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  • #美容・健康 #界面科学 #洗う #ボディ洗浄 #界面活性剤

【特集:泡】

冬だからこそ知っておきたい
体を優しく洗う「泡の3つの賢さ」

  • 2020/02/05  Text by 及川夕子

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日本人の生活に欠かせないお風呂文化。とりわけ寒い季節のお風呂の気持ち良さは格別だ。しかし、冬には入浴後「肌がカサつきやすい」と感じる人も少なくない。

肌を優しく洗いたい。そんな思いに応えるため、顔洗顔同様、ボディ洗浄剤などの泡も時代とともに進化を続けてきた。今回注目したのは、体を洗うときに「汚れを吸い取る」「肌に洗浄成分の負担がかかりにくい」「汚れを味方につけて洗う」という、泡が持つ3つの新しい機能だ。洗い心地や泡切れ、洗浄力はどのように変わってきたのか。泡と皮脂汚れの関係に着目して研究を積み重ねてきた、花王マテリアルサイエンス研究所・坂井隆也主席研究員に聞いた。

日本のお風呂文化に合う全身洗浄とは

日本人は、世界でも類を見ないお風呂好きだと言われる。最近ではシャワー派も増えてきたが、健康のため美容のためと、バスタブに浸かる人は多い。さらに、“体を洗う”というプロセスでも「日本人はとても泡が好きです」と話すのは、30年にわたって洗浄と泡を研究してきた、花王マテリアルサイエンス研究所・坂井隆也主席研究員だ。

坂井さん曰く、欧米ではバスバブルを除けば、日本のようにはたくさん泡立たないジェル状のソープや油成分で出来ているシャワーオイルを使うのが一般的だという。さらに、手を使ってなでるように洗い、その後シャワーで流して終了、が一連の流れだ。これはヨーロッパの水が硬水で、洗浄剤が泡立ちにくいという事情も影響している。また、洗い上がりの質感としても、肌にしっとり残るようなぬるぬるっとした感触のものが好まれる傾向があるという。

一方、日本はバスタブに湯をためる入浴文化がある。そして、体を洗う場面では、シャンプー、ボディ洗浄、顔洗浄など、どの場面をとっても、“泡を立てて洗う”スタイルが定着している。

「泡質にもよく泡立つ泡、すぐに消える泡、長持ちする泡など様々なものがありますが、肌にのせる面積が大きい全身洗浄の場合、好まれるのは、ふんわりとしたここちよい泡です」と坂井さん。

こうした背景もあり、日本の全身洗浄は「ここちよい泡」の追求として発展してきた。そして花王では、日本人が好きなテイストを追求しつつ、さらに肌により優しい洗浄剤へと驚きの技術進化を実現させてきたのだ。

長年の課題だった洗浄力と肌への優しさの両立

汚れを落とすことは、肌ケアの基本だ。汗や皮脂が肌に長時間残っていると、肌への負担となってしまう。大切な潤いは残して肌のバリア機能を守りつつ、毎日の汚れを落としてあげることが、洗浄料の大切な役割ということになる。

しかし実際には、洗浄力と肌への優しさの両立は、研究者たちの長年の課題だった。一般的な常識として、強力な洗浄成分(界面活性剤)を選ぶと、肌への刺激も強くなる。逆に、肌への刺激が低い洗浄成分だと洗浄力がイマイチ、というように、互いに対局になり、どちらを選んでも一長一短の状態だったのだ。

発見その1「繊細な泡が汚れを吸い取る」

ひとつめの発見として、泡の形状を変えることで、洗浄力が変化することがわかった。クリーミーで濃密な泡を作ると、そこに空気がたっぷりと含まれる。空気をどれだけ含んでいるかという気相率が84%を境に、泡は球形から多角形の気泡へと変化し始めるのだ。

「しっかりと泡立てられた泡は、気泡の形が多角形に変化するのです。泡には丸い形に戻ろうとする性質があります。それにより、多角形の泡では、丸い形に戻ろうとして液体(油)を吸い込む現象が起こります。この仕組みを生かすことで、洗浄力の強い洗浄成分を使わなくても、泡を変えることで、汚れ落ちをあげることが可能になったのです」
従来は洗浄力とは直接関係ないと思われていた泡。その常識が覆ったのだ。

  • きめ細かい泡が汚れを吸収する。

発見その2「泡が肌への負担を減らす」

従来の泡のメリットといえば、肌への摩擦を減らせる、感触が心地いい、安心感がある、などだった。しかし、坂井さんらは、さらに一方進み、“洗浄成分を肌にできるだけ触れさせない泡”を作り出したのだ。

「今までの泡は、肌の上にのせると中から洗浄成分(界面活性剤)が流れ出て、肌表面の角層に収着(吸収+浸透)していました。もちろん、安全性は考えられていましたが、肌への優しさを追求するならば、吸着する量はできるだけ減らしたいですよね。それを解決したのも、先ほどその1で紹介した“濃密泡”だったのです。汚れを吸い取るときの吸引力が同じように働くので、洗浄成分が流れ出にくくなるんです。」

この仕組みを活用すれば、洗浄成分自体を変えなくても、泡質を変えることでボディ洗浄を肌により優しくすることができる。濃密な泡は、油汚れを吸い込むだけでなく、泡の形状を保ったまま洗浄成分を抱き込むという、スゴイ機能を持っていたのだ。

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  • 泡からの排液量と肌への界面活性剤の収着量を、泡質を変えて確かめた。きめ細かい濃密泡ほど、排液が少なく、肌に収着する界面活性剤の量も少なくなっている。

発見その3「汚れを味方につけて洗う」

さらに、新たな界面活性剤の開発で、洗い方にも革命が生まれたという。

「皮脂汚れは、液体脂の中に塊状の固体脂が埋め込まれるように混ざったもので、この固体脂こそが、こすらないと落ちない「強敵」です。私たちは強敵に正面から立ち向かうのではなく、発想を変えて、液体脂の方にくっつきやすい(液体脂にそっくりな)、ある界面活性剤をつくりました。するとこれが、狙い通りに液体脂と混ざり合って、「ラメラ液晶」という水で壊れやすい特殊な構造を形成したんです。すすぎ時にかかる程度の力で、この構造は簡単に崩れます。そしてその時に、頑固だった固体脂までも一緒に流し去ることができるのです。」

実は、この界面活性剤は「アルキルエーテルカルボキシレート(EC)」という名前で、実は昔から利用されている低刺激の界面活性剤だったと坂井さん。その分子構造を改良することで、新しい界面活性剤に生まれ変わったということらしい。この新しい界面活性剤を使うとを使うと、もともとは汚れであるはずの液体脂を味方につけて汚れを落とす…? なんとも不思議な現象だが、下の動画を見て欲しい。本当に汚れがスーッと落ちているではないか!

  • Cの洗浄性を実証した実験。洗浄剤が通った部分だけ、汚れが落ちて白くなっている。

洗浄力には直接関係しないと考えられていた「泡」に関わるこれら3つの発見のおかげで、「できることが大きく広がった」と坂井氏は言う。

洗顔や入浴など、目にする機会は多いのに、あまり着目せずすぐに流される宿命ある泡。しかし、その泡ひとつひとつに、さまざまな新しい技術が詰まっているのだ。手にとったとき、そんなこともぜひ思い出してみてほしい。

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監修:坂井隆也さん
花王 マテリアルサイエンス研究所 主席研究員。工学博士。入社以来、界面活性剤と泡を専門に研究。花王史上最高の洗浄基剤」と称して2019年1月に発表した「バイオIOS」の開発にも携わった。

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