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  • #健康・美容 #ファインファイバー #ケアする #創る/加工技術 #不織布 #働き方

#003 ファインファイバー

花王のイノベーションは、
“異なる分野の研究者同士の連携”
で生まれる。

DATE.2019.11.27
Text Edit:花王の顔 編集部
Photo:Hidetoshi Fukuoka

「不織布」は、例えば紙おむつ、生理用品などのサニタリー用品、住居用フロアワイパーなどホームケア用品、紙おしぼり、ウエットティッシュなど、
日常で使う様々な製品に使われている素材だが、汎用化している素材で、“イノベーション”というイメージからは少し遠いかもしれない。

昨年の花王イノベーション発表会で注目を集め、様々な応用が期待されたファインファイバー(極細繊維)。
このファインファイバー、実は不織布の技術から進化した、これまでにない機能をもった「積層型極薄膜」を作り出す最新の技術だ。

その極細の繊維が持つ機能は、化粧品など、スキンケアやメイクへの活用だけでなく、美容や医療領域など幅広い分野への活用が期待されている。

一本の糸を、積み重ね、あたかも皮膚のような被膜を形成するこの技術はどのように生まれ、
また、この先、日本だけでなく世界中にいる種々の肌悩みを持つ生活者の皆様のお手元へ届ける可能性を秘めているのか?

開発に携わった加工・プロセス開発研究所の東城と甘利、そして商品開発研究所の内山に詳しく訊いた。

きっかけは、最初に自身で作ってみたときに感じた感動と確信。

「着手したのは、今から10年ほど前、30代のころになります。最初は何に使っていいかわかりませんでした。ただ、繊維が細くなればなるほど、柔らかさや感触、密着性という様々な性能が桁違いに変わることはわかっていたので、何かに使えるだろうとは思ってました。」と、東城が言う。

当時、不織布の業界自身が、ある意味成熟した産業に見えていたなか、それを新しく変えていくためのネタを探しなさいという命題を与えられていた。

その頃ファインファイバーの基幹技術である“エレクトロスピニング法”という、技術に注目している人が多く、ブームのような感じもあったが、結局多くの研究開発は続かず消えていく中、東城は研究を続けてきた。
「自分で部品を拾ってきて、初号機を初めて組み立てて動かしたとき、周りの人も驚いていたのですが、なにより自分が感動して。。。あの時、絶対に何かに使えるだろうなと感じました。」

エレクトロスピニング法とは?

極細の糸を電気的に紡ぎだす技術です。溶液を静電気同様に強く帯電させることによって、プラスの電気を帯びた溶液を、マイナスの電気を帯びた、対象物の表面に向けて噴射します。これによって、あたかも蚕が繭を紡ぐときのように、溶液がノズルを通して糸状に引き伸ばされながら勢いよく噴き出し、対象物の表面で幾層にも重なりあって膜を形成します。

その後、最初の発表の場では、まだ用途も決まっておらず、『何に使えるの?』と言われたこともあったという。

「何回やめろといわれたかもわかりません。一方で、トップ層の方の中には、これはすごいね、やめずに続けろよと言ってくださる方がいらして、その方は、何かピンと来ていたのかもしれません。」と笑いながら、「自分としては、エレクトロスピニング法で生まれる極細の繊維の持つ、いろいろな特性を見るにつけ、かならずモノに繋がるということは揺るぎませんでした。」と、涼やかに語る。

たくさんの懐疑的な意見の中、エレクトロスピニング法をどのようにして、ファインファイバーのような技術開発にまでこぎつけたのか?

色んな分野の人がいるからこそ、挑戦できる

画期的な技術である一方、商品化は困難だといわれていたファインファイバーの技術。その状況を切り開いたのは、異なる分野の研究者同士の連携だった。

開発が最初に盛り上がったきっかけを東城は「我々加工・プロセス開発研究所にはいろいろなエンジニアがいます。電気系・機械系・材料系。研究室でこういうの作りたいと言えばプロトタイプはある程度できてしまう。ファインファイバーのプロトタイプに関しても、この辺にあるもので組んでほらできるよねと紹介したらこれはすごいねと飛びついてくれる人がでてきました。」

プロトタイプの時はシート状のものを作っていた東城、次第に賛同してくれる仲間の数は増えてきたが、それでもシート形状では非常に扱うのが難しく、商品化は難しくしばらく壁を乗り越えられない時期が続いた。

「この肌に吹き付けるというアプローチ、これが大きなブレイクスルーでした。肌に直接というアイデアは一緒にやっているメンバーが『肌に直接吹き付けてみたら』といったのがきっかけです」と、そのアイデアを出した甘利を見ながらいう。

そのころ、花王に入社し、加工・プロセス開発研究所で東城のチームに合流していた甘利はこう振り返る。

「東城さんと、割と、2、3年ぐらいは、シートのまま、誰もが使いやすくならないかという検討をしてたんですけど、なかなか出口にたどり着きませんでした。ある時、『だったらもう直接、肌に吹き付けてしまって、膜を作ったら誰でも使えるんじゃないかなって』いうふうに発想をしたっていう感じです。」

東城が驚いたのでは、と水をむけると、「驚くだろうなと思って見せたら、まあ、ちゃんと驚いてくれたんでよかったです」と、甘利が笑う。

実際に肌に吹き付ける技術を開発した時には、「やってみたい」と周りに人だかりができるくらい周囲を引き付けたという。ただ、その段階でも“これが何に使えるのか”は誰にもわかっていなかった。

その時生まれた“直接肌に吹き付けるファインファイバー”が何に使えるのかを見出し、商品化を担ったのが、商品開発研究所でスキンケア分野を担当する、内山だった。

「実際に素材を触った時、『おーすごい』と思いましたが、確かに何につかっていいいかわからない。商品開発研究所にいる私としては、自分でさわって、自分で感じて、お客様へのベネフィットを見出したいと思い、その後自分で持ち帰って色々試してみました。」

所属する研究所が変わると、考え方や開発のアプローチは大きく異なる。

花王の研究開発部門は、基礎研究を担う東城や甘利のような「基盤技術研究」と、内山が所属する、技術を実用化する「商品開発研究」とに分けられる。

そして、その二部門が交わりながら研究・開発を推進する「マトリックス運営」が特徴だ。この部門を超えてさまざまな得意分野が交わることでシナジーが生まれ、研究・開発がスピードアップするのだ。

「実際に、自らさわって観察してみて気づきました。驚くべきことに化粧品で使われているような粘度が高く均一に広がりにくいペースト状のものが、ファインファイバーを使うと、いともたやすく均一に広がっていく。衝撃をうけました。」内山が当時を振り返る。

この内山の気づきをきっかけに、チームは“ファインファイバーの毛管力”に着目した商品開発へ一気に進んでいくことになる。

毛管力とは?

物体内の狭い隙間が液体を吸い込む力のことです。繊維と繊維の「すきま」が管のような役割を果たし、重力や上下左右に関係なく液体を均一に浸透させていきます。日常生活の中で見られる現象では、毛筆が墨汁を吸い上げたり、ティッシュの端を水につけると次第に水を吸いあげ全面的に濡れてしまうのも、毛管力が作用しています。

当たり前だと思っていたことが、大きなメリットになる

ここで実際にファインファイバーが肌に吹き付けられる動画をみていただきたい。

ファインファイバーは、電気の力を利用したエレクトロスピニング法を応用した技術で、従来の繊維と比べて繊維の直径が非常に細くなる。

そして、繊維が細くなると、柔らかさや表面積などの物理特性が桁違いに変わってくるという。何より、内山が着目した毛管力は繊維径が100分の1になると、100倍にもなるという。

東城が、1枚のシートをもちあげながら、「90%は穴です。静電気とともに肌に密着し、その極細繊維の毛管力で、スキンケア剤などを吸い上げていきます。」という。そして、このファインファイバーは驚くことに一本の連なった繊維でできているのだ。「1本の糸なので吸い込んでしまうなどの心配もありません。」

その繊維の細さは、直径1μm(ミクロン:1000分の1ミリ)以下、身近なものでいうと髪の毛の1/100程度になる。

「極細になってくると、液体を均一に長時間保持する、非常に強い毛管力(物体内の狭い隙間が液体を吸い込む力)があることに非常に驚きました。そして、これまで物理的に難しかった、不均一なものが、均一になる。スキンケア剤を均一に広げることを簡単にできることにも驚きました。」と、内山が語ると、

「私たちにとって、本当に当たり前のことで、それが商品としては、大きなメリットになるところは気づきませんでした。」と東城が話す。

「自分たちが普通と思っていたところに、内山が価値を見出してくれて、発展させていってくれたのはすごく嬉しかったです。」と甘利が続ける。

一本の糸から、肌の未来へ

将来的には、ファインファイバーとケア剤を組み合わせることで、肌本来の美しさを引き出すことができないかと期待される。

内山は、「新しい化粧品や、スキンケア分野の提案に使えそうな、非常に面白い素材です。化粧品をはじめとしたスキンケア品は良くも悪くも100年以上、塗るというアプローチ自体は変わっていません。そういう業界に一石を投じられそうです。また、自分たちがまだ解決できていない課題に対して、ファインファイバーを使うことで、新しいアプローチで解決できるきっかけになるかもしれない」と語る。

また、1μmの極細で極薄の膜がもつ毛管力はスキンケア剤の保持力だけではく、将来的には、美容や医療領域への応用も視野に入ってくる。

「花王の研究開発は、多くの人が、10年、20年という長いスパンで見て、いずれは大きな成果につながると信じてやり続けています。そして、活かす風土があります」と、東城。

最初は自分自身の気持ちが動き、そしてそれをリレーした仲間が大きく育て、最後はお客様に届く。それを東城は「まるでリレーのように」と、表現した。

一人の研究者の思いから始まったものが、異なる分野の研究者が連携し、
持ち味を発揮しながら、イノベーションに至る。

この連携しながら、日本のみならず、世界中の種々の肌悩みを持たれているお客様の手元に
イノベーションを届けていく研究・開発スタイルこそ、花王らしいイノベーションの生み出し方なのかもしれない。

プロフィール

東城武彦(とうじょうたけひこ)

加工・プロセス開発研究所3室 グループリーダー(基盤技術開発)
エレクトロスピニング法を応用したFFの基盤技術開発を推進。
FFの技術開発全般を担当した

甘利奈緒美(あまりなおみ)

加工・プロセス開発研究所3室(基盤技術開発)
エレクトロスピニング法によるFFの基盤技術開発、直接噴霧技術開発を担当した

内山雅普(うちやままさゆき)

スキンケア研究所3室 チームリーダー(商品開発研究)
FF技術を応用した化粧品開発を推進、 FFとスキンケア剤が創るケア技術構築、商品化を担当した

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