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  • #感性工学 #健康・美容 #スキンケア #メイクアップ

【特集:顔印象】

若々しさは年齢では決まらない
顔印象の研究から考える、心と若々しさの関係

  • 2020/11/25 Text by 及川夕子

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多様性の時代、ジェンダーレス時代と言われるいま、年齢も、性別も関係なく、その人がどうありたいか、どう振る舞いたいかは、一人ひとり違うものになってきている。

一方で、私たちは社会的動物でもあるから、他人からどう見られるか、気にならないといったら嘘になるだろう。朝、鏡をのぞいたとき、「今日の自分の顔、良い感じ」と思えた日には、体も心も軽くなって、一日中気分がいいものだ。また、年齢よりも若く見られることは、間違いなく自信になるし、何かに挑戦しようとするときの活力にもなる。見た目印象がよいことの心理的効果を体感しているからこそ、私たちは日々美容に取り組んだり、特別な日ではなくてもお気に入りのメイクをしたり、顔映りのいい服を選んだりするのだろう。

では好印象の顔、たとえば「若々しい顔印象」とは、どのようなものなのだろう。好印象や若々しさというフレーズはよく使うのに、こう問われると、シワのない顔? シミひとつない肌? それとも目の輝き? と迷ってしまう。キーポイントとなるのは一体何なのだろうか。

花王スキンケア研究所が行った最新研究から、その答えを探してみよう。

若々しさの科学的な定義は存在するのだろうか?

注目したのは、「顔印象を生み出す心の動きを捉える研究」。「見た目年齢印象」と「若々しさ」という言葉は、一見似ているように思える。だが、両者は本当に同じものなのか?という疑問が出発点。花王の研究チームは、ヒトが見た目の顔の“若々しさ”を認知するしくみを、“心理学的アプローチによってモデル化する”ことに挑戦した。

研究員の一人、平あき津さんはこの研究の意義について次のように語る。
「私個人の考えでもあるのですが、美しさ=若さという思い込みは、ともすれば女性自身を苦しめてしまうことにもなりかねません。それに、年を重ねてもステキな方、印象がよい方はたくさんいらっしゃいます。見方を変えると、年齢的な若さだけが重要なファクターというわけでもないのです。

ならば、外見的な顔の“若々しさ”はどのような印象と関連が深いのか、それはどのような顔の特徴によって認知されているのかを明らかにしてみようというのが、この研究の目的です。美容研究から始まった顔の印象研究が、心の動き・認知科学の研究へと発展していった。ここにこの研究の面白さ、可能性があると感じています」

一般的に、顔の印象は加齢によって大きく変化する。たとえばシワ、たるみといった顔の組織の変化というものが、見た目年齢に大きく影響する。経験から、そう実感している人も多いと思う。花王の先の研究から、外見の形状的な加齢変化というものが、「三次元顔形状解析技術」によって明らかになり、人の顔の加齢変化のパターン化が可能になった。この技術を活用すれば、自分の顔が将来どのように加齢変化するかを予測できる可能性があるという。

若々しいと心が感じる顔の特徴がわかってきた

話を「心の動きの研究」に戻そう。平さんら研究チームは、2枚の女性の画像を用意して、美容専門評価者7名に、それぞれの「推定年齢」と「どちらの画像が若々しいか」を答えてもらった。

50代女性の平均顔をもとに作成した画像

  • 50代女性の平均顔をもとに作成した画像について、美容専門評価者に答えてもらった

結果は、両者の見た目年齢は左・48歳、右・49歳と、ほとんど違いがなかったにも関わらず、回答者全員が「若々しいのは右の顔」だと答えた。みなさんはどう感じるだろう。

「つまり、若々しさと見た目年齢印象というのはイコールではなくて、外見的な年齢だけで説明できるものではないということが、このことから推測されました。人が人の若々しさを評価するときに、頭の心の中でどのような判断が行われているのか。それを調べるために、感性工学の手法を用いて研究を進めました」(平さん)

感性工学とは、人間の感性という反応を科学的手法で分析し、感性に合った商品開発につなげるためのテクノロジーのことだ。

研究では、まず「若々しさ」を推定年齢やその他の印象からなる印象として定義した。次に、50代の女性32名分のノーメイクの無表情正面写真を撮影し、プリントを用意。印象や顔の特徴に関する言葉を選定し、それぞれ美容専門家による印象評価を行い、スコア化していった。

印象評定に用いた評価語は、顔印象として「若々しい、推定年齢、イキイキ、はつらつ、元気、疲れて見えない、健康的、小ぎれい、清潔感、清らか」、顔特徴として「頬のシミソバカス、頬の色ムラ、頬の赤み、頬のキメ、頬のツヤ、口もとのシワたるみ、ほうれい線付近のシワたるみ、目もとのシワたるみ、頬のハリ、頬の白さ、頬の透明感、頬のくすみ、クマ、目周りのくすみ、目力、目のぱっちり感、黒目のはっきり感」と全部で27つ。

このデータを用いて統計解析を行い、似た意味を持つ語をまとめて「イキイキ因子」「清潔感因子」などとし、これと若々しさの関係性の強さをみていくという重回帰分析を行った。そして、解析結果をモデル1化した結果、図1のようなモデルが構築された。

図1 若々しい顔印象の認知モデル

  • 図1 若々しい顔印象の認知モデル

このモデルからわかってきたのは以下のようなことだ。
●若々しさを規定する3つの印象は、①推定年齢、②イキイキ感、③清潔感の3つに集約される
●若々しさに最も強く影響しているのは「イキイキ感」
●推定年齢は「シワたるみ感」と関係している(寄与度0.66)
●イキイキ感は「目力感」と関係している(寄与度0.83)
●清潔感は、「透明感」と関係している(寄与度0.64)

「若々しさというものは、もちろん、見た目年齢印象、推定年齢とも関係しているのですが、若々しさの認知構造をモデル化することによって、こういう3つの要素を持つ、多様性を有する印象であるということがまずわかりました。それと顔特徴との関係についても明らかになりました」(平さん)

「目元周りの印象」がイキイキ度を左右する

注目したいのは、若々しさを規定する3つの印象のうち、“イキイキ感”が最も大きく寄与しているという点だ。さらに、イキイキ感には、「目力感」(目がぱっちりしていること、黒目がはっきりしていること、目力があること)や「目元のくすみ感」といった目元の状態と強く関係していることがわかった。

また、清潔感には、「肌の透明感(頬の透明感、頬のくすみ、頬の白さ、頬の艶、頬のきめ細かさを含む)」が関係していることがわかった。

こうした結果を、私たちは日常の美容にどう取り入れていったらよいだろう。

「たとえば、目元を明るくぱっちりと見せるといった工夫によって、顔全体の印象がイキイキと若々しく見えるようになる可能性があります。一方で、他の先行研究から、女性というのは、外見的な若々しさを重視する考え方と、内面的な若々しさを重視する考え方、両方を有しているということが明らかになっています。それを前提とすると、イキイキ感や清潔感というのは、その人の心の状態や人となりのようなことを想像させるワードであり、必ずしも外見的なものではなく、内面的な若々しさと考えることもできるでしょう」と平さん。

花王では、このほかにも、肌色の見え方の成り立ちや顔の色彩分布をシミュレーションする研究、ベースメイクのパール顔料が顔印象にどのような影響をもたらすかという研究など、さまざまな顔の印象研究を行なってきた。その研究の中心で動いているスキンケア研究所の南 浩治さんはこう話す。

「印象というものは一つではない。よい印象につながる要素はたくさんあって、いくつも見つかってくると、可能性が広がって楽しくなる。もっと探してみたくなる分野だと考えています。人の心の動きという本質を研究することによって、当社としては、どのようなところをコントロールすれば、実際に若々しく見えるのかということを、さまざまな角度から、ご提案できるようになるのではないかと考えています」

今回は若々しさの研究だったが、平さんは「年齢の若さに執着しなくても、人は素敵でいられる。人が持つ印象は、本来多様なものでできているという考え方が浸透していくといいなと考えています。内面の充実感なども大切にした研究を進め、皆様のウェルエイジングに貢献できたらうれしいですね」と語る。

実際、一人ひとりの顔や魅力は驚くほどさまざまに違う。若々しさの表現にもさまざまなアプローチがあっていいし、女性を表す形容詞がもっともっとあっていい。
花王の研究は、そんな人間の多様性にも迫ってきている。

南 浩治 花王株式会社 スキンケア研究所 上席主任研究員
1988年、花王株式会社入社。ビューティケア研究センターにて、光学、画像工学的手法による肌の見え解析・顔の印象解析研究に従事。現在は、スキンケア研究所にて、画像解析技術を応用したスキンケア化粧品の評価研究に従事。

平 あき津
2002年、花王株式会社入社。現在、スキンケア研究所に所属。主に、顔印象の認知に関する基礎的な研究および感性工学的な視点に基づく化粧品開発に従事。


【引用元】
※:平 あき津, 南 浩治, 五十嵐 崇訓, 行場 次朗「複合印象としての若々しさと顔特徴との関係性を表す認知モデル」 日本感性工学会論文誌 2020, 19(1), 65-71
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjske/19/1/19_TJSKE-D-19-00029/_pdf/-char/ja
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