用語説明

3-MCPD(3-モノクロロプロパンジオール)とは

構造

グリセリンとよく似た構造をしており、アルコール基が1つ塩素に置き換わった構造をしています。

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どのようにして生成し、何に含まれるか

調味料の原料であるアミノ酸液を製造する際に、意図せず副産物として少量生成する化学物質です。
主にアミノ酸液を使用している食品に含まれる可能性があるとされ、3-MCPDが含まれる食品については農林水産省のホームページ(http://www.maff.go.jp/j/press/2006/20060619press_2.html)で公開されています。

3-MCPDの規制

日本:基準値は設定されていません。
EU(ヨーロッパ連合):0.002mg/kg体重(乾物ベース)(醤油、酸加水分解物植物性タンパク)
CODEX(国際食品規格委員会):0.4mg/kg体重(基準案)

3-MCPDによる健康に対する影響

長期間にわたって毎日大量に摂り続けた場合には、健康に悪影響が発生してしまう可能性があるため、食品に高濃度に含まれるのは好ましくないと言われていますが、食品由来の3-MCPDが原因と考えられるヒトの健康に悪影響が生じた事例は報告されていません。
ラットに長期間にわたって多量に食べさせ続けた場合に、腎臓への悪影響(腎臓尿細管の過形成)や他の複数の臓器に良性腫瘍の形成がみられました。しかし、発がん性(悪性腫瘍形成の有意な増加)は認められませんでした。

3-MCPD(3-モノクロロプロパンジオール)脂肪酸エステルとは

構造

3-MCPDに脂肪酸がエステル結合した構造をしています。

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どのようにして生成し、何に含まれるか

詳細な生成過程は不明です。
2007年頃からドイツを中心に食品中の3-MCPD脂肪酸エステルが確認され、精製植物油、マーガリン、バター、ナッツのソース、乳幼児用ミルクなどに含有することが確認されました。

3-MCPD脂肪酸エステルの規制

3-MCPD脂肪酸エステルに関する規制はありません。

3-MCPD脂肪酸エステルによる健康に対する影響

報告されていません。しかし、乳幼児用ミルクなど3-MCPD脂肪酸エステルから3-MCPDが遊離した場合に3-MCPDの摂取量が多くなることが懸念され、CODEX(国際食品規格委員会)においてリスク評価に必要なデータを収集中です。

ハザードとリスクについて

グリシドール脂肪酸エステルに関するリスク評価を説明するために、最初に国際がん研究機関(IARC)で評価されているヒトに対する発ガン性の「ハザード評価」について、次に、欧州食品安全機関(EFSA)により、10%発がん率の信頼下限値(BMDL10)とヒト暴露量との比として算出する暴露マージン(MoE)を用いたリスク評価の意味について説明します。

科学的リスク評価において、「ハザード」と「リスク」は異なる概念です。
「ハザード」は、有害影響を生じる物質(または状況)固有の潜在的性質です。IARCでは「発がん性の強さ」を評価しているのではなく、「発がん性の根拠の確からしさ」すなわち、「ハザード評価」を行っています。

一方、「リスク」は、特定の条件下で物質(または状況)に暴露した時の有害影響を生じる確率です。したがって“暴露”が両者の違いであり、「ハザード」に暴露した場合に「リスク」が生じます。例えば、アルコールは、IARC評価で「ヒトに対して発がん性がある」と評価されているハザードです。アルコールの多量摂取、すなわち暴露によって肝臓がんを誘引する、つまりリスクとなりますが、適量は逆に生活習慣病予防によいとされており、その摂取量(暴露量)でヒトに対する作用は異なります。
また、発がんを伴う物質の評価は、その発がんメカニズムが遺伝子傷害性によるものかどうかで異なります。
<遺伝子傷害性がない場合>
遺伝子変異をもたらすわけではないので閾値が設定できます。無毒性量(NOAEL)や無影響量(NOEL)が設定できるものについては耐容一日摂取量(TDI)などを設定します。
<遺伝子傷害性がある場合>
暴露量がたとえどんなに少量だとしても遺伝子の変異が生ずる可能性が考えられるため閾値は設定できません。しかし、近年では、がん発生の仕組みが一部明らかになってきていることや、ある種の発がん性を示す物質でも非常にわずかな量ではがんを発症しないこと、微量な遺伝子の損傷は修復されることなどが明らかとなり、物質によっては閾値を設定できるという考え方になってきています。そのため、現在では、遺伝毒性発がん物質に対する定量的なリスク評価の手法の1つとして、2005年より、国連食糧農業機関(FAO)および世界保健機構(WHO)の合同食品添加物専門家会議(JECFA)や欧州食品安全機関(EFSA)により、10%発がん率の信頼下限値(BMDL10)とヒト暴露量との比として暴露マージン(MoE)を算出する評価法が、汚染物質に限定して採用されています。

暴露マージン(MoE)とジアシルグリセロール油(エコナクッキングオイル)のMoEの算出

2005年より、FAO国連食糧農業機関およびWHO世界保健機構の合同食品添加物専門家会議(JECFA)や欧州食品安全機関(EFSA)により、遺伝毒性発がん物質に対する定量的なリスク評価の手法の1つとして、10%発がん率の信頼下限値(BMDL10)とヒト暴露量との比として暴露マージン(MoE)を算出する評価法が、汚染物質に限定して採用されています。

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MoE算定にBMDL10 を活用する場合の不確実係数積(UFs)の考え方は、

「種差」×「個人差」×「発がん過程の不確実性」×「小さいスケールの測定可能データに基づくことによる不確実性」
=10×10×10×10=10,000 (10-5 リスクの信頼下限値に相当)

とされており、一般にMoEが10,000を超えると健康影響の懸念は低く、リスク管理措置の優先度も低いとされています。数値が低くなればリスク管理措置の優先度は高くなります。

ここで用いられているBMDL10 は、発がん実験結果を基にした発がん率の信頼下限値(BMDL)から求めますが、BMDLは、複数のげっ歯類の発がん性試験のデータをもとに用量-反応曲線、及びその信頼限界(通常95%)の上限・下限曲線を描いて、この用量-反応曲線で5%や10%の応答(有害影響)がでる暴露量の下限側信頼限界値を用い、BMDLとします。JECFAでは、最小応答量10%を推奨しており、その値がBMDL10 となります。

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また、EFSA Scientific Committee (2005)による評価法では、発がん試験の試験用量数が少ない場合には、BMDL10 算出のための用量反応曲線の信頼性が低いため、直線外挿に基づく25%腫瘍誘発用量(T25値)をMoE算定に活用してよい、とされており、その際はUFs値に2.5を掛けて計算をします。

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