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【特集:数理科学】

「何をやっても面白い」研究者が数理科学で花王のものづくりを支えていた!

化粧品から生活用品、そして世界を驚かせた水滴まで。

  • 2020/09/02  Text by Rikejo編集部

Rikejo

「化粧品開発の仕事をするには、どんな勉強をすればいいですか?」

これはRikejoのQ&Aコーナーに中高生のみなさんから寄せられる、定番の質問です。人気の高い化粧品や生活用品の研究開発で、化学や生物の知識が重要になることは、誰もがイメージする通りでしょう。

ところが、花王の研究開発部門には「数理解析グループ」が存在し、理論物理や数理科学の発想を駆使して、化粧品や生活用品のものづくりを支えているといいます。いったい、そこではどんな研究が行われているのでしょう?

「理論物理の美しさに感動した」学生時代

今回、取材に協力してくれたのは、花王株式会社研究開発部門シニアパートナーで、数理解析グループの元グループリーダー・恩田智彦さん。大学では工学部物理工学科に在籍していたそうです。

「博士論文のテーマは『半導体レーザー材料の熱力学物性』でした。固体(半導体)も光(レーザー)も勉強したいと思って半導体レーザーの研究室を選択したんです」

ランダウ・リフシッツの教科書『場の古典論』を読んで、理論物理学の美しさに感動したというバリバリの「数・物系」だった恩田さん。それがなぜ、化粧品や生活用品で日本を代表する企業である花王に入社したのでしょう?

「ある研究会に参加したとき、花王の文理科学研究所(当時)というところでは、数理科学を精力的に研究しようとしていると聞いたのが最初のきっかけだったかもしれません。

入社面談のとき、自分の研究を紹介したあとで、『専門以外の研究にも興味がありますか?』とたずねられ、『何をやっても面白いですから』と答えたんです。博士課程修了者には、自分の専門へのこだわりがとても強い人が多いですから、意外だったようです。その一言のおかげもあってか、無事、採用されて1992年に入社しました」(恩田さん)

けれども、数理科学が生活用品の開発で、どんなふうに役立つのでしょう?
その代表例が、大ヒット商品となったホットアイマスク「めぐりズム」の開発時のエピソードだといいます。

蒸気で目元を温める「めぐりズム」の基本構造は、使い捨てカイロなどと同じ。シートに混ぜ込まれた鉄粉が、水分や空気中の酸素と発熱反応を起こすときの反応熱を利用しています。

このとき、紙のシートに混ぜ込まれた鉄粉の分布が均一になっていないと、発熱に偏りが生じて、心地よくムラのない温かさを実現できません。

下から水とパルプが混ざったドロドロの懸濁液を流し入れると、上の面で塗り広がり、ここで紙すきが行われることになる。流体シミュレーションにより、堰と邪魔板の設計を最適化できた。

  • 図1. 改良前の抄紙装置中の原料の流れ(シミュレーション結果)

「協力してくれた製紙会社の職人さんたちは、普段は均一な厚さの紙を作るという仕事をしている人たちです。パルプと水を混ぜた原料を、抄紙装置(紙すきのための装置)内で偏りなく流し広げるために、『堰』や『邪魔板』というパーツの配置を、経験に基づいてうまく調整しているんですね。

ところが、この商品では紙の中に鉄粉を混ぜようなんていう、非常識なことをお願いしたわけです。すると鉄の重みの影響もあって、なかなか均一に鉄粉を広げることができなかったんですね」(恩田さん)

流体シミュレーションと品質工学の力で問題解決!

実はこのとき、四苦八苦する現場の担当チームの中に、数理解析グループのメンバーの友人が。「どうにかならないだろうか」と相談を受けた数理解析グループの中島武士さんは、流体シミュレーションでこの問題に立ち向かったといいます。

「流体現象は、有名なナビエ・ストークスの方程式など、現象をよく表現する方程式が知られていて、市販の解析ソフトでも高い精度で解析を行うことができます。中島さんたちは、堰や邪魔板の高さや配置に応じて、原料の流れや鉄粉の分布がどのようになるかの流体解析を行いました(図1)。

ただ、それだけだと、『ある条件のとき、鉄粉がどう分布するか』までしかわからず、最適な高さや配置がどれかであるかまで判定することはできません。そこで活用したのが、『品質工学』の考え方です」(恩田さん)

「品質工学」とは、あまり聞き慣れない言葉ですが、新技術や新製品の開発を効率的に行う方法を考えるための工学的なメソッドのこと。
その中には、「逐一実験すると何百通りも試さなければならない実験と同じ結論に、(条件があえば)たった数回の実験で到達できる」という「直交表」という考え方があるのです。


【直交表や品質工学について詳しく知りたい方は、こちらの記事や参考文献をチェック!→<あの大ヒット商品の裏に『数理科学』あり!>


たとえば、L18直交表と呼ばれる直交表にあてはめると、逐一実験するなら4374通りの実験をしなければならない場面でも、たった18回の実験で最適条件を割り出せる可能性があるといいます。

「こうした計算の結果、最適と思われる堰や邪魔板の高さや配置を割り出し(図2)、製紙会社に持っていきました。そして現場で1、2回の調整をしただけで、きれいに鉄粉を広げることができたのです」(恩田さん)

数理科学の力が、商品開発をいっきに加速させた瞬間でした!

流体シミュレーションによる最適化で、シート全体に均一に鉄粉を分布させられるようになった。

  • 図2. 改良後の抄紙装置中の原料の流れ。全体が均一になっていることがわかる

こうした流体シミュレーションは、他にもノズルから吐出された泡(キャラクター泡)の形状設計、サニタリー商品の中に含まれる吸収体中の液体の浸透解析、撹拌槽中での原料混合の効率化などにも活躍しているといいます。

恩田さんの後輩にあたる、数理解析グループ・現グループリーダーの塩見浩之さんは、こう話してくれました。

「花王の研究開発部門では、いろいろな研究分野のグループが、ひとつの広いフロアで一緒に仕事をしていることが多いんです。たとえば東京・墨田の研究所では、化粧品開発のグループと数理解析グループが同じフロアにいますし、栃木の研究所では、『めぐリズム』やサニタリー製品の開発グループと数理解析グループが一緒にいます。

それこそ、歩いて数歩の距離のところで、異なる分野の人々が一緒に研究しているので、ふらりと現れて、『ちょっとこれはどう考えたらいいだろう』と相談することから、本格的な研究開発が始まることもあります。

それに、私の目から見ると、複雑でわかりにくい現象に出会ったとき、『恩田さんのところに相談しにいってごらん』と研究員に勧めている上司も、各分野にいるように思います」

化学や生物学の研究者が中心の花王の中でも、数理科学が現象をより深く解き明かす力が信頼を集めているようです。こうした研究分野の垣根を超えた交流が、私たちの生活に役立つ商品の開発を支えているんですね。

「世界で評価された」水滴!

汚れを落とす洗浄剤を作るなら、人間の皮膚や衣類などと汚れとの界面にどう働きかけるかを考える必要がありますよね。肌になじむメイク、泡で出てくるハンドソープ、すぐに液体を吸収するおむつ……、花王が扱う商品を考えたとき、「界面」という言葉はいろいろな場面に出てきます。

数理科学で商品開発を支える数理解析グループの恩田さんの周りでも、「界面」の話題はよく現れるそうですが、そんな中、ちょっと珍しい界面を扱ったことがあったといいます。

「27年ほど前、『フラクタル』や『カオス』という数学の概念を物理・化学の世界に応用することが流行りだしていました。そんな中で、『フラクタル構造の表面は水に濡れるか、濡れないか』という話題が社内で持ち上がったんです」(恩田さん)

「フラクタル」とは、図形のどの一部を切り取っても、その「一部」が全体と相似な形になっているような図形のこと(図3)。

フラクタル図形の例としては、マンデルブロー図形やシェルピンスキーの三角形がよく知られている。

  • (photo by iStock)

フラクタル図形の例としては、マンデルブロー図形やシェルピンスキーの三角形がよく知られている。

  • 図3. 一部を切り取っても全体と相似、という条件を満たす図形の例。左のような図形はフラクタルの提唱者の名を冠して「マンデルブロー図形」、右は「シェルピンスキーの三角形」などとも呼ばれる

自然界でもいろいろな場所に見られ、人間の身体では血管の分岐や腸の内壁、サンゴの枝分かれ、一部のシダの葉の広がりなどがフラクタル構造に近いものとして指摘されています。

もし、フラクタル構造の表面が作れたら、それはどんな性質を示すのだろう──? 恩田さんは興味をひかれ、まだなんの役に立つかはわからない中で、独自の研究をはじめました。

不思議な「フラクタル」の世界

フラクタルは、とてもデコボコの、不思議な形をしているように見えますよね。
でも、フラクタルの不思議は、その見た目だけではありません。その「次元」にも、奇妙な性質があるのです。
たとえば、私たちは普段、「線は1次元、面は2次元、立体は3次元」と考えています。こうした直感的にもわかりやすい「次元」は、みんな整数です。
ところが、たとえば下図のような操作の結果、作ることができる「コッホ曲線」と呼ばれるフラクタル図形の次元は、整数ではなく1.262…という不思議な値をとるのです。

フラクタルの例としてのコッホ曲線。全体を「3分の1」に縮小したミニチュアの自分が、元の自分の中に「4個」含まれるという関係が延々と続いていく。

  • 図4. 「コッホ曲線」と呼ばれるフラクタル図形の一種を作っていく過程

【★ここから次の星記号までは、詳しく知りたい人向け!★】 ※このセクションは、数理科学を詳しく知りたい人向け。読み飛ばしても大丈夫です!

このコッホ曲線を作る作業を、少し読み替えてみましょう。最上段の「1本の線分」から最下段の「コッホ曲線」に至る各ステップでやっている操作は、「元の図形を3分の1のサイズにする」「それを4つ組み合わせる」という作業になっていることがわかるでしょうか?

フラクタル図形には、このように「元の図形を1/aに縮めて、b個組み合わせる」という作業の繰り返しで作ることのできるものがいろいろあります。

ではここで、頭の体操です。 まず、正方形を想像してみましょう。正方形の各辺を1/2に縮めて、小さな正方形を作ります。これを何個組み合わせると、元の正方形と同じになるでしょう? 4個ですね。1/3に縮めたら? 9個です。1/nに縮めると……いつもnの2乗個集める必要があります。

立方体ならどうでしょう? 各辺を1/2にした小さな立方体は、8個集めれば元と同じにできます。1/3にしたら? 27個ですね。1/nに縮めるとnの3乗個が必要です。

正方形は2次元の図形、立方体は3次元の図形だと、私たちが普段習っているユークリッド幾何学では考えます。この「次元」という量Dは、それぞれの単位図形をフラクタル風に考えたときには、「元の図形を1/nに縮めたら、nのD乗個集めれば元の図形になる」という数字として現れることになります。

では、フラクタル図形に戻りましょう。 「元の図形を1/aに縮めて、b個組み合わせると元に戻る」。ユークリッド幾何学でいう「次元」と同じ言い方にするには、「b」のところを「aの○○乗」に直さないといけません。これを実現するには……高校生のみなさんは聞いたことがあるでしょう。「対数」を使います。

対数は、「ある数に対して、別の数を何乗したら、その数になるか」を表したもの。たとえば、「9は3の2乗」ですから、「3を底とした9の対数は2」になります。記号を使って書けば、 log_3⁡9=2 です。 ですから、「bはaの何乗ですか?」という問いに、高校生以上の数学で答えると、先ほどの9をbに、3をaに置き換えてやって「bはaの log_a⁡b 乗、つまり b=a^log_a⁡b  」ということになります。

これを使えば、フラクタル図形は「元の図形を1/aに縮めて、aの log_a⁡b 乗個組み合わせると元に戻る」図形だということができます。先ほどのユークリッド次元の考え方をマネして、この log_a⁡b を「フラクタル次元」と呼びます。フラクタル次元Dは、それぞれのフラクタル図形に対して決まる、その図形の特徴を表した量になります。そして多くの場合一般に、整数ではない値(非整数の値)をとります。

高校生のみなさんは、対数の底の変換公式というものを習ったかもしれません。これを使うと、何か別の底eに対して、次のような式の変形ができます。 D=log_a⁡b=log_e⁡b/log_e⁡a =log⁡b/log⁡a

適当に選んだeはなんでもよい(任意)なので、省略してフラクタル次元を対数の比で書くことができるようになりました。  上で図をご紹介したコッホ曲線は、「元の図形を1/3に縮めて、4倍すると元の図形と同じ」になります。ここから、フラクタル次元はa=3、b=4を当てはめ、約1.262と分かります。

フラクタル表面は水に濡れるの?濡れないの?

「フラクタル表面はどんな濡れ方をするだろうか」。そう考え始めた恩田さんは、そもそも「固体表面が濡れる」とは、どういうことかと考えを進めました。

固体の表面に水滴のような液滴をのせたとき、それが弾かれる(撥水的になる)のか、濡れ広がる(親水的になる)のかを決めるのは、実は次の図のような、「固体と液体」「固体と周囲の気体」「液体と周囲の気体」の3種類の「界面張力」のバランスであることが知られています。そのバランスを表すのが、「ヤングの式」と呼ばれる式です。

 平らな面における界面張力と接触角の関係を示すヤングの式。接触角θが大きくなるほど、水滴は球形に近づき、固体表面からはじかれる。θが小さくなるほど水滴は潰れて、固体表面をぬらす。

  • 図5. ヤングの式。接触角が90度より小さければ(cosθが正)、水滴は潰れて広がるので、固体表面は親水性。90度より大きければ(cosθが負)、水滴は半球状になって弾かれるので疎水性といえる。

界面張力は、界面上で、ゴム膜のように働く張力(引っ張る力)であると同時に、界面に蓄えられたエネルギーでもあります。これを具体的に計算するときは、「単位面積当たりの界面自由エネルギー」を計算します。つまり、界面の面積あたりのエネルギーを計算するのです。

では、もしこの界面が、実はフラクタル構造だったとしたら、どうなるでしょう?
見た目上、平らなL×Lの正方形の範囲について考えているつもりでも、顕微鏡で拡大して見るとそれがフラクタル構造だったとしたら、微細な凸凹のため表面積は何倍にも増えているはずです。

【★詳しく知りたい人向け!★】 実際、どれくらい表面積は増えるのでしょうか? 先ほどと同じように、このフラクタル表面が「元の図形を1/aに縮めて、b個組み合わせる」という操作を繰り返して作られるとしましょう。

L×Lの正方形について考えれば、元の面積L2Lの2乗に対して、1回の操作をしたあとの面積は、 (L⁄a)^2×b=b/a^2  L^2 となり、元の面積の b/a^2  倍になっています。

これをn回繰り返すと、表面積は (b/a^2 )^n 倍になりますが、この図形のフラクタル次元がDであれば、bをaとDで表して、 (b/a^2 )^n=(a^D/a^2 )^n=a^(n(D-2)) と書くことができます。

あと一息です! n回操作をしたのですから、最小単位のスケールlは、元の正方形のスケールLに対しては、最小単位のスケール l=(1/a)^n L まで小さくなっていますと表せます。これを変形すれば、 a^n=L/l とわかなります。これを先ほどのa^(n(D-2))に代入することによってですから、界面がフラクタル次元Dのフラクタル図形だったとき、表面の表面積は (L/l)^(D-2) 倍になっていると言えることがわかりました。

「あれ? さっきのコッホ曲線のD=1.262…を入れたら、指数がマイナスになる!」と思った人もいるかもしれません。でも、大丈夫。コッホ曲線は線であって面ではないため(次元が2未満のため)、表面積の計算式に代入できるものではないのですできないのです。フラクタル表面の次元Dは2~3の値を取るります(ので、指数はちゃんとプラスになります)。 ちなみに、コッホ曲線に対しては、長さが元の線分に比べて何倍になったかは、かを(L/l)^(D-1) で計算できます。でも、これは表面積の比の計算です。線分の長さの比であれば、指数はD-1になります(もしこれが体積比だったら? そう、D-3になります)。

フラクタル表面でのヤングの式を考えた恩田さんは、「固体と液体」「固体と気体」の2つの界面張力に、フラクタルの形をした表面が与える効果を加えて、式を整理しなおしました。すると、次の図のように式が変形できることがわかったのです。

フラクタル表面に適用できるようにアレンジされたヤング式。

  • 図6. フラクタル版のヤングの式。フラクタル表面の接触角θf(のコサイン)は、平らな表面の接触角θ(のコサイン)に、フラクタル表面の表面積の比(L/l)D-2が掛け算された形になる。

典型的なフラクタル表面のデータを当てはめて、かりにL=100μm、l=1μm、D=2.5と仮定すると、表面積の比(L/l)D-2は10にもなります。

つまり、フラクタル表面では、平らな表面の場合の10倍、接触角θのコサインが正方向に大きくなるか、負の方向に大きくなることになります。それはつまり、固体表面に対する液体のぬれ性(好き嫌い)が、「ぐーっと大きくなるか、ぐーっと小さくなるか、いずれかである」ことを表しています(図7)。

フラクタル表面の濡れの予測結果。フラクタル表面には微細な凹凸があって表面積が大きいため濡れが強調される結果、超撥水や超親水現象が現れる。

  • 図7. フラクタルの効果が加わった場合の水滴の様子

予想が現実になった「結婚式の日」

こうした予想を立てた恩田さん。花王の基礎科学研究所(当時)の所長だった辻井薫さんはその可能性に期待し、当時入社2年目だった四分一敬さんに実験を担当してもらいました。四分一さんは、紙のにじみ防止剤の原料でもあり、融液からの固化時にフラクタル構造を作るアルキルケテンダイマー(AKD)という物質を使って実験を繰り返し、水滴の様子を撮影。

ある日曜日、恩田さんが訪れた同僚の結婚式会場で、四分一さんは撮れたての実験の写真を恩田さんに見せてくれたのです。
「記帳の列に並んでいるときに、その写真を見せてもらって、名前を書き終えるやいなや写真に集中してしまい、ご祝儀袋を渡すのを忘れてしまったんです(笑)」(恩田さん)

最初に撮影されたフラクタル表面上の水滴の写真。水滴は弾かれて、球のような形になっている。

  • 図8. 最初に撮影されたフラクタル表面上の水滴の写真。水滴は弾かれて、球のような形になっている。

ほんの小さな水滴の写真でしたが、たしかに接触角150°を超える超撥水を示していたのです(図8)。 数理科学で予想したことが、現実で確かめられた瞬間でした。さらなる研究によって、花王のグループは世界一の接触角をほこる「超撥水表面」を作ることに成功(図9)。その成果は、液晶や界面の研究で有名なフランスのノーベル物理学賞受賞者、ピエール=ジル・ドゥジェンヌが執筆した教科書『表面張力の物理学─しずく、あわ、みずたま、さざなみの世界─』(吉岡書店)でも紹介され、世界で使われた教科書に「花王」という言葉が載ることになったそうです。

その後、世界一の接触角となった超撥水表面(左)。同じ素材でも平らな表面では水滴は写真右のように半球状になり、フラクタル表面では写真左のように完璧な球に近づく。

  • 図9. その後、世界一の接触角となった超撥水表面(左)。同じ素材でも平らな表面では水滴は写真右のように半球状になり、フラクタル表面では写真左のように完璧な球に近づく。

恩田さんは、最後にこう語ってくれました。
「コンピュータの性能があがり、シミュレーションの精度や速度も上がる中、数理科学が企業の研究開発で占める重要度や活躍する場面は、ますます増えてくるだろうと感じています。

ただ、私自身はコンピュータよりも、紙と鉛筆で勝負するタイプの研究者。問題を解析する力はコンピュータには敵いませんけれども、まだまだコンピュータには、現象の裏側にある本質を見抜き、解き明かすことはできません。

基礎(基盤研究)から応用(商品開発)、コンピュータから紙と鉛筆まで、いろんなタイプの研究者がいる。それがいいんじゃないでしょうか」

私たちの生活を支える日用品や化粧品の向こう側に、思いもかけない形でサイエンスを追究する人たちがいる。そんなことを感じた今回の取材でした。
思い込みやイメージにとらわれず、いろいろな角度から「科学する仕事」の楽しさに触れていきたいですね!

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