Japan 日本語

イノベーションのDNA

  • #ヘアケア #洗髪 #絡まり #くせ毛 #毛髪科学

【特集:美髪】

「パサついてみえる」の原因は「くせ毛の増加」。
洗髪時にいかに髪を整えるかが仕上がりのカギに!

  • 2022/07/20 Text by 及川夕子

FRaU

白髪にパサつき感、髪のうねり…。年齢とともに、毛髪の変化に悩む人は増えていく。さらに言えば、ヘアケア剤やトリートメントでしっかりケアをしても、仕上がりに不満が残る…という声も少なくない。40代、50代になり、つややかな美髪を取り戻すことは難しいのだろうか―。

今回は、そんな髪の老化悩み(または加齢問題)に関わる新発見をお伝えしたい。花王はこれまで年齢ごとの毛髪悩みの傾向や、健康的で美しい髪を手に入れるための本質研究を進めてきた。その中から、新たにわかったのが「髪1本1本の毛流れ(キメ)が揃うと、つややかに美しく見えるだけでなく、うるおいまで感じられる」ということだった。

髪のキメが整うとは? くせ毛やパサつきの悩みをどうしたら解消できるのだろう。毛髪の基礎研究から実際の商品開発まで携わってきた花王ヘアケア研究所の研究員、渡邊俊一さんに聞いた。

加齢によってツヤが落ちる? その原因は「くせ毛の増加」

渡邊さんによると、加齢によって髪のツヤが失われる原因の一つは〝くせ毛〟の増加。花王の実態調査で10代から60代までの日本人女性の頭髪を調べた結果、髪の加齢変化は個人差もあるが、年齢とともにチラチラとパサついて見える人が増加していた。さらに頭髪全体を詳細に調べていくと、加齢に伴ってうねった毛髪(くせ毛)の割合が増加する実態や、くせ毛の割合が多くなるほど髪の手触りも悪くなることもわかったのだ(下図)。

10代から60代までの日本人女性の頭髪を調べた結果、髪の加齢変化は個人差もあるが、年齢とともにチラチラとパサついて見える人が増加していた。

  • 図1:髪型や髪色を問わず、加齢とともに髪がパサついて見える人が増加している(※1)。

くせ毛が多く混じった毛は見ても触ってもパサついて感じられる。だからくせを扱いやすくしてキメを整えるのが美髪のカギ。

  • 図2:くせ毛が多く混じった毛は見ても触ってもパサついて感じられる(※2)。

くせやうねりの悩みを解消しようとする場合、アイロンでセットしたり縮毛矯正するという方法もあるだろう。しかし、それではダメージが心配だ。くせも活かしながらダメージを与えずに美しい髪を楽しむ方法はないのか。そこが、渡邊さんの研究の出発点となった。

くせ毛が増えるとき、何が起こっているの?

そもそも、なぜ年齢を重ねるとくせ毛が増えるのか。渡邊さんは次のように解説する。

「髪の毛は、キューティクルに覆われた内部に、たくさんの細長い角化細胞が束になって寄り集まっています。私たちの研究から、この角化細胞には性質の異なる2種類(オルト細胞とパラ細胞)のあることが分かりました。直毛の中にはこれら2種類が均一に偏りなく分布しているのですが、加齢に伴って偏りのある毛、つまりオルト細胞が多い部分とパラ細胞が多い部分に分かれた毛の本数が増えてくることも見出されたのです。これがくせ毛で、カールの外側にはオルトが、内側にはパラが多く分布しています。湿気が多い環境や雨で髪が濡れた後、自然乾燥するとくせが出やすいのは細胞のアンバランス(偏差)が原因だったのです。加齢によりくせが生じている方も、もともとくせがある髪質の方も、同じ構造上の特徴があり、ツヤがない、パサついて見えるといった悩みが出てきやすいと言えます」

では、〝美しく感じられる髪〟とはどんな髪だろうか。

実は、見た目に美しく触った時にうるおいまで感じられるかどうかには「毛流れが揃っていることが大きく関係している」と渡邊さんは断言する。

「うるおいを感じる髪というのは、見た目は表面が乱れなく整った状態で、触感は絡みのないなめらかな指通りの髪です。そのような状態を〝キメの揃った髪〟と我々は定義しています。保湿するなどしてダメージケアをしても、髪に絡まりがあるとそれがパサつき感や乾燥感につながってしまう。それとは逆に、髪の繊維がきれいに並んで毛流れが揃った状態なら、ツヤはもちろん、やわらかさ、うるおい感までも感じられることが実験で確認できています。カール自体が悪いのではない。1本1本の毛流れが揃っていないから美しさが感じられないということになります」

うるおっていると感じられる髪は、髪1本1本がキレイに並び、手で触ったときに冷たく感じる。毛流れが揃った髪は、揃っていない髪に比べて触ったときの接触面が大きく、体温の移動も大きくなるため。

  • 図3:うるおっていると感じられる髪は、髪1本1本がキレイに並び、手で触ったときに冷たく感じる。「毛流れが揃った髪は、揃っていない髪に比べて触ったときの接触面が大きく、体温の移動も大きくなるためです」(渡邊さん)

1本1本の毛流れを美しく。ヒントは美容師の洗い方にあった

毛流れが揃った状態を作ることができれば、それがくせ毛であっても直毛であっても髪は美しく感じられる。邪魔をしているのは何だろう? 研究はさらに進んでいき、渡邊さんら研究チームは、一般の人と美容師の洗い方の違いに目を向けた。

美容師は、洗う時から毛髪の絡まりをとくことを意識しており、乾かした後も絡みのない状態に整えることができる。一方、一般の人が陥りがちなのが、ヘアダメージを気にしたり、頭皮を洗うことを意識するあまり、髪に指を通さずにシャンプーを終えてしまうことだ。名付けて「なで洗い」。この洗い方が、毛揃いの乱れや指通りの悪さ、パサつきといったものに影響していることがわかったのだ。

ここで、髪を洗い、セットするときのことを思い出してほしい。濡れた髪は乾く過程で形を記憶し、再び濡れると元の形状に戻る。つまり、髪は形状記憶物質と言える。ドライヤーやヘアアイロンで熱を加えることでカールさせたりまっすぐにしたり、自由に形付けできるのは、この特性のおかげだ。

しかし逆に言えば、シャンプー・コンディショナーの後に髪の絡まりが残っていれば、これも同じ仕組みで形状記憶されることになる。絡まりを解かない「なで洗い」が問題になるのはこのためだ。

「毛揃いに関する調査を進めていくと、髪を洗うときに、特にダメージの大きい髪では濡れた毛の間に強い付着力が働き、そのせいで手では感じきれない無数の髪の絡まりが発生していることがわかりました。なで洗いのように、十分に髪に指を通さない洗い方では、いくらケア効果がある成分を使っても、残ってしまった絡まりの中までコンディショナーが十分に行きわたりにくい。絡まり自体の解消が難しいのはもちろん、ケア成分が吸着できていない部分も生じてしまうということになります。言い換えますと、美容師さんのように、丁寧に絡まりをといたり、髪全体にコンディショナーをなじませたりする洗い方ができれば、絡まりを十分に解消でき(洗っている時から毛流れを揃えることができ)、それがキレイな仕上がりにつながるのです」(渡邊さん)

シャンプーのなで洗いによって残ってしまった絡まりは、コンディショナーでも解消しきれない。

  • 図4:なで洗いによって残ってしまった絡まりは、コンディショナーでも解消しきれない。

髪のキメを整える洗い方・乾かし方

今は、髪を美しく仕上げるアイテムが豊富に手に入る時代。だから、かえって私たちは正しく丁寧にケアするという、一番大事な基本をおざなりにしてしまっていたのかもしれない。

「お手入れの仕方によって、ヘアケア製品のポテンシャルがどれだけ出るかが変わってくるということも事実です。洗い方・乾かし方を意識していただくと、ヘアケア剤の良さがより引き出せるようになると思います。髪のキメが揃ってさえいれば、ストレートでもカールした髪でも扱いやすく、つややかでうるおった美しい髪になるはずです。今後はその人らしいくせを生かして、もっと楽にキレイになれるような提案をしていきたいですね」と渡邊さん。

年齢を感じさせない美しい髪は、髪を健康にするヘアケア剤を使ったお手入れに加えて、「髪のキメを揃える」手入れをすることで叶う。それにはまず、正しい洗い方・乾かし方を実践することだ。以下のポイントを参考に、まとまりやすく美しい髪を手に入れよう。

【シャンプー】

Point1 お風呂に入る前にブラシで髪のもつれをとく
髪は濡れると、絡まってダメージしやすくなるため、お風呂に入る前に目の粗いブラシやクシでもつれをほどいておく。

Point2 泡が立ってから髪に指を通して絡まりをとく
順番は、まず頭皮・地肌からしっかり洗っていく。泡が立ったら、髪に指を通して絡まりをときながら洗う。濡れた髪は傷みやすいが、泡が立った状態なら泡が髪の毛を守ってくれる。絡まりがとけた状態でしっかりとすすぐ。こうすることで、絡まりのない状態でコンディショナーに進むことができる。もし、泡が十分に立っていても絡まるようなら、髪が傷んでしまうので無理にはとかない。コンディショナーをつけた後に、絡まりをとくように意識する。

【コンディショナー】

Point3 毛流れを整えながらまんべんなくつける
コンディショナーもトリートメントも髪の状態を良くするものなので、頭皮ではなく髪につける。耳から下の髪につけるイメージで塗布した後、髪全体になじませ、手グシで毛流れを整えながら髪全体にまんべんなく行き渡らせるのがポイント。なじませた後は、頭皮からすすぎ始め、髪は指を通しながらぬるついた部分がないように十分にすすぐ。すすぎ足りないとケア成分が必要以上に残ってしまったり、部分的に多量に残りベタつきの原因や指通りの妨げになるのですすぎも丁寧に。

【ドライ】

Point4 根元からしっかり乾かす
タオルドライ後に、目の粗いクシを通して髪の毛の絡まりをとっておく。指を軽く通してからドライヤーをかける。根元から乾かすことがキレイな仕上がりのポイント。髪の間に指を入れ小刻みに動かしながら温風を入れるようにして乾かそう。髪の重なりの多い後頭部や耳上あたりの根元も忘れずに。根元全体が乾いたら、毛流れを揃えるように根元から毛先に向かってドライヤーの風を送り、毛指で形を整えるように毛先までしっかり乾かす。この時、「ドライヤーの風を頭の上から髪にあてる」、「形が整うように指で髪を軽くひっぱる」を意識するとよい。また、冷風をあてると、乾いているかどうかがわかり易いので、最後に冷風にして乾いていることを確認。

【アウトバストリートメント】

せっかく毛流れをキレイに整えた後に、水分量の多いトリートメント剤をつけるとセットが崩れてしまい、うねりやクセが出やすくなる。乾いた髪につけるヘアケア剤は、水分を含まないヘアオイルを選ぼう。また、つけすぎはベタつきや毛流れの悪さに繋がってしまう。髪1本1本に行き渡るように少しずつオイルを足しなじませていくのがポイントだ。

今回、渡邊さんら研究チームは、ある水溶性のシリコーン潤滑剤が濡れた状態の髪と髪の摩擦を大きく低下させることを発見した。技術の力で濡れた髪の付着力を軽減し、絡まないように洗える可能性が見出されたのだ。

「この技術を搭載したプロトタイプのシャンプーで洗うと、シャンプーからドライまでの間に生じやすい絡まりを大幅に低減できることを確認できました。私たちは毛揃いをはじめとするいろいろな美髪を実現するための研究を進めています。誰もがうるおった美しい髪を実感でき、自分の髪に自信をもてるような体験を提供していきたいですね」と渡邊さんは語った。

花王 【特集 美髪】BIPAの絡まり抑制効果

  • 図5:水溶性シリコーン潤滑剤BIPA(ビスイソブチルPEG-14/アモジメチコン コポリマー)による絡まり抑制


くせ毛が生じる理由と緩和させる技術を詳しく知りたい方は「くせ毛・ツヤに一石二鳥「毛髪制御は水に学べ」

洗髪時に生じる絡まりとそれを低減させる技術を詳しく知りたい方は「絡まる毛をほぐす“花王史上最強レベル”の水和潤滑剤「BIPA」とは」

渡邊 俊一氏の写真

監修:渡邊 俊一さん
2002年 花王(株)に入社。入社時からヘアケア研究所に所属し、約10年間、毛髪の基礎研究および基盤技術開発を担当。その後、2014年からグループリーダーとして美髪・ダメージケア製品の開発に従事。キレイな髪を実現するための技術・製品開発に日々、奮闘中。

【引用元】
※1. 伊藤隆司・梶浦嘉夫・長瀬 忍:マイクロビーム SAXS による毛髪の微細構造解析とヘアケア製品開発への応用.放射光 2008, 21(2), 80-86.
※2. Nagase, S. Hair structure affecting hair appearance. Cosmetics 2019, 6, 43.

powered by FRaU

Page Top