#004 廃PETアスファルト
―アスファルトの改質剤ニュートラック 5000で環境問題と自動運転時代の到来へ備える―
DATE.2021.08.30
Text Edit:花王の顔 編集部
Photo:Hidetoshi Fukuoka
“リサイクル”といわれると、一般的には使用済みの資源をそのまま再利用し、
新しいモノに生まれ変わらせることが想起されるかもしれない。
しかし、リサイクルはそれだけではないといわれると“そのまま再利用しないリサイクル”がすぐに思い浮かぶだろうか?
製品に使われた素材をそのまま次の商品の材料へ利活用すること、これは“マテリアルリサイクル”といわれる手法で、
例えば廃PETを洋服の繊維にしたり、アスファルトにそのまま混ぜ込んで再利用するなどの取り組みだ。
今回取り上げる「廃PETを活用したアスファルトの改質剤“ニュートラック 5000”」はそうではない。
素材を化学反応により組成を転換して、化学原料として再利用する“ケミカルリサイクル”という手法により、
廃PETの“化学的な性質”を生かした改質剤で、アスファルトに添加することで、
耐久性などの舗装性能を飛躍的に高める花王独自の技術だ。
このケミカルリサイクルで生まれた“ニュートラック 5000”の効果として、アスファルトの耐久性が向上するとともに、
その結果として環境負荷を減らすことに繋がるだけではなく、
将来的には自動運転社会が抱えるであろう課題も解決していくことになるという。
なぜアスファルトの改質剤が、道路舗装の耐久性を増すだけではなく、
環境負荷や未来の自動運転社会が抱える課題も解決するのか?
そしてそれは、どのように生まれたのか?開発に携わった、
テクノケミカル研究所の道路プロジェクトのメンバーに詳しく訊いた。
1.“きっかけは、顧客ニーズに寄り添い垣根なくその課題に向き合うことから始まった”
2.“最初の大きな壁、道路舗装の石の問題を、多様なバックグラウンドと専門性を持つ仲間と乗り越える”
3.“花王のイノベーションの秘訣:マトリクス型組織とは?”
4.“新人でも専門性を見極め、難しい課題も任せてみる。新人ならではの実直な解析が、研究進展の糸口になる”
5.“顧客ニーズへの寄り添いだけではなく、社会課題の解決も考える”それが、世の中にない製品の開発へと繋がっていく
6.“環境か性能かではなく、環境も性能も”
7.“社会課題を解決したいという想いを、パートナー企業や自治体と共有し、一緒に世の中を変えていく”
8.“世界の環境問題と自動運転。未来を見据え、それぞれの持ち場で技術を磨き、世のインフラをアップデートする”
9.“ビジョンを実現するために、人と人が自然とつながっていく”
花王では、B to Cの衣料用洗剤やシャンプー化粧品などの製品開発はもちろんであるが、B to B領域でも、多様な製品を開発している。今回取り上げるアスファルトの改質剤もその一つだ。そして、生活者向けの製品であっても、企業向けの製品であっても共通していることがある。それは、“エンドユーザーのニーズに応えたい”、“社会課題を解決したい”という開発者たちの想いだ。
「我々はテクノケミカル研に所属しているのですが、私たちの研究所は、お客様(顧客企業)と研究員が直接やり取りして、先方企業のプロと色々話しながら、“このようにしたら新しい世界を作れるかもしれませんね”と相談しながら進めていく点が非常に特徴的です。お客様と相談しながら研究員が貪欲にニーズを探しに行く部署です。」と、白井が言う。
お客様に寄り添っている研究所だからこそ、「今のやり方では色々使いにくいみたいだよ」といった、具体的なニーズも把握できる。”ニュートラック 5000”の開発もそんな“お客様の具体的なニーズ”に向き合う中で生まれてきた。今回の開発において、最初にお客様のニーズに向き合いそれを解決しようとしたのが、橋本だ。
当時、橋本が向き合っていたお客様(道路舗装会社)は張替回数の少ない耐久性の高い舗装の開発を進めており、“アスファルトをもっと硬くしたい”という強いニーズがあった。
ちょうど道路舗装の研究を行っていた橋本は、アスファルトに色々な添加剤を入れることで、硬さなどが変わることを掴んでおり、そのニーズに対して「どうやったら解決できるかを発明していこう」そんな気持ちで向き合っていたところだった。
その時、スペインの花王の研究所から、トナー(帯電性を持ったプラスチックの粒子。コピー機などは、静電気を利用して紙にトナーを転写して、熱で定着させることで印刷している)用のポリマーを入れると飛躍的に硬さが向上する報告を受けた。
この報告が、橋本と白井を結び付けるきっかけとなる。
白井は橋本を見ながらプロジェクトスタート時をこう振り返る。「アスファルト舗装に、自分が研究していた、コピー機や印刷機などに使われるトナー用のポリマーが効果を発揮しそうなので、もっと深める事が出来ないか?と相談を受けて、スペイン、メキシコを巻き込みながら、橋本と2人で開発を始めました。」
入社以来、トナー用のポリマーを開発していた白井。それがアスファルトに効くといわれ、「喜んで協力したい、待っていましたと思った。」と続けながら「トナー用ポリマーは割と脆く、中途半端な硬さなので、何に使えばよいのだろう、、、と悩んでいたこともあり、とても面白いなと感じました。」と明るく語る。
橋本らは、白井のポリマーの効果を検証するためメキシコの研究所に乗り込み、試験用に提供してもらった駐車場で施工し、この効果を実感。ここから研究は橋本と白井を軸に、大きく進んでいくことになる。
ある分野でしか、使い道が見えなかった研究が、他の分野での大きなブレイクスルーになる。研究所の垣根を超えて課題に挑戦する、花王らしい最初の一歩だった。
アスファルト舗装を硬くするのにトナー用のポリマーが効くことを見出した2人、しかし途中で大きな壁に2人はぶつかる。それは、道路舗装の95%を占める“石”の性質の違いだ。道路舗装で使われる素材は、研究室内や工場の中のコントロールされた純度の高いものではなく、国はもちろん、日本国内でも地域によって使われる“石”の状態が異なっていて、決して単一ではない。そのような中でも効力を発揮することが、実際のアスファルト舗装の現場では求められるのだ。
この難題の解決のために起用されたのが、以前は、セメント、水、石、砂などを対象とする、建築土木材料のコンクリートの研究を行っていた“石のプロフェッショナル” である秋野と、ポリマーの研究に長年取り組み、量産や工場部門など、製品を仕上げていくうえで重要な全ての経験をしていた垣内だ。
「石が違えば硬さの出方が違うという問題は、コンクリートでもありましたが、アスファルト舗装の場合95%の石や砂を5%のアスファルトで固めるため非常に難度が高くなります。アスファルトの石に対する馴染みやすさも石の種類によって大きく異なったため、かなり難しいと感じながらもやりがいのある仕事だなと思って参加しました。」(秋野)
白井と同様に入社当時からトナーの研究に携わっていた垣内。「トナーからアスファルトへの転籍に抵抗はありませんでした。今まで培ってきたトナーの知識と経験を生かすことができ、かつポリエステルの新しい可能性が突き詰められるテーマと思いまして、ポジティブな気持ちで新しい仕事を受けさせていただきました。」
自分の今の担当業務と違っても、花王として課題解決するために前向きに知見や研究成果を提供する。花王の多くの研究者に共通する、部門を超えた協力関係を生む推進力になっているのがマトリクス型組織だ。
これについて、すこし紐解いてみよう。
端的にいうと“どこの部署にも好きに聴きに行って良いよ。協力を仰いでいいよ”ということだと白井は言う。
例えば、家庭品に見つけた技術をアスファルトに使っても良いなど、部門を超えての協力関係がやりやすいのだ。その原動力となるのが、各研究所や各部署で定期的に行われる発表会だ。それを聴きに行くことで、この人ここに詳しいのだなというのが分かって来るのだ。
研究部門の発表をオープンにやっているので、情報交換が活発で、声もかけやすい。スピード感がある研究組織体制、それが花王のマトリクス型組織の特徴だ。
今回、白井が秋野へ声をかけることが出来たのも、アスファルトで困った時にこの研究発表会を聴いているなかで、“この技術、使えるかもしれない” と気づいたことが発端だ。
秋野は「風通しの良い社風。近くに違う部署の方が働いていて、気軽に聴くことが出来る環境がある。困ったら、あそこに聴けばよいという風土が入社以降、ずっと継続していると認識している。」と、新たなチャレンジの背中を押してくれた、この組織風土とマトリクス型組織について話す。
新たな仕事に関わることに伴う、失敗は怖くなかったのか?とたずねると、
「花王の社風として、果敢にチャレンジした結果の失敗は責めないという風土がありますので、失敗が怖いとは思いませんでした。」と垣内。
秋野も「当時は、新しい事に挑戦できるっていうモチベーションの方が完全に上回っていました。」と自身のモチベーションに素直になれたことを語る。
ある程度、専門性が確立されたメンバーであれば、難しいチャレンジに対して気持ちも前向きになりやすいかもしれない。また特定分野のプロフェッショナルとしてプロジェクトへ貢献もできるだろう。一方で新入社員としてこのプロジェクトに配属されたのが柏木だった。
「まさかアスファルトの研究に携わるとは思っていませんでしたので、最初はかなりびっくりしました。」と当時を印象深く思い出す柏木。入社当初は家庭にあるような身近な製品の開発に携わることを想像していたため、道路プロジェクトへの配属は驚きだったようだ。
そのように語る柏木について、白井は彼の参加当初の役割を振り返りこう語る。「本当に初期の頃は、そもそも硬いポリマーを入れたから硬くなっているんだねっていうぐらいの所からスタートしました。意外と性能が出るので、これはもしかしたら接着が上がってるよね、なんでだろうね、という所で止まっていました。これを解析して何か見出すのが非常に難しかったのですが、それを柏木に預けました。そうすると、彼は大学での専門分野であった有機合成化学の知見をうまく生かしながら、かなり執着心持って実直に解析を行ってくれて、その結果裏付けがとれ、その後の設計に大きく寄与してくれました。彼が、ある意味サイエンスに落とし込んでくれたともいえます。」
新入社員の発言でも、真摯に受け止めてくれるのが花王らしさだと柏木はいう。「周りがプロフェッショナルな方々ばかりで最初は不安でしたが、自分の考えや気づきを気兼ねなく言える良い雰囲気があり、解析のアイデアが膨らみました。親身になって相談にも乗ってくれました。 それが結果的にチームとしてサイエンスを深める事に繋がりました。」(柏木)
柏木の解析の結果もあり研究チームでは、“ここに作用するポリマー設計ってこうじゃないか”と各人の間でひらめきがうまれ、研究がさらに進んでいった。新入社員といえども、一人欠けてもこのイノベーションは生まれ得なかった。そんなチーム体制で開発が進んでいった。
具体的に、彼らが開発した “ニュートラック 5000”は、アスファルト舗装に対してどのような効果を発揮するのか。下記は、通常の廃PETのままアスファルトに混合したものと、“ニュートラック 5000”の比較写真だ。
単純に廃PETを配合した場合との違い
これまでのアスファルト改質剤との違いを秋野は「今まではアスファルト自体を硬くする改質剤設計が行われてきました。しかしながら、その手法では、道路を敷きならす際の粘度があがってしまい、作業性が悪化するため、ある程度のレベルまでしか耐久性を出せませんでした。
一方、我々の改質剤設計は、石とアスファルトの相互作用、接着性を強くすることで舗装の耐久性を上げるという設計です。そのため、作業はしやすいままにしっかり舗装として高耐久なものが作れる所が革新的な所だったと思います。」
しかし、いきなり公道で実証することはやはり安全上難しい。「粉塵や色の変化が少ないという点への気づきは、花王工場内の道路で実証実験を繰返す中で見えてきたんです。」と秋野が語る。
“ニュートラック 5000”は廃PETを活用しながら、わずか1%をアスファルト舗装に配合するだけで、アスファルト舗装の耐久性を約5倍向上させるなどの効果を始め、色合いの維持、そして粉塵削減など、大きな革新的な効果が次々と明らかになっていった。
ニュートラック 5000の特徴とは
花王 コーポレート アスファルト改質剤『ニュートラック 5000』の粉塵削減効果
自身がチャレンジしたいということを応援する花王の社風、それは顧客企業の課題解決だけにとどまらなかった。耐久性という顧客企業の課題解決の糸口が見える中、さらに新たな課題にチームは挑むことになる。環境問題という大きな社会課題だ。
道路の舗装材がもたらす環境負荷は多岐にわたる。クルマが通過することで生まれるわだちや凸凹、自動車から漏れる油などによる劣化から生じる補修や修繕工事、また材料製造による燃料消費や廃棄物。研究が進むにつれて、これらの環境負荷をそのままにしていてはいけないという気持ちがチームの中で高まっていく。
実は、この機運が廃PETという重要な素材に着目するきっかけになったのだ。秋野はこう語る、「開発のスタートは、単純にアスファルトを強くしたいということでした。ただ、ある時もっと環境面に貢献できないかと思いました。もちろん、今よりも数倍長持ちということは、道路舗装工事が減るので交通渋滞も減るし、張替のエネルギーも減る。それだけでも環境には良いけれど、すぐには環境インパクトが見えにくい。それならば、原料に廃棄物(廃PET)が使えれば、すぐにでも環境問題という社会課題解決に繋がるのではと思いました。」
通常、廃PETを入れる理由は単純なリサイクル素材としての活用を想定されているので、アスファルトに悪い影響を与えない様に入れ込むのが課題となる。しかし、“ニュートラック 5000”は、悪い影響を与えない様に入れ込むのではなく、廃PETが必然性をもって利用されているのだ。
「良くあるのが、廃棄される原料をリサイクルして使ったから100の性能が90になるけど、環境に良いですという環境だけの視点。一方で、私たちはむしろこの廃棄される原料をケミカルリサイクルして使ったらもっと性能が上がるのではないかという発想です。柏木が色々解析を進めて行くと、PETは親水性が高いのでこのようなものを上手く組み込んだら、性能(アスファルトと石をつなぐ性能)が上がるのではないかと。それで廃PETの活用の検討を始めました。」と語る白井に、「むしろ、廃PETを使わないとなれば、機能としては劣るのでしょうか?」と質問をすると「そうですね。ある性能においては劣ると思います。適応できる土や石の範囲が低い事になります。」と、必然性のある廃PETの活用に関して、力強く応えてくれた。
さらに顧客企業によっては、廃PETだからではなく効果として優れているから、この“ニュートラック 5000”の方を使いたいと、純粋な機能で指名して来るという。環境か性能かというトレードオフで考えがちなことを、環境と性能の両立を高い次元で実現しているのだ。
道路舗装のアスファルトの改質剤という性質上、効果の検証も含めて1社で実現することは難しく、様々なパートナー企業・自治体との協業や支援が必要だ。“ニュートラック 5000”に関しても、日本道路株式会社をはじめとする道路会社がこの技術に可能性を見出してくれたことで、駐車場などでの実証実験や課題の洗い出しと解決に様々な協力を仰ぐことが出来た。
特に、ドラッグストアのウエルシアではウエルシア藤沢用田店の駐車場に採用され、今後大型車両が多く耐久性が求められる駐車場への敷設や、ウエルシアで回収された廃PETのケミカルリサイクルなども計画されている。
また自動車の走行数も多い公道に施工する際には特に安全性を求められるため、取り組みに時間が掛かることが予想されたが、その中で当時の磐田市長が“ニュートラック 5000”の環境に与える影響や、道路補修コストの削減につながることに興味を持ってくださり、早期の実証実験の実現にもつながっていった。
志のある仲間が集まり、またその製品に賛同する企業や自治体が集まり、さらに参画者が増えていく。秋野はこれからの広げて行き方を、「ボトムアップ式に増やしていきたい」と語ったが、敷設した後も、パートナーとともに改善の歩みを進めている様子は、共創のように感じられる。
最後に、この技術の未来と将来に向けた発展性について訊いてみた。
白井は、道路舗装のやり方やエリアごとのニーズの違いはあるがと前置きしながらもグローバル展開を見据える。「事業としては、市場の大きい北米での展開を目指しています。ただ北米はアスファルト舗装の歴史が長く、我々の改質剤が得意とするわだちに対しては既にいくつか対策が出来上がっており非常に苦戦しておりました。しかし、北米では自動車を長い年月使うので油漏れが多くなる。アスファルトは油に弱く、溶けてしまう。最近この “オイル”による損耗ニーズが見えて来たので、ここは積極的に取り組んでいきたい。ただ、事業を抜きにして、研究者としては、舗装に関して課題の多いアジアを狙いたい。環境への貢献、不便を便利にすることの影響力、工事渋滞の課題にも応えていきたい。」と、ここでも、事業と社会課題の両方を追いかける姿勢を崩さない。
東南アジアに2年間駐在していた秋野もその言葉に頷き、「実情が分かっている。だからこそ、花王の技術で変えていきたい。」という。
道路が世の中に果たす役割の大きさと、そこへの貢献について長年道路舗装の研究に携わってきた想いをこめて力強く話すのは橋本だ。「道路の仕事に関わる前は、あまり気にならなかったのですが、研究で取り組むと、やはり道路の舗装が傷んでいるのがとても気になります。そして、舗装はアスファルト舗装だけではなく、日本でも北米でもアジアでも世の中には様々な舗装があります。今はアスファルトの改質だけですが、その輪を広げたいなと思います。道路は人間の体で言ったら血管みたいなものなので、そこが途切れたりすると、経済に異常をきたすということもあるので、やっぱり耐久性や、いつまでも安心・安全を維持することはある種社会的なミッションと思っています。」
垣内は、ケミカルリサイクル技術の更なる深化に着目する。「PETボトルや洋服は回収PETに高純度が求められるため再利用のハードルが高いが、今回のケミカルリサイクル手法は求められる純度を大きく下げることができた。将来的には印刷済みのPETフィルムなど、再利用が難しい廃PETを効率的にリサイクルできるまで技術を高めることで環境に貢献したい。」と、リサイクルのバリューチェーンまで見据えたあるべき将来像を描く。
“アスファルトの化学”に好奇心をもって取り組んだと語る柏木は「これからも好奇心を大事に研究開発に携わり、どんどんブレイクスルーを起こしていきたい。例えば、廃プラにはPETだけでなく様々な種類のポリマーが混じっています。我々はこのうちのPETのみを使いこなしたに過ぎない。ですので、究極的には全ての廃プラ成分をニュートラックに組み込めるようにしたい。そのためにもっとサイエンスを深めて、巧みに分子を操っていきたいですね。」と、アスファルトの解析で開発に貢献した成功体験をさらに拡張していくことを目論む。
秋野が語ったのは、さらに未来を見据えた社会課題の解決についてだった。「さらに大きいビジョンとしては、”自動運転社会“への貢献。道路における”視認性“と”耐久性“を上げることが”自動運転社会“に求められるので、チャンスがあると思います。自動運転では、”路面の平坦性“を担保する必要があり、電気自動車は車両の重量も1.2~1.5倍になります。さらに自動車が同じ場所を走り続けるので、耐久性がより一層必要になります。」
“アスファルトを強くしたい”。その想いに賛同し、軽やかに社内研究所の垣根を超え集まった開発者達。花王独自のリサイクルに対する着眼点から、廃PETのケミカルリサイクルに至り、パートナー企業と技術を磨いていく中で、環境問題から自動運転にまで未来の社会課題解決の展望が広がっていく。
最後に各開発メンバーから語られた未来の展望。どのように実現されていくのだろうか。ここまでの”ニュートラック 5000”の開発を振り返って語る、白井と橋本のことばに、花王らしい実現にむけたアプローチが見えてくる。
「営業も、開発者も、パートナー企業も一緒になって、お客様の表情を見ながら、ここが響かないなら、こちらかなと、社会課題を解決したいという気持ちを共有しながら、その場その場で一緒に考えていけたのが、今回の取り組みの成功要因」と白井が語ると、”ニュートラック 5000“開発の発端になった橋本は「最初は一人でやっていたのですが、今振り返ったら、これだけの人数。この6年の間に仕事としては大分大きな広がりが出来たなと言うのは嬉しいです。今までなかったものを世に出せたというのは、開発者冥利に尽きます。ここまで行けたのは色んなものに恵まれたなと、人も含めて、思います。」
共通しているのは、ここまでの開発を振り返り、イノベーションの秘訣を“人である”としている点だ。
未来の社会課題の解決を共に想うこのチームが、様々なパートナーや想いを同じくする新たな仲間と出会い、未来を強く変えていく。そのプロセスもまた、それぞれの領域を超えた“人と人とのつながり”からもたらされる。そう感じさせられたインタビューだった。
“花王社内だけではなく、自治体の方々やパートナー企業の方々と一緒に、
ビジョンを共有し、社会課題に向き合う”
想いが人を動かし、人と人とのつながりが技術を前にすすめ、
そして、社会課題を解決するに至る。
それが、花王のイノベーションの生まれ方の一つなのだ。
白井英治(しらいえいじ)
テクノケミカル研究所 1室 室長
本プロジェクトの全体推進を担当
橋本良一(はしもとりょういち)
テクノケミカル研究所 1室 上席主任研究員
アスファルトへの深い造詣を生かした開発提案を行った
秋野雄亮(あきのゆうすけ)
テクノケミカル研究所 1室 道路プロジェクト 舗装設計チームリーダー
骨材(石や砂)への知見、アジア各国の舗装の知見を生かした汎用性の高い改質剤設計を担当した
垣内宏樹(かきうちひろき)
テクノケミカル研究所 1室 道路プロジェクト 樹脂設計チームリーダー
高分子設計・量産化を担当し、廃PET活用ポリエステルの製造を実現した
柏木啓孝(かしわぎひろたか)
テクノケミカル研究所 1室 道路プロジェクト 研究員
アスファルトとポリエステルの相互作用解析により廃PET活用ポリエステルの早期設計を実現した
“顧客ニーズへの寄り添いだけではなく、社会課題の解決も考える”
それが、世の中にない製品の開発へと繋がっていく。