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【特集:サステナブルファッション】

想像以上に環境負荷が大きいファッション問題。
リサイクル・リユースだけでなく、「長くキレイに着る」ことの必要性

  • 2023/12/22 Text by 及川夕子

FRaU

循環型の持続可能な社会を目指す「サステナブルな暮らし」が注目されている。少しでも良い未来のためにゴミの分別をしたり、マイボトルやエコバックを持ち歩いたりするなど、社会全体で取り組むことも増えてきた。

しかし、まだまだ課題は多く残されている。身近なところでいえば、大量消費される衣類の問題もその1つ。一着の服を作るのに原料調達から製造までの工程でさまざまな環境負荷が伴うことや、衣類のライフサイクルが短くなり大量消費や廃棄が生じることなど、ファッション業界は多くの問題を抱えている。企業も努力を続けているが、課題解決のために生活者側にもできることはたくさんあるはずだ。

衣料用洗剤や衣料用仕上げ剤を数多く開発してきた花王は、“一着の衣類を大切に長く着続ける”ための、洗うだけで衣類のシワを制御する「カタチコントロール技術」を開発したという。今回は、ファッションのサステナビリティに関わる花王の技術に注目し、前後編でお届けする。

前編では、衣料用洗剤や衣料用仕上げ剤の現場で長年開発に携わってきた、花王ハウスホールド研究所の石川晃研究員と、衣服に関する意識調査の結果をもとに私たちが身近にできるアクションについて考えていく。

持続可能なファッションとは?

私たちの生活を彩り、自己表現や気分転換にも役立ってくれる洋服たち。クローゼットの中身を想像してみてほしい。大事に着回すお気に入りの服がある一方で、衝動的に購入し実際にはほとんど着ることがない服もたくさんあるのでは?

まずは私たちが所有する服一着一着に、どんなストーリーがあるのか、サステナブルという面から眺めてみよう。

「サステナブルファション」とは、衣類の生産から着用、廃棄に至るプロセスにおいて、将来にわたり持続可能であることを目指し、生態系を含む地球環境や関わる人・社会に配慮した取り組みのこと。ちなみに、最近よく聞く「エシカル(道徳的・倫理的)ファッション」とは、環境だけでなく、働く人の労働問題や人権にも配慮してつくられたファッションのことをいう。

環境に与える負荷が大きい。ファッション業界が抱える悩み

前述したように、数ある産業の中でもアパレルファッション産業は、製造過程において環境負荷が非常に大きいという課題を抱えている。環境省によると、一着の服を作るのにCO2は約25.5kg排出され、水は約2300Lも消費されている(※1)。

服を作るにはボタン、ファスナー、生地などさまざまな素材やパーツが必要になる。服の生産段階はいくつもあるし、工場の拠点は海外にあることも多く生産の実態が見えにくい。そのため私たちはファッションによる環境負荷が大きいことを実感しにくく、対策を取りにくいという問題も生じている。

低価格化によって服のライフサイクルが短くなっている

また近年は服一着の価格が安くなり、トレンドのファッションをより気軽に楽しめるようになった。そうした背景から服一着あたりのライフサイクルが短くなり、服の供給量が拡大している現実がある。これからの未来もファッションを楽しめるように「1年間に1回も着られていない服が1人あたり35 着もある」(※1)という現状にも目を向けて、意識的に改善していく必要があるだろう。

捨てられた服の多くはゴミになり環境負荷が生じている

捨てられる服の量も深刻だ。国内でゴミに出される衣服は年間約47万t。1日あたりにすると大型トラック120台分の服が焼却・埋め立てされている(※1)

一日あたりに焼却・埋め立てされる衣服の総量は平均で1,200tで、大型トラックに換算すると120台分。

  • 図1. 捨てられた衣服の焼却・埋め立てられる総量(出典:環境省_サステナブルファッション https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/「循環型モデルで廃棄のない世の中へ」2023年11月1日記載内容より改変。画像提供:iStock)

「環境省の調査によると服がゴミとして出された場合、再資源化される割合はわずか5%。多くの衣服はそのまま焼却されるか埋め立て処分されています。一部の自治体やメーカーは服のリサイクルやリユースに取り組んでいるものの、再活用される衣服はまだまだ少ない。サステナブルファッションへの関心は高まっていると思いますが、具体的なアクションを取る人も少ないのが現状です」と花王研究員の石川晃さんは言う。

可燃・不燃ごみに出される衣服の総量は年間で470,000t。再資源化される割合は5%程で、 ほとんどはそのまま焼却・埋め立て処分され、その量は年間で445,000tになる。

  • 図2. ごみに出される衣服の総量とその後の処理(出典:環境省_サステナブルファッション https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/「循環型モデルで廃棄のない世の中へ」2023年11月1日記載内容より改変。画像提供:iStock)

一着を長く着るという発想で環境負荷を抑えられる

ファッションをサステナブルにするためのアクションには、どのようなものがあるだろう。最近では、廃棄を少なくするために必要な分だけ作るという受注生産に切り替えるファッションブランドも増えてきた。生活者個人としてはそうした企業の服を選ぶという方法が1つ。ほかにも環境負荷の少ない素材の洋服を選ぶ、リペアを活用して長く着る、リサイクルする、リユース・古着を購入する、時々しか着ない礼服などはレンタルにする、家族で服をシェアするといったことがあげられる。

環境省のサイトの中で着目したいのは、「いま持っている服を長く大切に着る」ことだ。一着を1年長く着るだけで、日本全体として3万t以上の廃棄量の削減につながるという(※1)。リサイクルやリユースは思い浮かんでも、この発想はなかった!と驚いた人も多いのではないだろうか。

原料調達から製造、輸送、販売、利用、回収までの衣類の循環型モデル。これを実現するには、企業と生活者双方のアクションが不可欠。一着を長く着ることは、廃棄削減に繋がる生活者として取り組めるアクション。

  • 図3. 衣類のライフサイクルとサステナブルな取り組み (出典:環境省_サステナブルファッション https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/「循環型モデルで廃棄のない世の中へ」2023年11月1日記載内容より改変。画像提供:iStock)

ではどんな方法なら、服を大事に長く着られるのか。
花王が全国20代〜50代の男女1000人を対象に「衣服に関する実態調査」(※2、※3)を行ったところ、意外な結果が見られたという。

「服は手放すまでに何年着続ける?衣服に関する意識・実態調査」
https://www.kao.co.jp/igokochi/data1/
「服を着なくなる/処分する理由を調査。大好きな服はあまり気ないようにしている?」
https://www.kao.co.jp/igokochi/data2/

当初、デザインが流行に合わないとか、どんどん服を購入していくことによって使わなくなった服を捨ててしまうというパターンが一般的だろうと考えていた。

「細かく調査を見ていくと、確かにファッショナブルさを重視してどんどん服を捨てている方もいて、服の選び方や扱い方には多様性があるなあと感じました。ただ、お気に入りの服については『長く着たい』と思っている人が多く、傷みやダメージから希望の年数よりも早く処分していることもわかりました。ずっと着たいと思う服は『着心地がよくリラックスできる』『着る回数が多い』『色やデザインがよく自分自身が楽しく感じる』服といった声が上位を占めており、その人自身の特別な思い入れが反映されているようです」と石川さんは言う。

服の平均年齢と理想年齢にはギャップが

調査によると、衣服の購入から着なくなったり処分するまでの“平均年齢”は4.9年。対して、ずっと着たい服があって着続けたい服の理想年齢は平均6.3年という結果に。また、『この先何年でも着続けたい一着がある』と答えた人は全体の6割を超え、その枚数は平均3〜5枚だった。

「服の平均年齢に対して理想年齢はプラス1.4年。つまり、お気に入りの服は実際にはもっと長く持っていたかったのに、捨てざるを得ない理由があって手放したという人が多いのです。服を着なくなる/処分する理由としては、衣類の形が崩れたり、破れたりといった損傷があって着なくなる。あるいは汚れが目立つようになって着なくなるという意見が上位を占めました。服を手放す大きな原因にダメージがあることに着目しました。その点を花王の技術で解消できたら、お気に入りをより長く着るというサステナブルな暮らしに十分貢献出来ると思いました」

服の平均年齢は4.9年、一方、理想年齢の平均は6.3年とギャップがある。 服を着なくなる/処分する主な理由は、型崩れや破れ等の損傷によるものが74.8%、シミなどの汚れが68.1%と多かった。

長く着たいからあえて着ない、洗濯しないという矛盾

さらに調査を進めていくと『大好きな服ほどあえて着ない』という矛盾も見えてきた。

「皆さんも経験があると思いますが、洗濯をするとシワができたり、袖口や裾がよれたりすることはあって、確かに購入時のようにキレイな状態ではなくなります。ニットなどでは洗濯で縮んだり首回りが伸びたりして素敵に着ることができないといった悩みも出やすいでしょう。そうした背景から『ずっと着たいから長く保つためにあえて着ないようにしている服がある』と答えた人は4割近くになりました。この傾向は若い世代ほど強いこともわかりました」

洗濯によってシワやヨレが生じる衣類の写真例(大きな折れシワ、細かい凹凸シワ、レースめくれとシワ)。 本当は着たいのにずっと着たいから着ないようにしている服がある、との回答は38.9%。

“カタチコントロール技術”でサステナブルにファッションを楽しもう

そこで浮上してきたのが、花王にもともとあった衣類仕上げの技術。

「花王は衣類に生じるシワの原因と制御の研究に長い歴史があります。我々は『カタチコントロール技術』と呼んでいますが、これを洗剤や仕上げ剤に組み込むと、普通なら繰り返しの洗濯で蓄積されていくシワやヨレ、型崩れを抑えて、服の寿命を長くすることができるのです」

シワやヨレは、アイロンやスチームをかけることでも修復できるが、わざわざアイロンをかけるのは面倒と感じる人もいるだろう。本来は洗えるものもクリーニングに出したり、結局ケアするのが面倒になりクローゼットにしまい込んだままになってしまったりということも多くある。「洗うだけなら自分にもできる!」と歓迎する人は多いのではないだろうか。

「もう衣類ダメージを諦めなくていい。お気に入りの服こそ何度も楽しみながら長く着ていただきたいです。あえて着ない・洗わないから、『ケアするために洗う』という発想に切り替えていただけたら。サステナブルファッションの選択肢がぐっと広がるのではないかと期待しています」

石川さんら研究チームは、問題解決の糸口をどこに見出したのか? ユーザーが「吊るして乾かしただけなのにシワにならない」と感想を漏らした驚きの『カタチコントロール技術』とは? その全貌については続く後編で明らかに!

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石川 晃 氏の写真

  • 石川 晃(いしかわ あきら) ハウスホールド研究所 主席研究員。1991年 花王(株)に入社。ハウスホールド研究所において、衣料用洗剤(粉末・液体、塗布洗剤)、新衣料用仕上げ剤、布製品用消臭剤、透明柔軟剤などの基礎研究・製品開発に従事。ハウスホールド製品に共通する新技術開発を推進。

【参考文献】

※1/出典:環境省_サステナブルファッション
https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/

※2/花王 #これからもずっと着たい服「服は手放すまでに何年着続ける?衣服に関する意識・実態調査」
https://www.kao.co.jp/igokochi/data1/

※3/花王 #これからもずっと着たい服「服を着なくなる/処分する理由を調査。大好きな服はあまり気ないようにしている?
https://www.kao.co.jp/igokochi/data2/

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