わり、企業の足元が揺らぐ事態が起きた時に、それに対応することのできる余力をもつということです。今回の原材料高騰は、まさにその変化にあたる事態であり、計画的に準備しておかなければ、天祐は訪れません。
また、ビジネスに関しては、変化を想定した戦略が必要です。花王だけが商売をしているわけではありません。多くの優れた企業が同じフィールドでせめぎ合いをしながら、お客さまの信頼と共感を獲得しようとしています。私たちが、お客さまから選ばれる存在となるためには、選ばれる理由が必要です。例えば、ある地域で最も頼りになる存在となることや、難題に対して唯一無二の助けとなる存在であることです。そのような理由を一つひとつ積み重ねながら、持続可能な社会に欠かせない存在となるゴールをめざして、花王は歩み続けてまいります。

企業価値を高める

企業価値を高めるために、経営の方針と優先すべき取り組みを社員と共有しています。まずは、稼ぐ力を最大化するEVA経営の深化です。そのために事業を特性に基づいて分類し、戦略を変えていきます。そして、すべての事業はESG視点を必須とします。なぜならば、社会における未来の存在価値を高めず、短期的な経済性のみの追求では、決して人々や社会が応援する事業にならないからです。
これらの方針のもと、花王は、既存の事業の進化と、未来の成長エンジンとなる新土俵の創成を両利きで進めていきます。その進捗については、花王の5つの事業分野ごとに、ステークホルダーの皆さまへ公表してまいります。産業界のサステナビリティへの貢献をめざすケミカル事業、暮らしの基盤を支えるハイジーン&リビングケア事業、健康ですこやかな毎日を提供するヘルス&ビューティケア事業、その人ならではの美と個性に寄り添い、美しく彩る化粧品事業、そして人々のいのちを守るライフケア事業の着実な進展です。そして、世の中にあふれる膨大な商品と情報の中で、個人の欲求や期待により合致する出会いを支援するために、デジタル技術を最大限に活用していきます。もちろん、これらの実現に向けては、多様で多彩な個の力、すなわち社員の力の結集が必要だと考えます。

今こそ、まじめな雑談

DE&I(Diversity, Equity and Inclusion)は、花王に脈々と生き続ける基本姿勢であり、企業理念「The Kao Way」は、その精神を明文化しています。行動原則には、「共生視点:広い視野をもち人と地球を気遣うこと」、「個の尊重と力の結集:一人ひとりの個性を尊重し価値を見出し、異なる知恵と力を結集し大きな力とすること」、「果敢に挑む:挑戦する人に公平に機会を与え、組織がそれを活かすこと」が記されています。
そして、それを実現するために対話の経営を重視しています。花王では役職で人を呼ぶことはなく、誰に対しても必ず「さん」づけで話をする習慣が根づいています。花王において役職は役割であって、権威ではありません。フラットな立場で相手と対峙し、自由闊達に話し合いをするために長年に渡って引き継がれてきた文化です。この文化のもと、異なる考えが混ざり合うことでさまざまな化学反応が起こり、常に新たな方向性を導き出すことができました。コロナ禍によって少し弱くなっていたこのよき文化をこれまで以上に活性化させ、人財を活かす力を何倍にも高めてまいります。

スピードとレベルを極限まで高める

花王は、「マトリックス運営」を特徴としています。これは、単一の事業やモノづくりだけに集中するのではなく、そこで獲得したエッセンス、知見やノウハウを、別の事業やモノづくりに活かすための組織体制です。まさに叡智の結集のための体制であり、ひとつの事業を縦軸とし、横軸となる組織が複数の事業を横断的に、効率よくサポートするというものです。今まではこのよい部分が発揮され、新たな発想の事業モデルや商品が生まれてきました。しかし、昨今の激しい市場環境変化に対して、スピード感が合わない部分が出てきました。会社の規模が大きくなるにつれて各部門の役割が過度に重視され、社員間の自由闊達な連携プレーが影をひそめるようになったのです。「マトリックス運営」の本来の意味は、「目的達成のために、あらゆる組織が縦横無尽に一致団結・結集する生体機能型組織」です。社員にもう一度この本質に立ち返ってもらうため、「スクラム型運営」と呼称を変え、優先すべき事業からエース結集のコンパクトな組織に変える方向に舵を切りました。
その結果、これまでにないスピードで仕事が進み、常識にとらわれない発想と取り組みが生まれ始めています。

新土俵の創造こそ、花王の神髄

これまで花王が最も力強く発展した時期は、1987年から約20年間続く新土俵への挑戦期でした。世界初のコンパクト洗剤「アタック」にはじまり、掃除の新しい常識となる「クイックルワイパー」、角栓を集中的に除去する「ビオレ毛穴すっきりパック」、蒸気温熱カテゴリーをつくった「めぐりズム」、ヘアカラーの作法を変えた「ブローネ泡カラー」、乾燥性敏感肌のために生まれた「キュレル」など、当時の常識を変えるモノづくりを重ねてきました。これらの新土俵を創造した商品は、今でも多くのお客さまにご愛顧いただいています。
私たちはいま一度、私たちのモノづくりの神髄を思い出さねばなりません。商品を少しずつ進化させることも進めますが、花王本来の得意技は“常識破り”であり、新カテゴリーの創造です。強い花王の姿を取り戻すためには、新土俵への飽くなき挑戦が不可欠です。これからの数年、花王は事業の立て直しと同時に、新土俵創造に力を込めていきます。

世界で欠かせない存在になるために

中期経営計画「K27」は、既存事業を強くするための抜本的改革(Reborn Kao)と未来志向の新事業の創成(Another Kao)を、事業戦略の主軸と位置づけています。このふたつの事業群に共通する方針は、独創的な技術を根幹に据えてグローバル発展をめざすことであり、ゆえに両者をスパイラルアップさせる構想の実現が可能です。
グローバル発展をめざす上で、これからの重要なコア価値は、maximum with minimumを追求するコンパクト・イノベーションです。高い価値を、いかに無駄を小さく、安く、早く届けられるかが重要です。世界の潮流を鑑みると、大量生産、大量消費を前提とした成長モデルはいずれ限界を迎え、生活の質を高めながら消費を最小限に抑える発展モデルが主流になるでしょう。他の企業に先駆けてそのよき先例を生み出すべく、花王は、限られた資源を最も効果的に使ってモノづくりを行い、その人に最も合う商品・サービスとして提供し、さらに、使用されたものが地球を傷つけないことに力を込めていきます。
そしてこれは、花王一企業で実現できることではありません。多くの企業がつながり、各々の強みが活かされ、不可能という常識が可能となる、「競争」ではなく「共創」が重視される世界をめざすことです。私たちの「正道を歩む」という価値観は、この難しい世界の実現を可能にする力です。豊かな共生世界の実現のために、私たちは歩み続けてまいります。

企業理念 The Kao Way

「The Kao Way」とは、先人が培ってきた精神や文化を次世代に受け継ぐため、2004年に策定した花王の企業理念です。2021年には花王のさらなる変革をめざして、「共生」を新たな使命に掲げ、「期待の先を行く」ビジョン、そして「果敢に挑む」行動原則を追加し、アップデートしました。
この企業理念は、社員一人ひとりに深く浸透しています。中長期の事業計画の策定から日々の業務における意思決定まで、「The Kao Way」を拠りどころにすることで、すべての活動が一貫したものとなります。また、社会課題や事業課題に対し、多様な資産と社員の力を集積させる原動力です。そして、個人の成長と会社の発展や社会への貢献を重ね合わせ、働きがいや生きがいを生み出す指針でもあります。

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