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  • #美容・健康 #界面科学 #洗う #洗顔 #界面活性剤

【特集:泡】

「泡立て洗顔」が大切な「本当の」理由
~「泡が皮脂を吸い取る」? その意味は?~

洗顔の定説を科学で探る!

  • 2019/12/11  Text by 及川夕子

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泡は「エンタテインメント」!?

泡といえば正しい洗顔法のひとつとして、「洗顔料は泡立てて使う」――というのが長らく定説となっている。では泡を立てれば立てるほど、洗浄力も高まるのだろうか?

30年にわたって洗浄と泡を研究してきた花王(株)マテリアルサイエンス研究所・坂井隆也主席研究員によると「いいえ、学術的には、泡立ちと洗浄力は直接関係ないというのが長い間の常識だったんですよ」という、思いがけない答えが返ってきた。

「世の中にある洗浄剤を比較すると、たとえば洗浄力が高い衣料用洗剤は、それほど泡が立ちません。ですが、泡とは関係なく汚れはしっかり落ちるのです。じゃあ泡は何に役立つのかというと、まず、肌に負担がない(摩擦が少ない)、気持ちいい、優しい感じ、安心感といった“洗浄実感”を演出するエンタテイメントツールの側面が大きいんです」

坂井 隆也氏の写真

  • 花王(株)マテリアルサイエンス研究所・坂井隆也主席研究員

泡は目的にあわせてデザインされていた!

泡立てる主な役割は、使うときの気持ち良さのためだったなんて! とはいえ、確かにフワフワの泡は感触としてとても心地いい。365日欠かせない洗顔だからこそ、この快適さは欠かせない。しかし、ということは結局、どんな泡を立てようが、個人の好みでよいということになってしまうのだろうか?

「泡の様々な研究により、そういう考えを覆す発見をしてきました。詳細は後で説明しますが、泡の技術は進化を続けていて、いろいろな機能を持ち、それに合わせて使用用途を変えることができます。泡の質は、デザインすることが可能なのです。例えば、シャンプーはすばやくたくさん泡立ちますし、食器洗剤は水ですすぐと切れがいい泡、長時間髪に定着してほしいヘアカラーは割れにくく持ちのいい泡と、使用目的で泡のデザインを変えているのです」(坂井氏)

界面活性剤のバランスで様々に変わる泡

確かに、10年以上前は今ほど泡立ちのバリエーションはなかったように思う。洗顔料だけにフォーカスしてみても、泡立ちのよさ、きめ細かさ、弾力感など、好みで選ぶことが可能になっている。さらに、直接泡が出てくるポンプ式ボトルも登場し、泡立ちそのものにこだわった商品も増えてきている。

「また、泡のデザインに欠かせないのが界面活性剤です。分子構造を変えてみたり、混合する界面活性剤の種類やその配合比率、濃度を変えることで、さまざまな泡質を作ることができます。」(坂井氏)

なるほど。泡は、単に、泡立ちが良い・悪いではなく、使う人のニーズに合う機能を付加して進化し続けていた。洗剤や洗顔料は、製品の段階で、最適な泡が作れるように設計されていたのである。

花王 【特集 泡】 泡ってふしぎ 「いつも何気なく触れているけど、泡には不思議と工夫がいっぱい」

  • 泡は洗顔において重要な要素。肌への摩擦低減のほか、心地よさ、肌への安心感、洗浄実感、泡切れなどが使用場面にあわせて設計されている。

「優しく洗ってしっかり落とす」は実はとても難しい

こうして泡のデザインは多様化してきたが、一方で私たち消費者は、あくまでも汚れはしっかり落とし、かつ肌には優しいというものを洗顔料に求めて続けてきた。今までの界面活性剤の常識的な考え方でいえば、「洗浄力が強い=刺激が強い」、「肌にやさしい=洗浄力がイマイチ」というものだった。

「界面活性剤と一言でいっても肌への刺激が低いもの、洗浄力が強いものなど、種類はさまざまあり、刺激が低いものを選ぶことは可能です。ただ、実際問題として、汚れ落ちと肌への作用は、トレードオフの関係にあって、『優しく洗ってしっかり落とす』という機能の両立は研究者の永遠の課題なのです」(坂井氏)

この永遠の課題である、“洗浄性と肌へのやさしさ”。対極にあるジレンマを解消すべく、坂井さんたちの研究グループは、さらなる研究を進めていた。その突破口となったのが、やはり「泡」の存在だった。

発見!何もしなくても泡が油を吸い取る!?

「洗顔料やボディ洗浄料の調製は、洗浄成分(界面活性剤)の選択や溶液構造の制御によって行われてきました。私たちはさらに、従来は洗浄力とは直接関係しないと考えられていた「泡」に着目した研究を重ねたのです。

その結果、高密度泡なら、何もしなくても勝手に油を吸引するという新機能を発見したのです。つまり、洗顔料の泡を、粗い泡からきめ細かい泡質に変えることで、洗浄性を高めることができることがわかったのです」(坂井氏)

きめ細かく泡立てた泡と液体油との接触の様子

花王 【特集 泡】 油を吸う泡

  • 実験では、同じ種類の界面活性剤水溶液から調製し、泡立て時間の異なる泡を液状の油と接触させて比較。きめ細かく泡立てた泡に油を接触させると、泡が自発的に油を吸い込む様子が観察された。

ポイントは、“84%超の高密度な泡”

坂井氏は興奮気味に続ける。
「実験の結果、油の吸引は、粗い泡では生じず、しっかりと泡立てられたきめ細かい高密度泡特有の現象であることがわかりました。しかも、粗い泡では形状が球形だったのに対し、きめ細かい泡では気泡の形が多角形に変化していることも発見しました。泡には丸い形に戻ろうとする性質があります。これによって、多角形の泡では、丸い形に戻ろうとして液体(油)を吸い込む現象が起こるのです。クリーミーで高密度な泡には空気がたっぷりと含まれますが、気相率にして84%を境に多角形な気泡へと変化します。この数字が重要です」

キメの細かい泡はぎゅうぎゅうに詰まった多角形の形をしている。泡にはまん丸の球体に戻ろうとするので汚れの吸引力が発生する。

  • きめ細かい泡では気相率にして84%を境に多角形な気泡へと変化する。

泡の密度と洗浄率の関係を調べると、高密度なキメの細かい泡ほど洗浄率が高くなることが確かめられた。

  • 高密度な泡ほど油の洗浄率も高くなる。

高密度な泡ほど肌への作用も少ない

さらに、高密度な泡がもたらすメリットはもうひとつある。
「肌への刺激が低い洗浄成分(界面活性剤)はあります。ですがそれでも皮膚への接触はできるだけ減らしたいと考える方は多い。洗浄成分(界面活性剤)は泡と泡の間(水相)に保持されています。きめ細かく高密度な方が、たくさんある泡と泡の間に洗浄成分を保持して流れ出るのを抑えることができます。つまり、きめ細かい泡はその分、肌への作用が優しいということです。こうして泡の研究から、『優しく洗ってしっかり落とす』という機能を高い次元で両立するメカニズムを発見したのです。泡を変えるだけでこんなに変わるよという、とても新しい発想です」(坂井氏)

ちなみに、毎日の洗顔では、泡立てネットで、十分水や空気を含ませて泡立てると84%超の高密度な泡に近づくという。自分で作るのが難しいという人は、高密度のポンプ式タイプの洗顔剤をチョイスするのもいいだろう。

「洗顔料はしっかり泡立てて使う」という定説には、しっかりとした科学的根拠があったのだ。その事実を知ることで、きっと毎日の泡立て洗顔にも愛着が持てるはずだ。

坂井 隆也氏の写真

監修:坂井隆也さん
花王 マテリアルサイエンス研究所 主席研究員。工学博士。入社以来、界面活性剤と泡を専門に研究。花王史上最高の洗浄基剤」と称して2019年1月に発表した「バイオIOS」の開発にも携わった。

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