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  • #スキンケア #洗顔 #角栓 #界面科学

【特集:新しい角栓除去の洗浄技術】

鼻の頭だけじゃなかった?
花王独自の解析からわかった角栓の真実

  • 2021/12/01 Text by 及川夕子

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美しい肌の条件であるなめらかな肌を語る時、避けて通れないのが「毛穴悩み」。とくに小鼻や鼻の頭、あごなどに現れる、ザラザラした毛穴や黒いブツブツ……。こうした毛穴悩みの原因となっているのが「角栓」だ。

角栓というと、鼻の頭に溜まるものというのが一般的な見方だろう。ところが今回、花王独自の研究から、角栓は頰やおでこなど顏全体にあり、しかも年齢を重ねるほどその数が多くなるという新知見が明らかにされた。さらに、これまで洗い落とすことが困難だった角栓を分解する洗浄成分が発見されたという。

このワクワクするような研究の全貌を、研究担当者である花王 スキンケア研究所の尾沢敏明さんと、研究開発部門の坂井隆也さんの解説とともに紹介しよう。

研究担当者である花王スキンケア研究所の尾沢敏明さんと研究開発部門の坂井隆也さんの写真

ザラザラした角栓。こだわったのは洗顔で取り除くこと

「毛穴に詰まった角栓はどうしてそんなに落ちないの?」
「もっと簡単に、毎日の洗顔だけで落とせないもの?」

花王スキンケア研究所の尾沢さんが、研究テーマとして「角栓」に目をつけたのは、そんなシンプルな発想からだった。そもそも角栓は毛穴に皮脂が詰まることで生じる。それは、毛穴のざらつきやニキビなど様々な毛穴悩みをもたらす大きな要因となっている。

鼻の角栓ケアにはすでに毛穴パックという画期的なアイテムがあって、角栓がするりと抜けるあの感覚は快感すぎるほど。一方で、もともと花王の洗浄技術には、長い研究の歴史が培った豊富な知見がある。新たな選択肢として、身近な習慣となっている「洗浄というプロセス」で角栓ケアができないかと考えたのだ。

「スキンケア研である私から、新規洗浄剤の開発や洗浄メカニズム研究のプロであるマテリアルサイエンス研、皮膚科学のプロである生物科学研、物質の組成や構造解析のプロである解析科学研に声をかけて、最初から共同研究として取り組みました」と語る尾沢さん。この言葉から、本気度が伝わってくる。

洗浄にこだわったのは、「スキンケアの多様化が進んできたことがありますし、なによりも毎日する洗顔習慣で落とせるようにしたかった」と尾沢さん。界面活性剤と泡の研究の第一人者である坂井研究員も「肌にとっては刺激になるゴシゴシこするような機械力にはなるべく頼らないことも大切。なんとか当社の優れた洗浄技術を使えないものかと思いました」と話す。

角栓は全顔に散らばり、年齢とともに増えるという衝撃の事実

まずは角栓の実態を明らかにするため、尾沢さんらの研究チームは、角栓がどのような状態で肌に存在しているかを観察する本質研究からスタートした。

「実は、角栓というものは毛穴の奥の方にまで存在しています。よく見る毛穴のイラストでは、皮脂腺が1つだけ描かれていることが多いと思います。でも実際は、特に小鼻の場合、毛穴の中には皮脂腺がたくさん繋がっていることが確認できました。これら皮脂腺から分泌された固体・液体状の皮脂が剥離角層(タンパク質)と混ざって毛穴にたまった汚れが角栓の正体です」(尾沢さん)

観察研究によって、角栓は、顔のいたるところに存在することも判明した。

尾沢さんは「角栓だけを可視化する特殊な方法で顔全体を観察したところ、鼻に多数存在するのは知られている通りですが、おでこや頬など顔全体にも多数の角栓が存在していることがわかりました。この方法で毎日のように角栓を観察していたころは、実験中、疲れて目を閉じるとですね、チカチカと(残像が)光るんです。それはまるで天体図のようでした」と語る。

さらに、角栓は頬では年齢を重ねた肌ほど数が多いという、衝撃の事実も明らかになった。角栓=毛穴の詰まりは、皮脂の分泌が活発な若者特有の現象かというとそうではなかったのだ。

角栓は鼻だけでなく頬や額など全顔に多数存在する図版

  • 角栓の蛍光特性を活用した可視化方法で見た角栓分布の例(光って見えるのが角栓。中央の人物は別人)

一般的に、40代くらいから肌の皮脂量は減少していくことが知られている。それなのに、角栓の数が増えるとはどういうことなのだろうか。

「原因の特定はこれからの課題ですが、同じ角栓でも、年齢とともに皮脂の割合が少なくなって剥離角層(タンパク質)の割合が多くなり、それだけ落としにくいものになって残っていくのではないか、という仮説を立てています。皮脂が多い20代では、大きい角栓になる可能性が大きい。それに対して、皮脂が減ってくる世代では、小さい角栓が肌の上に数多く存在してくるというのが、40代、50代の方の角栓の特徴ではないかと考えています」(尾沢さん)

角栓は肌のザラツキの元にもなるし、そればかりではなく肌質やくすみ感など肌の印象に悪影響を与えていると考えられる。こうした因果関係や詳細なメカニズムについては、「今後さらに明らかにし、様々な毛穴周りの肌悩み解決に活かしていきたい」と尾沢さんは語った。

複合汚れだけに、一般の洗浄成分ではビクともしない

ともあれ、観察研究によって角栓は毛穴の奥深くまで存在し、さらに顔全体にあることがわかった。尾沢さんら研究チームは、「洗浄で角栓を落とすには?」という次なる研究段階へ進んでいった。

ただ、角栓は毛穴のなかに埋もれているため、実験でさえ簡単にはできない。そこでどうしたか。ここからの研究がまた興味深い。

「毛穴から角栓を取り出して、様々な洗浄液の中で溶けるかどうかを確かめてみたんです。その結果、角栓というものが、思った以上に難敵であることがわかりました」と語るのは坂井さん。角栓はこれまでの洗浄剤では、容易に溶けてはくれなかったからだ。

  • 角栓を取り出して石鹸液に浸しても、全く溶けない。

「水に全く溶けない上に、普通どんな汚れでも界面活性剤溶液に接すると表面がもわっとゆるんだりして変化が見えるものですが、角栓は普通の洗浄剤をあててもびくともしなかったのです」(尾沢さん)

角栓はなぜこんなに強いのか? そもそもこんなに強いものが毛穴の中に立てこもっているんだから、大変だぞ……。そんな空気感の中で、研究は進んでいった。

「角栓の構造と組成を詳しくみていくと、角栓は、皮脂腺から出た皮脂が剥離した角層(タンパク質)と混じり合った複合汚れ。断面を観察すると、タンパク質の殻―皮脂―タンパク質の殻―皮脂……と、たとえるならミルフィーユのように、異なるものが何層にも重なっている感じです。これでは皮脂だけに強い石鹸には歯が立ちません。タンパク質の殻に守られているからです」(坂井さん)

そこで研究チームは、まず皮脂に強い基剤とタンパク質に強い基剤の合わせ技を試してみたのだが、それも歯が立たなかったという。徐々に領域を広げて検討したところ「トリスヒドロキシアミノメタン」(以下トリス)という汎用の化粧品成分を作用させると、角栓がボロボロと崩壊していくことを発見したのだった。

  • 研究室内でもどよめきが行ったというトリスヒドロキシアミノメタン(トリス)による角栓崩壊の様子。

「トリスの効果を初めて研究メンバーで共有した会議でのこと。顕微鏡の下で角栓が崩壊するのを目の当たりにした瞬間、会議室がどよめきました。これはいけるぞ!とみんなで盛り上がった。あれは本当に忘れられない瞬間でした」と尾沢さんは話す。

角栓を溶かして洗浄成分に変える「トリス」ってすごい!

トリスはpH調整剤として化粧品に配合される弱いアルカリ成分にすぎず、そもそも界面活性剤でもない。それでも坂井さんによると、トリスは角栓の中の皮脂(脂肪酸)と結合することで「液体石鹸(洗浄成分)」に変化させるらしい。

「角栓は強固なタンパク質の殻で何層にもわたって固められ、その間に固体の皮脂(脂肪酸)が入っている構造だったため、様々な洗浄成分(界面活性剤)で試してもなかなか壊れませんでした。トリスを試したのは、そもそもタンパク質の堅い守りを弱いアルカリで緩めることを期待してのことだったのです。ところがトリスはタンパク質の殻を緩めて突破するだけではなく、さらに皮脂まで到達すると、その中でも難敵の固体の皮脂(脂肪酸)と結合して液状の洗浄成分に変えることまでやってのけたのです。つまり、汚れが自分で自分を洗う洗浄成分に変化する。これが角栓崩壊のメカニズムということになりますね」と坂井さんは説明する。

こうして「難敵」角栓を溶解させる新たな洗浄原理が発見された。この原理を洗顔料に応用してもその効果は得られるのだろうか。トリスを含有したモデル処方の洗顔料を4週間連用した場合と、トリスを配合してない通常の洗顔料で洗ったときの比較試験が行われた。

「角栓は毛穴の中に閉じこもって一部が顔を出しているだけですので、取り出して全体を洗浄液に漬けた場合のようにはいきませんが、先ほど説明した可視化方法で顔全体の毛穴面積を測定したところ、当社の通常洗顔料では変化がないのに対し、モデル処方の洗顔料では有意にその毛穴の面積が下がっていました。つまり、この原理を応用することで、これまでは困難だった洗浄による角栓除去が、連用で可能になることが確認されたのです。私自身も、モデル処方を使ってみましたが、特に鼻の部分はザラつきがなくなってツルツルとした感触になり、感動しました」と尾沢さん。

トリス非含有洗顔料それぞれ4週間連用した後の角栓面積を比較した結果の図版

トリス非含有洗顔料それぞれ4週間連用した後の角栓面積を比較した結果の図版

トリス非含有洗顔料それぞれ4週間連用した後の角栓面積を比較した結果の図版

  • トリス含有洗顔料、トリス非含有洗顔料それぞれ4週間連用した後の角栓面積を比較した結果

洗浄成分には様々なものがあって、汚れによっては劇的に落ちるものと全く落ちないものがある。だから、肌の汚れも同様に、攻めるべき相手をよく知ることが解決の糸口になる。今回はさらに、タンパク質を緩めてかつ、残った皮脂を洗浄剤に変えることを両立させたことが問題解決の鍵となった。角栓が顔全体に散らばっているという新しい知見も、これからのスキンケアの可能性を広げてくれそうだ。研究者のあくなき探究心は、私たちの健やかな肌作りをそうやって支え、叶えてくれている。

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尾沢 敏明(おざわ としあき)
花王株式会社 スキンケア研究所 研究員。2006年 花王(株)に入社。スキンケア研究所において、皮膚洗浄料や汗ケア/デオドラント製剤、スキンケアシート製剤の技術・商品開発に従事

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坂井 隆也(さかい たかや)
花王株式会社 研究開発部門 研究主幹。工学博士。1992年 花王(株)に入社。素材研究所(現マテリアルサイエンス研究所)において、機能性界面活性剤の分子設計、工業的製法の開発、機能探索、作用機序の解析など多岐にわたり界面活性剤の研究・開発に従事

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